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トカレスカ騎士団  作者: 観測者エルネード
第一章:騎士団設立篇
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鼠衆会本拠地を目指して

 エルタの戦い。それは、アニールにとって苦い思い出になった。規律を逸脱する者が出たり、人殺しを躊躇って団を辞する者が出たためだ。

 帰っていく補給の馬車団の中にハザールの背姿を認めながらアニールはエルベンの腕をきゅっと強く握る。

「……アニール」

「済まない。だが色々あったのだ、こうさせてくれ」

 エルベンは何も言わないでアニールの手にそっと彼の手を寄り添わせる。それだけで、ささくれたったアニールの心が幾らか安らぐような感じがした。

「さて」

 メルカ教団のアナクレオニア将軍が探していたアニールの姿を認めるとすぐに歩き寄り、背筋を正す。

「アニール殿。補給も済んだ、本拠地に向かって動く頃では?」

「ああ。……そうしよう」

 アナクレオニア将軍が来たのでエルベンの腕からさっと手を離して将軍の言葉を首肯するアニール。アナクレオニア将軍の観察するような眼差しから逃れたくて、準備があるふりをして彼の目から逃れる。

 やがて準備が整い、騎士団と聖軍が馬車の群れを前に進める。先頭の馬車の中で、未だにアニールは俯いている。

(……仲間になってくれた者が暴徒みたいになったり、志を同じくしてくれたと思った者が離脱するとはな)

 アニールの顔は失望の色に塗れている。皆の前では見せまいとしていただけに、馬車の中ではより一層色濃く顔に出る。

「アニール、顔を上げてくれ」

 隣に座るエルベンが言う。アニールは顔を上げず、乱れた水色の髪が膝上まで届いている。

「顔を上げてくれ」

 再二の要求にも応えないアニール。しびれを切らしたのか、エルベンがやおら立ち上がる。

 そして、アニールの頬を衝撃が襲う。

「騎士団長がそんな面をしてんじゃねえ!!」

 エルベンに殴られた、とアニールが理解するのには少々の時間が必要だった。

「いいか騎士団長、俺たちが旅に出る前から分かってただろう、全てが上手くいくわけないって!!」

「……あ、あ……」

 目の前で怒るエルベンの言葉にアニールは言い返す術を持たなかった。

「———アニール、お前の望みはなんだ?! ここで不貞腐れることか?! 仲間だと思っていた団員に離れられて悲しむことか?!」

「わ、私は、この大陸に秩序を取り戻すんだ!」

「ーーーそうだ! お前は大陸に秩序を取り戻す! だったら、ハザールが離脱したのも団員が暴れてしまったのも、お前がくよくよするには些細なことでしかない!!!」

 ぴしゃりと言われて、何故だか胸にストンと来るものを感じるアニール。自分の手のひらを広げて考える。エルベンの言葉のとおり、さっきまで自分がくよくよしていたことが些細なことだと感じられてくる。大陸に秩序を取り戻す、その偉業の前にはどんな事も霞んで感じられた

「……なあ、エルベン。私って意外と弱かったんだな。エルベンの言う通りの些細なことで心にダメージを受けて、くよくよして……」

 アニールは心が癒えると同時に、自分の弱さに自覚的になっていく。

「……初めて私たちの村を野盗が襲ったあの時に弱い自分とはおさらばしたつもりだったが……、まだ残っていたんだな。ありがとうエルベン、この弱い部分もおさらばするよ」

 そう言って微笑んだアニールの顔は、しかし脆い硝子を思わせる危うさがあった。エルベンは一瞬アニールに何か言おうとして、適切な言葉が見つからなかった。勇猛果敢に見えて実は硝子のように脆いアニールのことをエルベンは静観していることしかできなかった。


 馬車の群れが止まる。鼠衆会本拠地が近い。といっても、アニール達のいる場所からは死角になっていて見えない。

「ーーーこれより点呼を始める!」

 アニールがアルトに習った通りに隊の名を叫ぶ。

「第一分隊!「こちらアルト、全員います!」第二分隊!「応!欠員なし!」第三分隊!……」

 離脱したハザールを除けば、欠けたものはいなかった。アナクレオニア将軍も点呼を終え、アニールとアナクレオニアが面を突き合わせる。

「……ふん、中々の面になったなアニール騎士団長」

「エルベン副団長が気付かせてくれたのでな。……さて、陣はここに張って、攻城の準備をするのだったな。我が方の偵察が砦を見下ろすポイントを知っているから、見に行かぬか」

「是非そうしよう」

 アニールとアナクレオニアは数人の護衛をつけて、近くにあった丘を登る。生い茂る木々の葉を除けながら登った先に、それはあった。

「これが鼠衆会の砦……」

 アニールがぼそりと呟く。ーーー16年前の終焉戦争以前はル・ラール国がエイジリア王国に対する防御の目的で運用していたラツィム砦が、植物のツタに絡まれた姿で鎮座している。今のラツィム砦の主はル・ラール国ではなく鼠衆会である。

「私の生まれはル・ラール国だと師匠から聞きました」

 アニールがぽつりと話し始め、アナクレオニアが耳を傾ける。

「あの砦はかつての私の国を守るためにあった。ーーーそれが今や野盗の拠点にされている。奪還して、本来の役割に戻れるようにしておくべきだ」

「同感だ」

 砦を見たアニールとアナクレオニアが丘を降りる。そして、戦の準備を命じた。

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