卓上の予行演習、開戦への騎行
ディルオワ村の人々は防具をトカレスカ騎士団に卸し終えるとすぐさま帰っていった。それからアニール達は伝令の報告を基にアルトやトルバ、エルベン、大司教キティルなどと作戦会議を重ねる。
「———少し整理をいいですかな、アニール殿?」
「ああ、そうだな。ここいらで情報を纏めるか」
会議が白熱して収まりがつきそうになくなったところでキティルが制する。アニールはそれを許して卓上に広げられた地図と駒を整理する。
「まず、私たちの位置はここ、メドゥーエク。対する鼠衆会の本拠地はここから北の山脈地帯の谷にある。その東と西にそれぞれ鼠衆会に支配されている村があるのは前にも確認したな。このうち東の方の村にまずトカレスカ騎士団とメルカ聖軍の合わせて200人の軍隊で圧力をかける。敵の本拠地と東の村をつなぐ道の近くにまず陣取って交流をなるべく絶ち、敵を釣り出す作戦に出る。この道の前に陣取る我々は工事を施し、時が経つごとに前線に強力な拠点が築き上がるようにする。緒戦はこの出だしでいく」
「アニール、私から補足しよう。鼠衆会の全体の質としてはかなり粗悪で連携のれの字もない。策で弄するにはうってつけの相手だが、この街でも戦ったバルド・ゴルディアの一団が策略の面で厄介だ。更に、調査によって本拠地にはかつての十傑、『天降る光のライティア』が鼠衆会の一員として居ることが判別している」
アルトの指が敵の本拠地にいるとされる駒を指し示す。かつての戦争を始めた凶因のひとつである、かつての十傑の名を聞いてトルバの肩が震える。
「『天降る光のライティア』については、出現しだいトルバが対応にかかる予定だ。こればかりはトルバが勝つことを祈るしかない。———話を戻すが」
卓上の駒を動かして、アニールが続ける。
「我々は東の方の村の外から村人に蜂起を呼び掛けて内情を不安定にさせたり、散発的な遊撃でここの50人くらいの野盗をいくらか釣り出す。あとは機を見て総員攻撃、この村を解放する。そしたら次は敵の本拠地へと進軍する。ここまではトカレスカ騎士団とメルカ聖軍の損耗は軽微の想定で行く」
「でも、本拠地には300人くらいの敵がいるのでしょう。いくら連携が粗悪だとしても私には本拠地を破れるイメージがつきません」
キティルの言葉に首を横にふるアニール。アニールは駒を並べなおして、視覚的にキティルを導く。
「このあたりの地形は険しい。それは裏を返せば、本拠地にあるとされるバリスタなどの防衛設備の攻撃から身を隠す場所がいくつかあることだ。私たちはここら辺に身を隠しながらデボのほか数人かの洞魔族の協力を得て地中を掘る作戦にでる。作戦目標はあくまで城塞となっている本拠地を地中から破壊することだ。そのほかは、簡易的なトレビュシェットを現地で組み立てて投擲し、敵の不安を煽る。流石に本物のトレビュシェットのような破壊力にはならないが、心理的な効果は大きいだろう」
「地中にトンネルを掘る際、敵が我々に気づいてトンネルを掘り返してくることも想定される。その時は予めトンネル内に罠をしかけて追撃してくる敵を簡単に葬れるようにする。ーーートンネル内で戦闘ともなれば、狭さで敵の数の利が活かせないだろうから、万が一戦闘になったらレイザを初めとした少数精鋭で戦うこと」
「疑問ですが、本拠地の方から300人の兵が打って出てきたらどうするつもりです?」
アニールとアルトが説明を重ねる間にまたもやキティルが疑問を投げかける。
「位置にもよるけど、このメドゥーエク街から鼠衆会の本拠地までの道には少人数しか通れなさそうな地形が多い。険しくてもいいなら多人数で通れる道はあるが、リスクが高すぎる。ーーー我々が通るのは狭い道だ。万が一鼠衆会が打って出てくるなら、我々はあくまで狭い道を活用して少数精鋭で撤退戦をする。……本格的に進軍する前にあちこちに細工を施しておかないとな」
「そうですか。西の村の30人の野盗がメドゥーエク街を目指したなら?」
「……その時はメドゥーエク街の人々に頑張って貰うしかない。幸いにしてメドゥーエク街のバリスタなどの防御設備は間に合ったし、30人程度で崩れ落ちる防壁ではないから利はこっちにある」
「そうか……」
アニールに全てを答えられたキティルは壁に背を預け、作戦会議を見守ることにする。
「偵察やピンポイントでの奇襲はユーアちゃんにやってもらう。……だから、矢が届かないところまで飛べる?」
宝石のように紅い目が天使の方を向く。重い期待の眼差しを向けられたユーアは脳内で戦の様子をシミュレーションし、目の前の騎士団長に向き合う。
「ーーー飛びます。戦場のどこへも」
水にとかす前の絵の具のように明るい目が決意を伝える。頷いたアニールは辺りの人々の顔を見、それぞれが決意と覚悟に満ち溢れているのを確かめた。その後もいくつか会議を重ね、トカレスカ騎士団はだいたいの作戦を固めた。
「よし。では書状を教皇ハタルアに送ってくれまいか、キティル大司教」
「承った。ーーー教皇ハタルアからの返事が是であれば、すぐに作戦が始まろう」
二週間後に教皇ハタルアから届いた書状には、『了解』の二文字が書かれていた。それを読み上げたのは、兜と心臓の胸当、両腕が動きやすいように調整された腕甲に身をまとったアニールである。
「ーーーでは作戦は始まった。行くぞ、皆のもの!!」
アニールが叫ぶと、アニールと同じく防具に身をまとった団員の全員も同じく叫んだ。
「「「応!!!」」」




