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トカレスカ騎士団  作者: 観測者エルネード
第一章:騎士団設立篇
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トカレスカ騎士団

「まさか、ユーア氏が天使だとは……」


 騎士団結成の誓いの後、ユーアは自らのフードを脱いでレイザに翼を露わにしたのだ。騎士団が天使差別も区別もせずにを仲間にしていたという事実にレイザは自らの顔を手で覆っている。


「こんなことなら、もっと早くから信じていれば良かった」

「だから言ったでしょう、この人たちは大丈夫だって」


 落ち込むレイザにユーアが追い打ちをかける。


「なあ、騎士団の代表と名前はどうするんだ?」


 エルベンが素朴な疑問を口にする。その場の全員の動きが止まり、アニールに視線を向ける。


「代表はアニールさんで決まりでしょ?」


 ユーアがそう言って、アニール以外の全員が頷く。


「名前は……うーん……」

「差し当たり、トカレスカ騎士団でいいのではないかな。ソルドラス大陸の歴史上、代表の名前を冠した騎士団は少なくない。その歴史にならおう」


 名前に悩むユーアにアルトがそう答える。


「トカレスカ? 私の名前でいくの? えぇ?」


 アニールが悩ましい顔をするが、彼女以外の全員がまたもや頷く。


「……なら、トカレスカ騎士団でいっかあ……」


 その時、玄関をアルメジアがノックして開ける。それにエルベンが応える。


「皆さん、町の人々がお祝いの準備ができたそうです」

「そうか。みんな、お祝いだそうだ。行くぞ」


 ユーアが再びフードで翼を隠し、騎士団の皆が建物を出る。その途中でアニールがアルメジアに呼び止められる。


「あの、貴女は申し訳ありませんが何かフードとか、お召し物を……」

「……この火傷の容姿のせいか?」

「ええ。この町の人はまだあなたのお姿をあまり見ていないので、今行けばきっと驚かれます。特に迷信深い方が何名かいて、きっと預言者フギニの伝承に結びつけて騒ぎになると思うので何かでお隠しになったほうが……」


 アルメジアの提案にアニールが手を顎に当てて考える。ややして、アニールは再び歩き始める。火傷痕を隠さずに。


「アニール様! 隠さないおつもりですか?」

「私の顔は覚えてもらわなければ意味がない。これからソルドラス大陸を秩序の下に平定する者として存在感を発揮させなければならない。……その為には驚かれても仕方ないことだ」

「……分かりました」


 アルメジアはアニールを止める手が空振り、アニールの後ろをただついていくだけだった。




 町の広場に天幕が張られ、その下に様々な美味しそうな匂いが充満している。焼けた肉のコゲの匂い、黄色いフルーツの酸っぱい匂い、練った小麦粉の黄金色に焼けた匂い……。天幕の内には八つの席が半円状に並べられ、半円の卓の上に色とりどりの料理が並べられている。

 町を救った八人が席についた時はじめて、町の人々が息を呑んだ。ーーー真中に座したアニール・トカレスカの半身の火傷痕に怯えたのだ。そして、怯える町人をも、アニールの眼は捉えている。

 町の人々が群がる前をひとりの年配の男、町長ナルグが進み出る。


「私たちの町を救ってくれてありがとう。これは私たちからのーーー」

「フギニが預言した悪魔だ!」


 町長ナルグがアニール達を讃えようとした言葉を遮って、大きなヤジの声が飛ぶ。アニールの身体が一瞬固まり、エルベンとイヴイレスが立ち上がる。少し遅れてアニール以外の騎士団の全員が立ち上がる。


「今日は町解放の記念に祭りがあると聞いて来たんだが、人々を貶すのが行事の町だったか?」


 皮肉たっぷりの言葉を舌に乗せてイヴイレスが放つ。エルベンは怒りに青筋を立てて人々に向き合う。


「伝承はただの伝承だ。お前達の信じる神は何だ。伝承が神を邪神扱いしたらお前たちもそうするのか?!」


 息を荒げる二人の間でアニールが立つ。そして自らの火傷痕をなぞる。


「……この火傷痕は、私が赤子の頃にヴェールの兵が放った炎で焼かれた痕だ。皆さんの記憶にも忌まわしいであろう戦争のせいで私はこの痕を一生背負うことになった。私は、誰かが死んだり私のような傷を負わないために騎士団を作って秩序を齎したい」


 アニールが半円のテーブルをぐるりと回って人々に近づく。


「伝承の悪魔だと罵られようとも、一生果たせぬ身の程を外れた夢だと笑われようとも、私は秩序の建立のために進み続ける! ーーー皆さんも、平和な方がいいでしょ?」


 アニールが近づくにつれて、人々の身体が固まっていく。悪魔が近づいたからではない。力のある声が人々の耳を通って脳と心を震わせているのだ。


「ーーー私の理想は、秩序が行き渡った争いの無い平和なソルドラス大陸!!! 異なる種族も異なる国々も互いに手を取り合い、共に未来に向かえる世界を創る!!」


 その一言とともに、アニールの全身から一種のオーラが放たれたように人々には見えた。アニールが左半身の火傷痕を負っていることなど、今となっては人々にとって問題にならなかった。ーーー雲が偶然太陽の前を遮り、雲の小さな穴からできた光の柱がアニールに降り注ぐ。


「皆さん、私たちは長い旅をしました。そして、ここから活動を始めようと思いました。どうか、私たちを受け入れてはくださいませんか?」


 アニールが頭を下げ、懇願する。アニールの演説にすっかり麻痺してしまった人々は徐々に心を取り戻し、互いに目を合わせる。


「な……なあ、いいんじゃあねえのか?」

「た、助けてもらったしな!」

「まあ伝承なんて眉唾だよな」

「ここにいてくれればまた野盗に襲われなくなるしいいか」


 人々が再びどよめき始める。そのどよめきは、受容に満ちている。そのさまを見て、アニールはにっこりと微笑んだ。

 しばらくして、町長ナルグが人々の意見をまとめて報告する。


「我々の総意は、あなたたち騎士団をこの町で活動することを認める。あなたたちはもはやティール港町の一員だ」


 ほっ、と胸を撫で下ろす騎士団一同。イヴイレスが手を握り、エルベンが拳を天高く突き出す。


「ーーーでは、共に手を重ねましょう」


 町長ナルグとアニール・トカレスカの手が重なる。


 ここにトカレスカ騎士団は成ったのだ。



 

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