1
「あーあ、やばい暇だな」
俺はとにかく暇だった。
現在高校一年の冬休み。
将来を見据えるにはまだ早く、今のうちに青春を楽しんでおきたい年頃。
でも俺には特段やりたいことなどはなかった。
部活にも入っていないし、趣味も漫画や小説を読むくらいのものだ。それだけでも楽しいことは楽しいが、それで人生を終えていいのかと言われればそうではない気がする。
「まぁこんなものなのかなぁ」
結局求め過ぎるのもよくないのかもしれない。
誰しもがおとぎ話のヒーローのような壮大な人生を送れるわけではないということだ。
自分の身の丈にあった生活を送る。
それが平和に、幸せに暮らしていく為に必要な条件なのかもしれない……けれど。
それでも何か大きなことが起きないかなと、どこか漠然と考えてしまう自分がいたのだった。
「はぁ、まあいいや。レボ魔女の続きでも読むかなー」
俺が読みかけの最新刊の漫画に手をのばすのと、窓の外が黄色く発光するのはほぼ同時だった。
「……え?」
光はだんだんと強まっていき、やがて目も開けられないくらいに視界を覆い尽くす。
な、なんだこれは……
そんな考えを最後に、俺の意識は光に呑まれていった。
「あれ……ここは」
「ほほ、目覚めたかの」
目が覚めれば俺は白い空間にいた。
床も壁も天井も、全てが白い。
そしてそんな中に一人の老人が佇んでいた。
白い髭を蓄えた、優しそうな男だ。
頭にはなぜか天使の輪っかが浮かんでいる。
「あなたは……」
「ワシか? ワシは神じゃな。まぁひとまず色々気になることはあるじゃろうが、もとより全部説明する予定じゃ、安心してよいぞ」
神……だって?
神っていうとあの神? 全知全能の? 本当に実在したというわけか? いや、そもそもこの状況が訳が分からないぞ。
「僕は確か自分の部屋にいたはずですが……」
「うむ、それなんじゃがな。実はお主は死んだのじゃ」
「……え?」
俺が死んだだと?
「まぁ一瞬のことじゃったからな、覚えておらんかもしれんが、上空から飛来した小型隕石が丁度お主の家めがけて突っ込んできたのじゃ」
「そ、そんなバカな」
と思ったが、ここで思い出した。そう言えば部屋にいて最後に意識を失う直前、部屋の外がやけに明るく輝いていた。もしかすると、あれが隕石が激突する前触れだったということなのか。
「僕の家族とかは」
「それは心配いらん、丁度全員外出しておったからの」
そう言えばそうだった。俺には父母姉の三人の同居人がいるのだが、時刻は昼時で丁度それぞれが用事で出かけていたはずだ。
「でもにわかには信じられません……隕石って、どんな確率なんだって話ですし……それに僕はこうして喋れてます」
「まぁ死ぬほど付いてなかったということじゃの。神的統計術によれば、地球に降ってきた任意の隕石が人間に直撃する確率は約二百万分の一と出ておる。天文学的確率をすり抜けて直撃したというわけじゃな。それとお主が喋っておるのは、ワシがお主の魂を元に仮の肉体を創り出しておるからに過ぎん。どうしても信じられんというのなら、これでどうじゃ」
男がそういうや否や、突如として俺の右手がなくなった。
「え!?」
触ってみる。
すると右手のあった場所に、しっかり右手がついてる感覚があった。
つまり右手は消えたわけではなく、透明になっているのだ。
「驚いたかの、一部の材質を変化させてみたのじゃ。ワシが創ったのじゃから、壊すも変えるもワシの思うままというわけじゃの。どうじゃ、信じたか?」
これを見せられて信じないという者はいないだろう。
そもそもこんな真っ白な不思議な空間自体が普通じゃない。
そんな中で唯一いるのがこの人物なのだから、嫌でも頼るしかないというものだろう。鼻から選択肢はなかったのだ。
「ここまでされてはぐうの音も出ません。ひとまず信じます。でもどうして僕はこんなところにいるのでしょう?」
「ふむ、それなんじゃがな、実はお主に一つ頼み事をしたいと思うてのう。死んで天国へ行くはずのお主をここに呼び止めたんじゃ」
「頼み事……? 天国……?」
「ふむ、普通は死んだ者の魂は肉体から乖離し、天国へと上りそこで処理される。しかし神であればその魂をキャッチし、思い通りに扱うことが可能というわけじゃ。因みにここはワシが適当に作り出した空間で、特に意味があるというわけではない」
「なるほど」
それでこんなにシンプルなデザインだったのか。どうせならもっと華やかさとかあって良かったんじゃないか。
「そして肝心な頼み事なんじゃがな。お主には異世界に転生して貰いたいのじゃ」
「異世界、ですか?」
これまた突拍子もないワードが飛び込んできた。
「うむ、剣と魔法の支配する世界じゃ。人間以外にも様々な知性ある生物が暮らしておる」
「地球とは違う場所ってことですよね?」
「そうじゃな、まぁお主らからすれば普通に生きておれば他の世界について認識する機会なんかないじゃろうからな、初耳でもおかしくはないじゃろう。ただ世の中には地球以外にも色んな世界があるのじゃ。数えればキリがないほどにな」
「はぁ」
そういうものなのか。神様がそうというのだからそうなのだろう。そもそも宇宙の果ても知らないのだから何があってもおかしくはない気もするが。
「それでその世界なのじゃがな、実は現在とある問題が発生しておっての。少しややこしいがそれを詳しく話していこうと思うのじゃが」
なにやら入り組んだ事情がありそうだったので、俺はひとまず話を聞くことにした。




