国は天才博士に濡れ衣を着せた
私はゾンビハンター、ゾンビが闊歩する世界を渡り歩き、国がゾンビ菌を蔓延させた濡れ衣を着せた博士の罪を贖う為にゾンビを倒し続けている。
私は警察官だった、その時の事を話そう。
天才と言われた博士の研究所に踏み込んだ私が指揮する警官隊が見たのは、頭を撃ち抜き自殺した博士の遺体とモニターに貼られた「見ろ」と書かれた紙だった。
研究所内の捜索を部下たちに任せ、私はモニターの前に座り電源を入れる。
画面に博士が映り語り始めた。
『ヤア、この動画を見ていると言う事は此処に入って来たって事だね。
警察の方かな? まあそんな事はどうでも良いか。
私はとんでも無い物を作り出してしまった。
私は死んだ妻や娘たちともう一度言葉を交え抱擁したかっただけなのに。
蘇生菌を死者の身体に注入すると起き上がり動き始める。
だがそれは生者を襲い生者の肉体を食べる為だったのだ。
それを知り私は研究所を封鎖して自殺する事にした。
だがその前にやらなければならない事がある。
蘇生菌を注入してしまった妻や娘たちを永遠の眠りに戻す事だ。
しかし私には妻や娘たちの頭を撃ち抜く事が出来なかった
愛する者たちの皮を被った化け物だと分かっていても、倒す事なんて出来ない。
だからこの動画を見ている貴方に頼みたい、妻や娘たちに永遠の死を与えて欲しいのだ。
脳幹を破壊すれば動く死者は永遠の眠りにつく。
妻と娘たちがいるのは……』
パーン! パーン!
「此奴等撃っても倒れないぞ!」
突然階下から銃声と怒号が響く。
「退け! これで撃つ」
ドォーン!
「ば、化け物だ! ショットガンで腹に大穴が開いているのに痛がりもせず、死なないなんて」
「ワァー掴みかかって来たー、痛ーい! 噛むなー!」
「此奴等、人の肉を食ってるぞ」
このとき噛まれた部下たちが搬送された病院が、ゾンビ菌を蔓延させた最初の場所なのだ。
博士は自分が作り出したゾンビ菌を抹殺しようとしていた。
動画で博士は感染ルートなどゾンビ菌に対する注意事項を述べている。
その事を警察上層部や国のお偉い奴等にDVDを渡し話したが、奴等は警察や国のメンツを保つため、死人に口無しと博士がゾンビ菌を蔓延させた張本人だとして犯人に仕立て上げたのだ。
何時か博士の濡れ衣が晴らされる事を願い、今話した事を録音したスマホを隠れ家にしていた家のテーブルの上に置く。
次のゾンビが多数徘徊している場所を目指し、ゾンビハンターの私は装備を整え隠れ家を後にした。