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96 アンコンと書類審査の結果

 月曜日の放課後。

 生徒会は演劇の衣装小道具作りで終わり、途中参加したオケ部も定期演奏会後だからか合奏もなくパート練習に明け暮れていた。


「アンコンの曲、まだ斎藤くんから発表ないねー」


 鈴置さんが弓を弾くとぽつりと言う。


 私は弓を弦から離すと、ヴァイオリンに乗せた顎を離した。


「つい一昨日、定期演奏会が終わったばかりだもん、あいつにも休憩の概念があるんでしょ」


 私はそう言うが、実際にはゲームの都合だと知っている。

 これが現実世界だったならば、吹奏楽部は夏のコンクールが終わったすぐあとからアンサンブルコンテストや定期演奏会の曲を決めて練習に励んでいるだろう。

 キーネンだっていつもは即断即決男なのだ。いつまでも曲を決められないなどあり得ない。

 しかし、元がゲームであるこの世界では、私というイレギュラーがいなければ世界は進行通りに進むはずなのだ。だからキーネンは放っておけばゲーム通りに編成と曲を10月まで決められないことになる。


 私がなにかしらの干渉をすればそれも変わることがあるかもしれない。

 だがしかし、目下のところサウジアラビアにおける短期夏季留学が最大の難所だ。

 オケ部の趨勢について考えている場合ではない。


 そんな事を考えながら練習していると部活は終わった。

 そして私は瀬尾さんに呼び止められる。


「香月さん! 例の結果が出たらしいです!」

「例のって言うと……」

「はい! 事務所所属オーディションの書類審査です」

「でも私のところへはまだ書類来てないよ?」

「私も母からメッセージで聞いただけで、まだ中は確認してないんです。

 ポスト投函だったらしいので、近所の香月さん()にも届いているかと……!

 良ければ今日一緒に開封しましょう!」


 瀬尾さんが鼻息荒く誘ってくる。

 第一志望の事務所と聞いてる。よほど気になるのだろう。


「うん。おっけー。じゃあ(ウチ)くる?」

「はい! お邪魔します!!」


 神奈川さんには悪いけど、今日のこれからの予定は決まった。

 キーネン()へ行くのはまた明日だ。

 部活を終えた私と瀬尾さんは雨の中、二人で家路を急いだ。




   ∬




「ごめんください。香月さんはいらっしゃいますか?」


 インターホンが鳴り、出ると瀬尾さんがやってきていた。


「やっほ瀬尾さん。今開けるね」

「はい……!」


 瀬尾さんを迎えに玄関に出る。

 そして帰った時に玄関脇においておいた緑色の封筒を瀬尾さんに見せる。


「これだよね? 瀬尾さん」


 株式会社アクセルペダルと書かれた封筒を掲げると、瀬尾さんが「はい……間違いありません!」とこくりと頷いた。


「そっか。一先ず届いていて良かったよ。あがってあがって~」

「はい。お邪魔しまーす」


 瀬尾さんを居間に通し、私たちは二人して封筒へ向かい合った。

 2通の封筒がテーブルの上に置かれている。


「じゃ、どうしよっか。まず私の開けてみる?」

「はい……いいえ、やっぱり同時に開けましょう!」

「おっけー。じゃあいくよ!」


 私の合図で封筒を開く私達。

 そして、


“厳正なる審査の結果二次審査へお進み頂くことになりました。

 つきましては、下記の日時場所にて二次審査が行われます”


「私は二次審査だってさ! 瀬尾さんは?」

「はい……! 私も一次審査通貨しました!! 良かったー」


 瀬尾さんは胸に手を当てると「はぁー」と息を漏らした。

 よほど緊張していたのだろう。


「これで二人共7月末のオーディション参加だね! 私も瀬尾さんの付き添いが出来てよかったよ!」

「はい……私も一人で受けに行くんじゃなくて本当に良かったです」


 まぁ私が受かったのはまぐれみたいなものだからともかく、瀬尾さんを落としていたらこの事務所に文句の一つくらい言いに行ってやりたい気分だった。

 しかし、なんにせよ瀬尾さんが一次審査合格を勝ち取れたのだから問題はない。

 このまま彼女には声優になって大活躍してもらおう。

 なにせ私の推しの声なのだから!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 付き合いで受けて自分だけ合格する一番気まずい奴にならなくてよかったw [気になる点] ゲームやアニメの世界って当然主要人物は声いい訳だけど、声優って成立するのかな?
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