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94 定期演奏会の編成

 日曜日。修学旅行が終わったそばから私は土曜に続き、特別契約で朝からオケ部の練習に顔を出していた。本当ならば旅行の疲れを癒やすための土日を、練習に当てなければならないのは正直言ってしんどかった。後輩たちに買ってきたお土産のお菓子を配って喜ばれたのは良かったんだけどね!


 指揮台の上ではキーネンが、再来週の土曜に行われる定期演奏会の編成を発表している。


「では、以上の編成で再来週の定期演奏会に望むこととする。本日の練習は以上だ」


 キーネンが編成の発表を終えた。


 チューバは豪徳寺が射止めた。黒瀬は定期演奏会中はサポートに回ることとなった。

 あのでかい図体で受付とかやってたらそれはそれで面白いと思う。

 浅神はこの短期間ながら2ndトロンボーンの座を射止めていた。

 さすがはオールラウンダーだと言わざるを得ない。

 皇の奴はと言えば、気に食わないけど私と同じヴァイオリン1をすることなった。

 本番でとちればいいのに……。


 私が舌でも出してやりたい気分で忌々しげに思っていると、隣りにいた鈴置さんが私に声をかけてきた。


「香月さん……顔に出てるってば」

「え!? 嘘マジで?」

「うん。そんなに皇くんの事嫌い?」


 見事に心情を言い当てられてしまい、どう答えたものか……。

 皇のやつはちょうど楽器室へ消えていった。

 ならば言ってもいいだろう。


「嫌い……って言うよりかは大っ嫌いっていうのが正しいかな」

「アハハそっかそっか! あれでも学校じゃ人気上位に入る男子なんだけどね。

 香月さんの目にはそうは映らないか」

「映らないどころか、目に映したくないね」

「クハハ!」


 私の言い分を聞いて、鈴置さんは笑いを堪えきれなかったようだ。


「そういう鈴置さんはどうなの?」

「うーん。皇財閥の御曹司だし、悪くないんじゃないかって思ってたんだけどね。

 なんか香月さんにしてる態度見てると子供っぽさがね……」

「ほんそれ! あいつ気取ってるけど基本ガキなんだよね~。

 さすが鈴置さん分かってるぅ~」


 私がそう言って軽く弦を弾くと、鈴置さんは笑った。

 すると瀬尾さん、ひつぐちゃん、守華さん、神奈川さんが集まってきた。


「なにを笑ってるの?」


 守華さんの問いに、鈴置さんが「あーいや皇くんの話なんだけどね」と言って切り出す。


 話を聞いた守華さんが「まぁ彼にはそういうとこあるかもね……フフ」と同じく笑い出した。

ひつぐちゃんは「私は同じクラスだけどあんまり……」と皇にあまり興味が無いらしい。瀬尾さんは「香月さんに迷惑かけるなんて許せません!」と憤慨してくれている。神奈川さんは「皇くんってそうなんだ……!」と驚く様子を見せる。


「でも結局あれって香月さんが気になるってのが真意なんでしょ?」


 鈴置さんが残念なものでも見るかのような目で楽器室の方を見る。


「まぁそうなんじゃないの? 私は知らないし興味ないよ」


 私がそう答えると、5人は大きな声で笑った。




   ∬




 月曜日。9月に行われる学園祭に向けての準備が本格化してきた。

 私と水無月さん、そして守華さんの3人は8月頭からサウジに短期留学する。

 だから休み中の演劇の練習はできない。

 それ故にか、衣装作りや各種小道具作りを早くも進めることになった。


「水無月さん、これももちゃんに渡して貰える?」


 生徒会が始まってすぐ、私は思いついて学業成就のお守りを鞄から取り出して渡す。


「あら、お守り……どこのかしら?」

「北野天満宮のだよ」

「そう……私も沖縄でお守りをいくつも買おうとしたのだけれど、ちょうど売り切れていたりで1個しか買えなかったわ。2個買えるなんて幸運ね香月さん」

「え? そうなの? 霜崎も買ってたから3個以上在庫はあったと思うけど……」


 きっと水無月さんが行く沖縄の神社では必ずそうなってしまうのだろう。

 でも私が行ったのは北野天満宮だから、そうはならなかった。

 沖縄の神社のじゃないから意味がないとは思いたくはない。


 生徒会では、まず衣装の型紙を書く為に採寸をすることになった。


「香月さん、もう衣装を作ってしまうのだから太ったら終わりよ?」


 水無月さんが型紙の為の採寸をしながら茶化してくる。


「分かってるってば! 修学旅行じゃかなり食い倒れちゃったからね!

 サウジでは出来るだけ少食に努めるよ」

「お肉が出なかったりで、むしろ痩せたりするんじゃないかしら?」


 守華さんが思いついたかのように言うが、水無月さんが「ハラールのお肉……牛や鶏肉なら普通に出るんじゃないかしら」と間違いを訂正する。


「ハラールのお肉……?」


 私が訳も分からず不思議そうな表情をしていたからか、水無月さんが「イスラム教で食べるのを許されたお肉のことよ」と簡単に教えてくれた。


「へぇーお肉普通に出るんだね」

「えぇ……現地には大手バーガーショップもあるくらいだから」


 水無月さんがそう教えてくれ、食については安心感が芽生える。


 そんな話をしながら、私達は衣装小道具作りを進めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皇は気になる異性への接し方が小学生並みだからなぁ、家の力はあるから悪役貴族みたいになるしw ゲーム特有のアイテム一個しか買えない奴!現実だったらクソ不便だよねアレ
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