93 修学旅行
私は新幹線で関西へ。
そして、1日目は京都で神社仏閣巡り、2日目は大阪の飲食店を回って食い倒れ、そして3日目となる今日、再び京都へと戻って予定の最後に北野天満宮へとやってきていた。
学業成就のお守りを買うと、私はぐっとガッツポーズをした。
ゲームであれば学業成就のお守りは知力のパラメーター上昇に補正がかかるラッキーアイテムだ。
水無月さんが行く沖縄の神社ではないけれど、きっとこの現実のような乙女ゲー世界では意味があるに違いない。
来年度はAクラスにあがって、桜屋さん達とAクラスで優雅に過ごすのも悪くないと思った。
他にも芸術のお守りや縁結びのお守りなどが揃っていて、ゲームではそれぞれ意味はきちんとあったが1種類のみしか購入できない仕様だった。
しかし今の私にとってオケ部やましてや縁結びなんて何の役にも立たない。
買うだけ無駄と言うものである。
「さて、お守りも買ったしみんなに合流しなきゃ」
すぐそこで待たせている同班の女生徒に合流しなければとそう呟いた時だった。
「おぉ……香月じゃん。それ学業成就のお守り?」
と男から声をかけられた。
「げぇ……し、霜崎……」
「なんだよその目……俺がここに居ちゃ悪いってのか?」
霜崎は恥ずかしがるような素振りを見せる。
「いや……別に悪いってわけじゃ……」
「……まぁいいさ。弟が今年統制の受験なんだ。
だからお守りの一つでも買って帰ってやろうと思ってさ。
班の皆に無理を言って北野天満宮を強引に最後の予定に押し込んだってわけ」
「そ、そう……じゃあ私行くから!」
私はそれだけ聞いてさっさと班の皆に合流しようと動いたのだが、
「ちょっと待てよ……! 香月のお守りどれにした? 800円のやつ? それとも桐箱入りの2500円のがいいのかな?」
霜崎に右腕を掴まれてしまった。
「さぁ……私は箱なんて要らないから800円のにしたけど」
「そっか……それもそうかもな」
「……離して貰って良い?」
「あぁ……ごめん」
そうして霜崎に腕を離させて、ようやく私は同じ班のみんなに合流した。
「香月さんお守りはいいの?」
「うん……」
「そっか。ねぇ、あれ霜崎くんでしょ? なに話してたの?」
疑うような目線を寄越すオケ部女子達。
しかし私は霜崎に何の興味もない。
「さぁ……弟にお守りを買ってやるんだってさ」
「へぇ……霜崎君弟さんがいるんだ?」
「そうみたい、統制を受験するらしいよ」
「へー! 私ちょっと年下の霜崎君似の子なら興味あるかもー」
「ちょっとヤダ、年下狙いなのー?」
と話題は霜崎弟のものとなってしまった。
ももちゃんに一目惚れするらしいからたぶん皆には関係ないよ、と言いたいところだったがグッと堪えた。
「あ、そうだった!」
「え? どうしたの香月さん」
「ごめん、私もう一個お守り買わなきゃなのを失念してた」
私はももちゃんに学業成就のお守りを買ってあげようと思った。
きっと効果はあるのだから、ももちゃんにお守りを買ってあげないのはなんだか忍びない。
「ちょっともう一回行ってくるね!」
「うん、わかったー」
班の皆に別れを告げ、私は再びお守りの販売所に足を運んだ。
すると、霜崎がまだどのお守りにするかで悩んでいた。
「霜崎、悩んでるなら先いい?」
「あぁ……香月? いいけど、まだ何か買うのかよ?」
「うんまぁね。さっきのは自分用だったんだけど、私にも知り合いで統制受験する子がいたのを思い出して……その子にもお守り買って行ってあげないとってさ」
「へぇ、香月の知り合いか……」
私は受付の巫女さんに「学業成就のお守りもう一つください!」と言うと、千円札を出した。
「はい、こちら学業成就のお守りになります」
巫女さんからお守りとお釣りを受け取り、私はももちゃんの分のお守りをゲットした。
「おし、俺も香月と同じ奴にするわ……箱なんてあっても意味ないだろうしな」
霜崎が私同様に学業成就のお守りを購入する。
私はそれを横目に、班のみんなへと再び合流した。
カフェテリアメンバーのいない修学旅行は寂しくはあったけど、オケ部の子達のおかげでそれなりに楽しめた。
あとは東京へ帰るのみだ。




