88 修学旅行の話と定期演奏会の話
水曜日。本日最後の授業としてオリエンテーションのミサを終えた私達。
その後のホームルームでは修学旅行の班分けの話題となった。
今年の旅行地は私のクラスは関西で決定している。
私が転校してくる前から関西行きは決まっていたので、例え水無月さんであっても変更は不可能だ。
多数決の結果。班分けは自由に誘い合う形で四人一組が作られる事となった。
私は同じクラスの霜崎の動向を窺う。
さすがに人気のある霜崎だ。何人かに話しかけられている。
私は決して霜崎と同じ班にならないよう注意していた。
するとオケ部の同じくモブ子である女の子達に誘われた。
お昼は私がいつもカフェエリアで水無月さん達と食べるのが分かってから誘ってこなくなっていたけど、根気よくこうやって何度も誘ってくれる子達で有り難い話だ。
私はその子達の提案を受けることにした。
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放課後となり私は生徒会室へと向かった。
中に入ると、水無月さんがいた。
「やっほ水無月さん。修学旅行どうなった?」
「修学旅行はうちは沖縄に決まっているわ」
「へぇー沖縄。いいじゃんうちなんて関西だよ? 神社仏閣巡りなんて中学で飽き飽きだよ。
それにカフェテリアメンバー誰もうちのクラスにいないしね!」
私が愚痴を漏らすと、水無月さんが「みんなで同じ場所へ行ければよかったのだけれど……」と応じる。
「まぁ水無月さんも同じクラスのイヴンや伊勢谷とお近づきにならないよう気をつけて!」
「えぇ……そうね。気をつけるわ」
私と水無月さんが修学旅行におけるイケメン達の動向を話していると、守華さんたちがやってきた。
「やっほ守華さん。修学旅行の班分けやった?」
「えぇ……私は桜屋さんとひつぐともう一人女子って編成になったわ」
「おぉーカフェテリアメンツ二人もいて羨ましい! いいなー」
私がひとしきり守華さんを羨むと、佐籐が忌々しそうな目で守華さんを見ていることに気付いた。きっとひつぐちゃんと同じ班になりたかったんだろう。つくづく気持ち悪いシスコン野郎だ。
「で、Aクラスはどこ行くんだっけ?」
私が行く先を問う。
「私達は北海道よ」
「北海道! 海の幸美味しそうでいいなぁ」
「えぇそうね。できるだけ食い倒れるつもり……!」
守華さんが桜屋さんとひつぐちゃんを連れて食い倒れる様子を想像して笑ってしまう。
「それじゃあ、みんな揃ったところで本日の生徒会を始めたいと思います」
守華さんが宣言し、生徒会が始まった。
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生徒会を終えた私はオケ部へ参加することにした。
6月にやる定期演奏会も近づいてきたし、練習は本格化している。
さすがにサボるわけにはいかなかった。
私が生徒会を終えて参加した時にはパート練習は終わり、合奏の運びとなった。
キーネンが指揮台でいつものように指揮を執る。
「V1、56小節目の出だしが遅いぞ。もう一回だ」
「はい!」
淡々と軍隊のように返事をして練習を続ける。
「Tp1、ここのフォルテッシモはもっと力強く!」
「はい!」
そうして練習が終わり、私はキーネンに何故か呼び出された。
「V1。最近のオケ部はどうだ?」
「どうって言われても……何が言いたいの?」
「パート練習はお前に配慮して男女別に分けてはいる。だが、男子3名が新たにオケ部に加わり、どういうわけかその全員がお前の知り合いらしいじゃないかV1」
「それは……」
私とて分かってはいる。
キーネンへの恩義でオケ部に加わったであろう浅神を除けば、黒瀬も皇も明らかに私狙いだ。
その辺りをキーネンに薄々とはいえ勘付かれているらしい。
私はなんと答えていいか分からず、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「お前の様子を見るに、男子たちの入部は歓迎できない事態らしいな……ふむ。
そろそろ男女分けてのパート練習も限界が来たかと考えていてな。
合奏で同パートの不和が目立つ。
だから定期演奏会前だけでも男女共に行うパート練習を課そうと思っていたのだが……」
「それは困るかな、特に皇の奴とはあまり上手く行ってないんだ」
同じV1としてパート練習をしなければならなくなった時が思いやられる。
鈴置さんはきっと私を気遣ってくれるだろうけど、皇の奴が大人しくしているとは到底思えない。
「そうか……では構わん。パート練習を諦め、合奏の時間を増やすことで対処しよう。
少々手間ではあるがな……」
キーネンは雑念を払うかのように頭を振った。
「ごめんキーネン。そうして貰えると助かる……」
私はそう言い残して、キーネンの元を離れた。




