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7 勝ち取ったレガート

 放課後。私はCクラスで天羽さんと合流。

 それからカフェテリアへ移動。


「本に出てきた美味しそうなお茶があって、取り寄せてもらってたんです」


 天羽さんはそう言ってカウンターへ行く……かと思いきや。

 いつの間にか側に控えていた燕尾服を着込んだ女性が登場。

 持ち込みとおぼしき花柄の愛らしいティーセットを並べ始める。


 あれ、前回は確かカウンターで受け取ってたよね……?

 けれど、そこは子息子女の多い統制学院。

 私みたいな授業料免除組もいるけど、大半はお金持ち。

 放課後はゲームでも、側仕えたちが出入りするようになっていた。

 別に不思議な事ではない。


 しかし、天羽さんもやっぱり上流階級の子なんだね。

 ゲームだと知り得なかった情報だよ。


 そうして私はお茶をごちそうになった。


 いやもうね、すっげー美味いのなんのって。

 無茶して高級ランチ食べてみたときも思ったけど、このお茶やばいからほんと。

 こんな美味しいお茶が世の中に存在していたのかっていうレベルだ。


 そんな感じで、お茶しながら天羽さんと二人で談笑。

 途中、冗談っぽく「月が綺麗ですね」って言ったら可愛らしく笑ってくれた。


 この笑顔、守りたい!

 推しと同じ声の人とじゃれ合ってるだけなら、この世界は確実に天国だよぉ。


「そっかー、なんでも読むんだね天羽さんは」

「はい。けれど外国語は得意ではないので、(もっぱ)ら日本語の本です。

 洋書が読めれば世界が広がると、祖父には良く言われるのですが……」

「へぇ、お爺さんも本が好きなんだ?」

「そうなんです。それが講じて本屋を始めてしまったくらいなんですよ」

「へー、本屋さんか~」


 ん? 本屋……? 本屋で、お金持ちで名字が天羽……?


 なにか重要な情報が私の脳裏をちらりと掠めた。

 それが何なのかを脳細胞に問い合わせていると、お目当ての人物――水無月さんがカフェテリアにやってきて、思考はあえなく雲散霧消(うんさんむしょう)してしまった。


 私は敢えて目に付きやすい、入り口付近のテーブルを選んでいた。

 カフェテリアに来た水無月さんにすぐ気付いてほしかったからだ。

 作戦は万事順調。

 仲良くお喋りする私達の姿を視界に捉え、水無月さんは眉を(しか)める。


 はい! いただきましたその表情!


「あれれ~水無月さ~ん!」


 声をかけられて困惑しているところへ、すかさず追い打ち。


「エー! ドウシタノその腕ー。大丈夫ー?

 あ、ごめん! そんな怪我してるのに立ち話もなんだよね!

 わ~たしったらデリカシーなくって~。

 ささ、どうぞどうぞ座って座って~」


 強引に水無月さんの背を押して椅子へと誘導。

 逃しはせん! 逃しはせんぞおお!


「あーそうだ! 天羽さん、こちら水無月未名望さん!

 今朝、お友達になったんだ。私と同じ転入生で、オーケストラ部なんだよ」


 私は即退部したけどね!


「初めまして。天羽文歌と申します。

 うちの学校のオーケストラ部は名門なのに、凄いですね。

 私も音楽は好きなんです。演奏ではなく、歌なんですけど」


 あれ、初めましてなのか。

 そっか、水無月さんは漂流者として何度もこの世界を繰り返してるんだっけ。

 今年から転入してきたのは私と同じなはず。

 現時点では、天羽さんと繋がりはないのか。


「えぇ……水無月未名望と言います。

 よろしく。文……天羽さん……」


 水無月さんを強引に加え、他愛もない話で二人の関係性を探る。

 けど、天羽さんは完全に私同様の初対面対応。

 水無月さんも特に目新しい話をすることもない。


 水無月さんは楽しそうだった。

 でも、なんだか少し寂しそうで、時間だけが過ぎていく。


「お嬢様……」

「あぁ……もうこんな時間なんですね……」


 三人寄ればなんとやら、時間が過ぎるのは早い。

 既に――私はいつもなら歪曲(わいきょく)が起きている時間を超えている。

 内心してやったりで、横目で水無月さんを見る。


 彼女は私の視線に気付き、少しだけ目を細めて何かを訴えかけてきていた。


 そ、そんな目で見られても、私の作戦勝ちだし……!

 天羽さんがいる限り、水無月さんは歪曲を起こさないようだ。

 差し当たって、黒瀬と一緒の校舎裏(セーニョ)へ戻る事は回避された!

 後はここから、水無月さんから情報を引き出していこう。

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