60 放課後バーガーショップ
駅近のバーガーショップについた私達は、幸運にも待つこと無く席をゲット。
「よし、注文はおっけーだね皆!」
鈴置さんがみんなに確認を取り、私は「問題な~し」と答える。
まだ商品が手元にないが、席まで店員さんが届けてくれることになっている。あとはここで談笑をすればいいだけだ。
「では、改めまして……自己紹介からがいいかな? 香月さんがいることだし」
鈴置さんの提案で、私向けに自己紹介をすることになった。
「では、不肖私めから自己紹介をば……!
名を弓佳、性を鈴置。今期オケ部では奇跡的にもヴァイオリン1とコンミスをやらせてもらってます! 親もどこぞの交響楽団でヴァイオリンとチューバやってます!
好きなことは指揮棒を見つめること! なんかぼーっと手を動かすのに集中できて心地よい気分になるんだよね! キーネン君の指揮はそう言う意味じゃ大好物! 彼氏なし募集中!
あ、キーネン君はお呼びじゃないから!」
鈴置さんが立ち上がり、その豊満な胸元に手の平を置くと、饒舌に語りだした。
そして、「じゃ~次は~?」と次の自己紹介相手を探り始めた。
この調子だと私は最後になりそうだ。
面白い自己紹介を考えておかなきゃだめかもしれない。
「次は私が……! 名をひつぐ、性を佐籐――」
「――ちょっとひつぐ、私をパクんないで……!」
「ではでは、佐籐ひつぐです。オケ部ではAクラリネットやってるよ。
あと同じ学年に双子の兄がいます。兄もこれまたAクラリネット。
好きなものは可愛い女の子。兄妹に女の子がいないからどうしても女の子尊い~ってなるんだよねー。そういう意味で皆とは仲良くしたいです。あと淡々としてるってよく言われるけど、話してみると結構そうじゃないから。うん、まぁそんな感じ」
確かに話し方と見た目とは反して、攻めてくる感じがするひつぐちゃんが自己紹介を終え、「次は私が……!」と瀬尾さんが席を立った。
「瀬尾みのりです! オケ部ではフルートを吹いてます。最近、香月さんとお友達になれてとっても幸せ感じてます! 好きなことは声優さんのラジオ番組を聴くこと。将来は声優目指してます! みんなも応援よろしくお願いします! そういう意味で、彼氏はお呼びじゃないです!」
なんと……! 瀬尾さんは声優さん目指してるのかあああ!
それは初耳だよ初耳! 私がファン1号になるからああああ! 頑張れ瀬尾さん!
それで針山他、男共をうざがってたんだね! 納得納得!
私が瀬尾さんの自己紹介を聞いてはっとしていると、「次は私ね!」と守華さんが立ち上がる。
「守華美有です。オケ部ではオーボエをやってます。でもクラリネットも吹くことがあるわ。それはキーネン君の編成次第ね。それから皆も知ってると思うけど、生徒会副会長をやってます。困り事があればいつでも言ってね! 好きなことはショッピング。休みがあれば付き合って貰うからみんな覚悟しててね!」
確かに、軽井沢のアウトレットでは本当に楽しそうに買い物してたもんね守華さん。実は生徒会活動云々ではなく、自分の趣味でアウトレットに行っていたのか!
4人の自己紹介が終わり、私に視線が集まる。
私は緊張しながら立ち上がり、自己紹介を始めた。
「香月伊緒奈って言います! オケ部ではヴァイオリン1をやらされてます。趣味はアニメやゲーム。特にゲームが趣味です。あと瀬尾さんと同じで声優さんが好きかな……!? あ、でも自分でやろうとかは思ってないです、ティヒヒヒ……」
不味い……笑い声が思わず漏れてしまった……!
ええい、構わず続けよう。
「……それから、水無月さんと色々な人を助ける活動をしてます! みんな困った事があったら何でも言ってね!」
私が自己紹介を終えると、ひつぐちゃんから「おぉー」と歓声がした。
「香月さん、水無月さんと一緒にそんな事してるんだ?」
ひつぐちゃんが私に聞いてきた。
「うん、ひつぐちゃんも兄がシスコンで困ってるとかあったらいつでも言ってね!」
「……ちょっと香月さん!」
守華さんが私を止めに入る。
だがしかし、佐籐本人がいないところでまで私が自重する必要性はないだろう。
佐籐に内心してやったり顔でひつぐちゃんを見つめ返す。
「おぉ……そっか合宿で兄がどんな感じか知ってるんですね……。私、合宿に連れて行かれそうにはなってたんですよね。それが突然なしになって……まぁシスコンかどうかは私には分からないけど、なにかあったら相談させていただきます」
ひつぐちゃんが答え、ちょうどよく注文した商品を携えた店員さんがやってきた。
食べ物を受け取ると、話題は私と水無月さんの活動についてにシフトしていった。
私が天羽さんを皇から守る一部始終を話すと、場は大いに盛り上がった。
「というわけで、天羽さんは皇に婚約拒否をしたんだよ!」
「そんな話があったんですね……! 私、知りませんでした」
瀬尾さんが驚いて一番に声を上げる。
「グランドメサイアに斎藤君のメイドとして乗り込むのも凄い話ね……!」
「あー私も水無月さんと香月さんのメイド姿見てみたかったなぁ」
「ほんとそれ、ほんとそれ」
守華さんが感想を言い、鈴置さんが私達のメイド姿に思いを馳せ、ひつぐちゃんが食い気味にそれに同意した。
「まぁそんな感じで、主に困った女の子を助けてるんだよ」
実は天羽さんから事前に困っている事を聞かされていたという体に話は変換してあるのだが、それは些細な問題だろう。後で突っ込まれると少し困るんだけれどね……。
「それはそれとして、そんな風に女の子達を助けるのには理由があるの~?」
ジト目になった鈴置さんが私に理由を問い質してきた。
「べ、別に、みんなと仲良くなりたいなぁとかそんな感じだよ……?」
「なら私とほとんど同じ理由ですね……!」
横からひつぐちゃんが割り込み、「……私ももっと皆さんと仲良くなりたいです!」と宣言した。
「ひつぐはいつもそれだよね。
うーん私同じクラスだし、今度水無月さんにも聞いてみよ~」
鈴置さんが事ありげな表情をして話題を締めて、ポテトフライを口に放り込んだ。




