58 桜濤学園と募金活動の投票
ひつぐちゃん達クラリネット女子とのパート練習後、合奏を経て本日のオケ部の活動を終えた私は、裏統制新聞にあったある噂の裏を取るために保健室へと向かった。
そして出てきた三世桃子女史に初っ端から聞き込みを開始した。
「桃子先生! 結婚するって本当ですかー?」
「え? どこでその話を聞いたの!?」
「その話ってことはやっぱり噂通りなんです?」
「うーん。他の皆にはナイショよ?」
困った顔でそう言って、桃子女史はすぐに陥落。
幼なじみで女子校の先生をしているという男性教師と婚約していて、近々結婚するという話を聞かせてくれた。
しかも結婚するって男性教師が先生をしているのは、統制に並ぶ私立の名門。桜濤学園だという。私も桜濤が中高一貫の女子校でなければ、編入試験を受けられたんだけどなぁ。いや、前世の記憶が戻っていなかったとしても、私はたぶん女子校の桜濤学園の方を選んだよきっと。
しかし桜濤学園と言えば、毎年学園祭で統制と共同の出し物をすることになっている。
去年は桜濤学園の生徒会と統制の生徒会とで、劇をやったらしい。
これは無論ゲームにおける情報だ。
ゲームでは今年も生徒会で劇をやることになって、そこで主人公の王子様役をする佐籐奏の心を、水無月未名望が射止めることになるのだ。
ヒロインは本来は桜濤女子なのだが、いざ本番に急な風邪でその女生徒が欠席。
統制単独での練習で佐籐の相手役を練習相手として務めるイベントのあった未名望が、代役としてヒロインを演じることになる。
これらは佐籐トゥルーエンドに至る為には必須のイベントと言える。
けれど、今の私達には関係がない。
佐籐からはひつぐちゃんをどうにかして引っ剥がせば私達の勝ちだ。
わざわざ佐籐を攻略する必要性がないのには心底ほっとする。
私はせっかく保健室に来たのだからと、桃子先生と一緒にヨガをして今日1日を終えた。
∬
水曜日。放課後になり、私は今日は水無月さんと共に生徒会に参加することにした。
何故って、浅神妹ちゃんの件を会長の豪徳寺や佐籐にも話を付けておく必要性が有るからだ。
「募金活動について、みんなに相談があります」
水無月さんが切り出して、浅神妹ちゃんの件を説明していく。
「……というわけで、浅神君の妹さんの為に募金活動をしたいんです」
説明し終えると、豪徳寺が真剣な表情で顔を上げた。
「その話、当の本人である浅神は知っているのか?」
「いいえ。私が家庭教師をしている時に本人から事情を聞き出しただけで、募金の事はまだ伏せてあります。実現するか分からないものですから……」
「そうか……1年時のクラスメイトの妹さんだ。是非叶えてやりたいな……」
水無月さんが答えると、豪徳寺のやつは神妙な面持ちで賛成してくれた。
「でも、彼だけを特別扱いすることになるよね? 特待生はたくさんいるんだ。中にはお金に困っている人が彼以外にもいるかもしれないよ?」
佐籐が冷静に発言し、水無月さんが睨み返す。
「ならばその人達も助けてあげればいいじゃないですか! 何も生徒会活動で募金しろとは言いませんけど、統制学院には潤沢すぎるほど潤沢な予算があるのだから……!」
「それはそうだけれど……」
佐籐は凄い剣幕の水無月さんに押し切られそうになっている。
水無月さんは同じクラスの神奈川さんとはもう話せたのだろうか、キーネンの助けを借りずとも学校から資金を提供してもらえるのならば彼女を助け出すのは簡単だ。
「では多数決ということで……私は賛成よ」
守華さんがそう言って手をあげると、私と水無月さん、豪徳寺の3人も手をあげた。
唯野さんは今日は欠席していて、佐籐だけが反対に回った構図だ。
「多数決の結果、浅神君の妹さんの募金は実行することに決定しました!」
守華さんが言って、パチパチと私達が拍手する。
佐籐は一人、ばつが悪そうに顔を伏せた。




