55 助けたい人何人いるの!
周防さん家からの帰り道。
私は水無月さんに電話した。
「水無月さん。お加減はいかがですかな?」
「えぇ……かなり良くはなったわ。それより周防さんの家庭教師ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして!」
推しが困っているならば、助けてあげるのが私のモットーだ。
「それより! ねえ水無月さん。私の予測なんだけどさ……ももちゃんって……」
水無月荘の住人でしょう? そう聞き終える前に水無月さんが答えた。
「フフ……ご想像の通りよ。ももは水無月荘の一員で間違いないわ」
「やっぱりかー! そうだと思った」
基本的に通例として、私の推しの声の人は大抵が水無月荘の住人だった。
だからもしかしたらと思ったのだ。
「全く! 何人たらしこめば気が済むのさ水無月さん!
この気の多い百合ゲー主人公め! 助けたい人何人いるの!」
「別に私にその気があったわけじゃなけれど、みんなが私を慕ってくれただけよ」
「かー! 百合ゲー主人公の自信満々の一言美味しくいただきました!」
これだけ推しが増えてくると、もはや驚きの言葉もない。
百合ゲー水面のカルテットにおける主人公でもある水無月さんにとって、両手の数で収まらない程度の数を手籠にすることなど造作もないに違いない。
他にも水無月荘の一員か気になる子もいるけど、まずは一番気になる神奈川さんについてだ。
「ねぇ水無月さん。それから神奈川さんなんだけど……」
「あぁ……その話、出ると思ってたわ……」
「水無月さん、神奈川さんもやっぱり助けたい内の一人だよね?」
「それはそうだけれど……でも私、彼女の為に出来ることは多くないと思っているのよ」
それは……キーネン家のメイドさんはダメってことだろうか?
「キーネンに頼むのがダメってことなの?」
「いいえ……それはダメとは言わないわ。でも最後の手段にはしたいのよ。
別に神奈川さんが仮に斎藤くんのメイドになったとしても、彼女が彼に恋する事はたぶんすぐはないから……」
「うーん。ゲームじゃキーネンは基本的にメイドさんになって落とすか、オケ部で圧倒的実力を披露して好感度を稼ぐかの2択だものね」
神奈川さんがキーネンのメイドになって、そこに私も水無月さんもいないとなれば、キーネンの好感度がどう動くかは分かったものではない。
メイドをやっている神奈川さんに好感度が傾かないとは言い切れないのだ。
「あぁ、それと浅神の妹ちゃんの件は昨日軽く皆には話しといたから!
もし神奈川さんに金銭的支援をする為に、水無月さんがバイトしてるなら私も手伝うよ!」
「そう。ありがとう。でもどうかしら、彼女直接、斎藤くんに声をかけるってガラじゃないのよね……誰かがバックアップしてあげないと……」
水無月さんは心配そうな声をしている。
神奈川さんもまさかキーネンが人材不足を金で解決する為に、部活込みでメイドとして神奈川さんを雇いあげるなんて手に出るとは考えてはいまい。
自分からキーネンに頼むことがないと言うのならば、私達の内どちらかが神奈川さんとキーネンの間に立つ必要性があるだろう。
でも、私はやりたくないいぃぃいぃ。
だってそれやったら、ますますキーネンが私に対して好感度あげてきそうなんだもの!
私は絶対にやつと結ばれるのだけは御免被りたい!
からといって、神奈川さんを見捨てるなんて選択肢は絶対にないのだ。
なにかいい方法がないものか。
「そうだ! ねぇ水無月さん。何万回もループしてるなら宝くじとか買えばいいじゃん!」
私は名案とばかりに提案した。
宝くじなんて、水無月さんのセーブ・ロードで絶対必勝間違いなしだ!
しかし――、
「――それが通るなら事は簡単なのよ。
どう香月さん。私今度の番号くじの一等の番号覚えているけれど、貴方が買ってみない?」
「えぇ!? どうして私が」
「それは当然よ。私が買って当たるのはせいぜい100万円くらいまでだもの。
仮に一等のくじ番号を完璧に覚えてから戻って書い直したところで、因果律を突破できない。
浅神君が助けるはずの女の子を、私が絶対に助けられなかったのと同じ。
一等だったはずの番号が10万円や100万円に変わってしまうの。
私という主人公はせいぜい100万円くらいが当たる因果しか持ち合わせていないのよ……」
水無月さんは至極残念そうに言葉を紡ぐ。
電話越しながら、水無月さんが歯を食いしばって悔しがっている様子が伝わってくる。
「そんなまさか!? やっぱ試してみたことあったの?」
「えぇ、そんな方法は何度も試したわ。私じゃダメなのよ。
でも香月さん貴方なら行けるかもしれない。
それで今度のキャリーオーバー含め60億円の番号くじを買うのよ」
「あれって未成年も買えたよね……?」
「えぇ……でも未成年の場合、保護者と同伴する必要性があるわ」
買ってみても良い。私が新たな因果を掴む者だと言うのならば、あるいは……。
そうなればお金関係の揉め事は一挙に解決できる。
神奈川さんと浅神の妹ちゃんの両方を救えて、更には水無月さんと事業でも開始すれば、桜屋さんをもバックアップすることが可能かもしれない。
話しながらだからか最寄り駅に着くのが早い。
駅周辺ゆえか、周りに人が増えてきたことに気付いた。
「いいよ! 今度お父さんと一緒に買いに行ってみる!
番号はメッセージで教えてくれればいいから!
それと、ごめん、駅着いたから切るね!
神奈川さんについては、また後でじっくり聞かせて貰うから!」
「えぇ……お疲れ様」
私は電話を切ると、自宅へ向かう電車に乗るために駅へと入って行った。




