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52 トランペッターの家庭事情

 月曜の朝。私は瀬尾さんと連絡を取って最寄り駅で合流。

 それから統制学院の最寄り駅までやってきていた。


「それで、合宿はどうだったんです? 楽しかったですか?」

「うーん。まぁまぁかな。やるべきことはやったよ!」


 瀬尾さんは「へー」と余り関心なさそうにして、あくびを一つした。


「瀬尾さん、あくびなんて珍しいね?」

「あぁ。すみません。ちょっと昨日遅くまで勉強していたもので……」

「そうなんだ、それまたどうして?」


 私が不思議に感じて問うと、瀬尾さんは真面目な顔になって答える。


「だって私だけDクラスじゃないですか。

 水無月さんは本当は勉強できるって言うし、このままDクラスだと皆がAやBクラスになる中、私だけ置いていかれるんじゃないかって心配なんですよ」


 そういうものだろうか。私も今生では頭が良いからと調子に乗っているかもしれない。

 私も今度の中間試験の勉強くらいしたほうがいいだろうか。

 水無月さんは来年どこまで上がる気なんだろう? やっぱりAクラスを狙っているのかな。

 なんにせよ、瀬尾さん一人を下に残しておくわけにはいくまい。


「大丈夫! 今度私が分かる教科で良ければ教えるよ!」

「本当ですか? 助かります」


 一緒に勉強すれば分からなかったところは私の勉強にもなる。

 教える事ができるというのは一段階上の理解を求められるのだ。

 加えて瀬尾さんを助けられるのならば一石二鳥だ。


 そんな会話をしながら、私たちは統制学院へとやってきた。

 すると、音楽講堂の方からトランペットの音が僅かに聞こえてきた。


「あれ? 誰か早朝練習でもしてるのかな?」

「この音は……たぶんTp1の神奈川さんですかね?

 ここのソロパートがあるのは彼女だけですから」

「あ~確かにそうかも。でも珍しいね早朝練習組なんてさ」

「そうですね」


 うちのオケ部は基本的に平日の授業終了後の1、2時間しか練習しない。

 休みの日に練習があるときもたまーにで、ほとんどは定期演奏会やコンテストなどの前だけだ。それで全国屈指の腕前を維持しているのだから、本当に凄いと思う。

 元々中学までで上手い人が多いってのが一番大きな理由だろう。


 これは恐らくはゲームの都合でそうなっているのだろう。

 未名望が主人公として、確実に朝と放課後と休日をオケ部に捧げていては、ゲームがワンパターンになってしまう。

 だからこの世界におけるオケ部でも、ゆるっとした練習ペースになっているのだ。


 必須の練習日である放課後でさえ、生徒会やバイト、他の部活動などの影響で来ない人もいるくらいだ。キーネンは良くまとめてると思う。それに加えて、今季のオケ部は人材難に苦しんでいる。キーネンの奴には悪いが、私もバイトなどをしなければならないと考えていた。

 その理由こそがこのトランペットの神奈川(かながわ)茉莉(まつり)にある。


「まぁ神奈川さん、練習あまり来ないもんね……」


 私がそう言うと、瀬尾さんが不思議そうに小首をかしげる。


「うーん。なにか事情があるんでしょうか?」

「うん、まぁ。私が知ってる限りではバイトしてるって話だよ」

「アルバイトですか。なるほど」


 神奈川茉莉が特待生組にも関わらずバイトするのには理由がある。

 お母さんが倒れて、家計が火の車なのだ。

 これはゲームではキーネンルートを攻略する際に、オケ部のメンツを集める為に必要なサブクエストの一環で明らかになる。

 ちなみにゲームではキーネンがメイドとして放課後雇い入れる事で、オケ部の練習に参加させるということになるのだが……。


 ゲームでは彼女は当然、私の推しが声を当てている。

 3人組超人気声優アイドルグループの一翼を担う若手女性声優だ。

 清純そうな誰が聞いてもヒロインと分かる声をしている。


 彼女もまた水無月荘の一員なのだろうか?

 この辺りは水無月さんに確認を取らなければならないと思っている。

 であれば、キーネン家のメイドとなって良いのかどうか、水無月さんにはこれまた確認をする必要性があるだろう。

 なにせ、私と水無月さん自身がキーネン家の臨時メイドとして一度はグランドメサイアに乗り込んだ事があるのだ。

 自分たちは良くても、神奈川さんはダメってことも、もしかしたらあるのかもしれない。

 だからそんなときの為に、少しでも援助できたらいいなとバイトする事を考えている。

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