51 合宿の終わり
早朝。鳥たちの鳴き声で目が覚めた私。
隣のベッドで眠る守華さんを横目に、ベッドに潜り込みながら考え事をしていた。
合宿は滞りなく予定が消化され、昨夜ご飯を食べた後にお風呂へ。
そして暫くロビーで過ごした後、午後10時頃には解散となり皆が各自の部屋へと帰っていった。私と守華さんもそれに習い自室へ戻ると、私が少しの間TVを付けていたくらいで直に就寝となった。
結論から言って、守華さんが佐籐や豪徳寺に惹かれるような案件はほぼゼロと言っていい。
豪徳寺がテニスで多少、守華さんのポイントを稼いだくらいだろう。
むしろ、見事な料理の腕を披露した水無月さんが豪徳寺辺りの好感度を稼いでしまったのではないだろうか。
無論、私の好感度はステーキで大分稼いでるわけだから、豪徳寺も胃袋を掴まれていてもおかしくはない。
まぁ、当の本人である水無月さんにそのつもりは端っからないのだから、胃袋を掴むというのもおかしな話だろう。
しかし、今回は余り積極的に動いていないにも関わらず、守華さんを守ることが出来ているようだ。佐籐の件に関してはやり過ぎてしまったにしても、そのあと守華さんがあっさりとシスコンの佐籐を諦めてくれたのは僥倖と言える。
これが後になって実は豪徳寺の好感度がとてつもなく上がっていた! とかなら話は変わってくるが、当の守華さんからそのような気配は感じられない。
「上手くやれてるのかな……?」
小さな声で呟くが、無論誰も返事はしてくれない。
私は軽井沢の地で守華さんを守れたはずだ。
激怒した佐籐を歪曲で家に返さなかった事で、ひつぐちゃんをも守ったのだ。
「大丈夫、きっと大丈夫……」
そう再度呟き、スマホの目覚ましが鳴るまで二度寝をすることにした。
∬
朝。8時の朝ご飯を食べ終わった私達は、特にやることもなく豪徳寺の別荘でくつろいでいた。
しかし、このメンツでなにかしろと言われてもカードゲーム昨夜やったし、テニスも然り。
どうしたものかと考えあぐねていたところに、守華さんが提案した。
「早めにお昼を食べて、駅付近にあるっていうアウトレットへ行かない?」
のろのろと腕を横へ振って、「俺はパース」と豪徳寺が言う。
しかし守華さんは譲らない。
「でも帰りの新幹線の午後6時まで、ここでうだうだして過ごすよりはマシに思うけど?」
「だがな守華。女の買い物に付き合わされる男っていうのはだな……」
豪徳寺がぶつぶつと不満を垂れ流す。
それに痺れを切らした私が水無月さんを見やると、彼女もこくりと頷いた。
「はーい。じゃあ多数決で決めまーす。私さんせーい」
「私も賛成で」
水無月さんが小さく左手を挙げながら言い、唯野さんが「私はどちらでも……」と佐籐を見る。佐籐が「なら多数決で3:2で僕たちの負けだ」と諦めの表情を浮かべた。
「はい決定! 守華さんプランに則ってお昼は早めに食べてアウトレットへ向かおう!」
私がそう宣告すると、豪徳寺が「やれやれ……」と呟いた。
∬
お昼を早めに食べていざアウトレットへ乗り込んだ私達。
男二人は女子4人のあとを渋々付いて回っている。
もちろん荷物持ちにするつもりだ。
「さすがは別荘地軽井沢、結構有名なブランドも入ってるんだね」
イタリアはミラノの高級ファッションブランドが展開していて少しびっくりする私。
こんな田舎では到底手が出ない人が大半だろう。
ほぼ観光客向けに特化していると言える。
「そうね。アウトレット商品が主だけれど、買いと言える品も少なくないわ。
ここのバッグなんかは買うにはお買い得で良いんじゃないかしら」
水無月さんがパンフレットの該当店舗を指し示す。
「へぇ、水無月さん軽井沢に詳しいのね?」
「えぇ……まぁ。姉の受け売りよ」
実際にはループで得た経験値なんだろうけど、水無月さんの事情を考えると嘘をつくのも仕方ないことだ。
「お姉さんがいるんだ? どんな人?」
そうとは知らずに守華さんがお姉さんの事を水無月さんに聞く。
「奔放な人よ。自分の欲求に素直って言うのかしら」
水無月さんがそう自身のお姉さんを評すると、守華さんは「へぇ」と興味深そうに聞いていた。きっと水無月さん自身に興味があるに違いない。守華さんの藍色の瞳は興味津々といった様子で爛々と輝いている。
なんでだろう? 昨夜のステーキで胃袋を掴んだのかなやっぱり。
まぁ推し達が仲良さそうにしているのを眺めるのは、とても楽しいので問題はない。
問題はないけど、さすが百合ゲー主人公? でもある水無月さんだ。
このまま女の子達を救い出すことを手伝っていると、将来はたくさんの女の子を手のひらで弄ぶような怖い女性になってしまうのだろうか。
そうはならないと良いのだけれど……。
私と水無月さんは基本的にアウトレットとはいえ手が出ない価格の商品が多い。
だからウィンドウショッピング感覚で、守華さんと唯野さんの買い物に付き合っていた。
やはり守華さんも良いところのお嬢様だからお金は持っている。
それは唯野さんも同じらしく、ガジェットを収納するのに良いビジネスバッグを見つけたらしく数万円するそのバッグを惜しげもなく購入していた。
私、庶民の感覚からすれば革製でもなければ、ビジネスバッグなんて高くても1万5千円がいいところだ。大体5,6千円の中国製バッグを買っては壊れるまで使うだろう。
しかし唯野さんを批判するでもなく、私と水無月さんはそんな二人の買い物を見守っていた。
「ねぇ、これ。このコートなんだけど、香月さんにぴったりじゃないかしら?」
言われ、私は守華さんの着せ替え人形になることになった。
試着室で試着して出てくると、「やっぱり似合うわ!」と守華さんが唸り、水無月さんも「そうね」と同意した。
物は子供向けのハイブランドが出しているコートだ。
アウトレット価格とはいえ、2桁万円に迫ろうかという価格に恐れおののく私。
でもまぁ試着する分にはコートだし問題はないだろう。
小さな身長故に子供向けのコートなのが癪に障るが、それでもハイブランドはハイブランドだ。
物はとても良くできていて、素直に欲しいと思える出来のコートだった。
季節外れとはいえ、この価格まで下がっていれば父辺りに頼み込めば買えないわけでもない。
うちの父は私のおねだりには弱いんだよね!
しかしこの場に父はいない。
「んーでも私にはこの価格はちょっと手が出ないよ」
そう伝えると、守華さんが至極残念そうな顔をした。
∬
そんなこんなでアウトレットで4時頃まで時間を潰した私たちは、別荘へ戻ると荷物をまとめた。そして帰りの新幹線――これまたグリーンクラスのそれに間に合うように駅へ。
それから車内で食べる為のご飯を買い込んだ。
「良いわね、釜飯」
「えへへ、でしょ?」
私と守華さんの買った釜飯にそう言う水無月さんはいつものようにコンビニ飯だ。
きっと片手で食べるのには都合が良いのだろう。
よく骨折した右腕で合宿に参加してくれたと思う。
それに合宿中の料理での水無月さんの活躍は見逃せない。
豪徳寺と佐籐を守華さんに寄せ付けないという当初の目的は、大成功で果たしているように思う。
帰りの新幹線でも女子4人が他愛も無い話をしながら、私達は合宿の最後の日程を終えた
守華さん編がこれにて一応終幕!
佐籐へ守華さんが流れることは一応防げました。
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