48 やり過ぎの代償
「結論から言うわ香月さん。やりすぎよ」
別荘に戻って暫くして、水無月さんに部屋に呼び出された私。
ベッドの上に腰掛けてすぐ、水無月さんがきつい一言を放った。
「佐籐本当に帰っちゃったね……」
「えぇ。このままじゃ家に帰って、ひつぐが酷い目に合わされるかもしれない
激怒した佐籐君はいつもひつぐに強く出るから……」
「そ、そうなんだ……」
ゲームでは佐籐が激怒する展開なんて一つもない。
水無月さんの佐籐を煽って馬鹿にする手法を真似てみたつもりだったのだが、どうやら本当にやり過ぎてしまったらしい。
「私、テニスが始まる直前に戻ることにしたから」
「え!?」
「だって佐籐はもう新幹線に乗っちゃったって連絡がさっき来たでしょ?」
「うん……守華さんがメッセージでそう言ってるね。豪徳寺から聞いたのかな?」
「恐らくそうでしょうけど……このままだとひつぐが不幸な目にあってしまう。
分かって香月さん。
守華さんの佐籐への好感度は下げられたかもしれないけれど、
ひつぐが酷い目に合うのはどうしても看過できないのよ」
言われ、私は静かに首を縦に振った。
「それじゃあいくわね……。
クイックセーブへ戻る」
私の肩を抱き寄せながらそう水無月さんが囁き。
世界が――歪んだ。
∬
テニスが始まる前、水無月さんと話した直後へと戻った私と水無月さん。
今回もきちんと時間は巻き戻っていて、世界の運営に弊害は無いようにみえる。
それでも不安だったらしく、水無月さんはすぐに「私、文歌と立日に連絡を取ってみる」と言い残すとコート脇にあるベンチへと駆け込んだ。
私は佐籐守華ペアだけは作らないように再び守華さんとペアを組むと、対佐籐唯野戦を手加減して無難に消化。途中、守華さんが豪徳寺と交代すると、豪徳寺が唯野さんに挑んでいく場面があったくらいだ。唯野さんは経験者の豪徳寺に負けず劣らずの動きを見せると、ニヒルに「フッ」っと笑った。
試合終了後すぐに、私は水無月さんのもとへと駆け込んだ。
反対に唯野さんへと駆け寄る守華さん。
「どうだった水無月さん」
「大丈夫よ……いつも通りなにも問題はないわ。
私達のやってきたことが無駄になったわけではないみたい」
「そっか! 良かった!」
私は安心して眼鏡を両手で掛け直すと、フーっと息を強く吐いた。
「凄いわ唯野さん。部活複数掛け持ちは伊達じゃないのね!」
唯野さんへ駆け寄った守華さんは、唯野さんのプレイをべた褒めしている。
豪徳寺や佐籐がポイントを稼ぐ舞台を作るのを防ぐのには、どうやら成功したらしい。
「いえ、この程度は……」
そう謙遜する唯野さん。
どうやらいつもは統制新聞部の特派員として舞台裏で活動するのがメインで、表舞台に立つことには余り慣れていないらしい。
「さて、汗もかいたし、一度部屋に戻る。シャワーを使いたいやつは順番だぞ!」
「私はいいや、1枚しかバスタオル持ってきてないし……」
豪徳寺がそう言って我先にと別荘へ入っていき、私が答えると、
「それなら心配ないわよ。脱衣所にゲスト用のバスタオルがあったはずだから。
なんなら洗濯機で洗ってもいいし、乾燥機能ですぐ乾くでしょう」
と水無月さんが教えてくれた。
んでも実際、歪曲前と違って手加減してたからほとんど動いてない。
本当にちょっとしか汗かいてないんだよなぁ。
水無月さんのアドバイスは有り難いけどね!
なので私はシャワーは浴びずに夕方のお風呂を待つことにした。
まず夕ご飯まで時間がある。
それまでは守華さんと一緒にテレビを見たりしよう。
ロビーに女子皆を集めて、持ってきたカードゲームに興じたって良い。
とにかく佐籐と守華さんが近づくのを阻止すればいいのだ。




