47 合宿地にて その2
昼食のポークシチューを食べ終えた私たちは、腹ごなしとばかりに別荘の敷地内にあるテニスコートを訪れる事になった。
「水無月さん、骨折してるけどやれるの!?」
「いえ……私は遠慮させてもらうわ」
水無月さんが降参とばかりに左手を振り、「いつでも戻れるようにしておくから」と私に言い残すと、脇にあるベンチへと腰を落ち着けた。
分かってるさ。佐籐の奴はコテンパンに私が叩きのめすから見ててよ!
「ダブルスでやるとして……チーム分けはどうする?」
佐籐がチーム分けについて相談してくる。
「俺は経験者だからな。一番下手そうな唯野か香月辺りと交代でやろう!
試合にならなければ問題だからな!」
ガハハと豪徳寺が笑う。
「誰が下手くそだって!? やってみなきゃ分からないじゃん。ね、唯野さん!」
「まぁ、そうですね……たまたま向いていたということがないわけでもないでしょう」
私はそう言うと眼鏡をくいっと押し上げた。
前世では私は高校時代にソフトテニスをやっていたので少しは自信がある。
しかしいまの小さな体躯でどこまで動けるかは賭けだ。
でも、唯野さんはいろいろな部活を掛け持ちでやっているから自信があるのかもしれない。
「ほう、香月のその自信はどこから来るかは分からんが、せいぜい頑張るんだな」
豪徳寺にそう言われ、ギャーギャーと再び私は文句を重ねる。
「守華とは――」
豪徳寺がそう言った直後、
「私が守華さんと組むから!」
と一気呵成に言い放った。
「香月さん。本当に大丈夫なの? 相手は佐籐くんと唯野さんよ?」
「いいから! 一緒にやろ守華さん!」
「うん……」
見ていろ佐籐よ。元ソフトテニス部の実力を見せてやる!
試合開始してすぐ、佐籐のサーブに対し私は佐籐に向かって強力なストロークを放った。
ふふふ、佐籐よ。私のこの一撃果たして取れるかな!?
見事に佐籐は反応できず、私達のペアに得点が入る。
クハハハハ! やれるじゃないかこの身体でも!
同じように何度も佐籐を狙い集中攻撃をしかける私。
佐籐は為す術もなく、最後のサーブなんてダブルフォルトで失敗してしまう。
そして1ゲームが終わり、サーブ権が私達の方へ移った。
「ほぉ! やるじゃないか香月。言うだけのことはあるな」
審判をしている豪徳寺がそう私を評し、守華さんが「すごい香月さん!」と褒め称える。
「でしょでしょ! 佐籐なんて雑魚だから任せてよ!」
次いで、私のサーブ!
今度は対角方向にいる唯野さんを狙わざるをえない。
ごめん唯野さん! 怪我しないように加減はするから!
そう思いながら、結構強力なサーブを放った……つもりだったのだが、
なんと唯野さんは何でも無い様子でそれをリターンしてきた。
守華さんがなんとか返すが、ラインを超えてアウトになってしまった。
「うお、やるな唯野さん……さすがはいろいろな部活掛け持ちしてるだけはある」
その後、私の終始佐籐を嫌らしく狙うプレイに、佐籐が息を切らし始めた。
唯野さんはかなり上手いので私のプレーに着いてこられているのにね……!
「ふふーん、佐籐くん。その程度ではこちらのミス以外で一点も取れなくてよ!
ひつぐちゃんにその無様な姿を見せたかったなー」
私が佐籐を煽る。
「よし、佐籐。俺と交代だ!」
私の煽りになにか感ずるものがあったのか、豪徳寺がそう言い放ち佐籐と後退することになった……のだが……。
「くそっ! もうやってられるか!」
そう宣言すると、ラケットをコートに叩きつける佐籐。
「僕はもう帰らせてもらう!!」
佐籐は激昂しているのか顔が紅潮していく。
「おい佐籐! どうしたんだ!」
豪徳寺が引き留めようと声をかけるが、佐籐の奴は止まらない。
「いい加減にしろ!
香月ってやつも水無月ってやつも僕を馬鹿にしてなにかしたいのか!?
ひつぐもいないっていうのにこんなところに泊まりがけで!!
なにが親睦を深めるだよ! これじゃあ僕だけバカみたいだろう!」
あらら、本当にひつぐちゃんがいないからって言っちゃったよ。
顔が真っ赤になって激怒している佐籐はそのまま別荘内へと入っていった。




