42 キーネンの提案
楽器を置きに行くだけ。
そんな言い訳をして守華さんと共に音楽講堂へと向かう私だったが、二度と近寄るまいと決めていたオケ部に安易に近づいてもいいものだろうか? という恐怖心が私の心の内を支配していた。
一緒に音楽講堂に向かう守華さんは、私のそんな気分をあまり介さないようだ。
「ねぇ香月さん。さっきのあれ、どう思う?」
「どうって……」
そう言われても私はゲームで佐籐がシスコンなのを重々理解している。
守華さんはオケ部でも1年間佐籐とひつぐちゃんと共にしてきたのに、気付かなかったとでも言うつもりなのだろうか?
「うーん私には良くわかんないかな。
守華さんこそずっと一緒にオケ部やってきてどんな感じだったの?」
「そうね……確かに佐籐くんはひつぐと一緒にいるものだったけれど、私にはそれが余りにも普通に見えてたって感じかしら……?」
「普通に?」
「えぇ……兄妹が二人一緒に仲良くしているのがさも当然……みたいな?」
「なるほど」
近くで見ているとそういう風に映ることもあるものなのか。勉強になる。
そんな事を話しながら、私達は音楽講堂に到着した。
既に練習は始まっているが、キーネンは指揮台に立ってはいない。
全員での基礎練を椅子に座って聞いているようだ。
私はキーネンに見つからないようにこっそりと楽器室へと足を運ぶ。
そして、楽器を楽器室へと預け、足早にこの場から退散しようとしたときのことだった。
「せっかく音楽講堂へ来たというのにどこへ行くつもりだV1」
「げぇ……キーネン」
楽器室からの出口を塞がれ、絶体絶命のピンチだ。
「ちょっと斎藤くん! せっかく楽器を置きに来てくれたんだから、また今度チャンスがあるじゃない」
守華さんがそう擁護してくれるが、キーネンは私を逃がすつもりがないようだ。
「何故だV1。何故そうもオケ部での活動を嫌う」
「……」
お前らと関わり合いになりたくないからだ。
とはさすがに言わない。
ここはオブラートに包んでやるとしよう。
「うーん。私、男の人が苦手なんだよね」
「え?!」
「ほう……?」
二人は驚いて、私の表情を窺い知るかのように視線を下げた。
「あーまぁ言うほどってわけじゃないんだけどさ。
私の中学までの弦楽部って女の子ばっかりみたいな感じだったんだ。
でも転入初日で統制のオケ部の面子を見たわけじゃん?」
「うん……確かにウチは男の子多いよね……半分くらい男の子だし」
「そ。それでなんだか萎縮しちゃってさ」
嘘ではない。
ただ単純にオケ部に所属しているような自分勝手な魑魅魍魎共が苦手なだけだ。だがオブラートに包んでやるとすればこのような表現にするのが妥当だろう。
「そっか。それで生徒会はやりたいけど、庶務の相方に水無月さんをってわけね!」
「う、うんうん。そんな感じ」
守華さんはなにか納得してくれたように手を打った。
「聞くがV1。お前は男が苦手なのだな?」
「うん、そうだけど」
「ならばいい。練習に参加しろV1。
俺の策が間違っていたと認めよう。
お前には特別に、基本的に女生徒だけをパート練習でも割り当ててやる」
「え!?」
まずい……そういう手でこられるとちょっと断りようがない……!
私は予想外のキーネンの提案に躓くことになってしまった。




