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37 生徒会庶務 その1

「というわけで、私と水無月さんは生徒会庶務になりたいと思います!」


 おー! とパチパチと拍手を伴って迎えられる。

 お昼のカフェテリア。唐突な私と水無月さんの宣言にも関わらず、天羽さん桜屋さん、そして瀬尾さんの3人は冷静な目で私と水無月さんを見ていた。


「貴方達二人になんでか? って聞いても無駄よね?」


 桜屋さんがそう最初に切り出した。


 なんでか、か。

 なんて言ったらいいんだろう。

 守華さんを助け出すため――とは言えそうにない。


「守華さんが大変そうだからよ」


 水無月さんが私の代わりとばかりに桜屋さんの質問に答えて、長い髪をかきあげた。

 そうして食べ終わったコンビニ飯の包装をビニール袋へ突っ込む水無月さん。


「はぁ……たしか、守華さんは女性お一人でしたか……?」

「いいえ。確か会計の方が一人女性でおられたように思いますが……」


 瀬尾さんの問いに天羽さんが答え、瀬尾さんがはてなといった様子で首を傾げる。


「その会計の子。仕事を本当に最低限しかやらないらしいんだよね。

 まるで生徒会の他の面子を見守るかのようでさ。

 だから守華さんが殆どの仕事をやってるって話だよ」


 そんな話は無論知らない。

 ただの想像に過ぎない。会計の唯野さんには悪いけどね。


「なるほど……そのような事情があったのですね。

 それでいつも生徒会活動のある日には3人共合流が遅いのかな」


 瀬尾さんが自身の赤色のリボンを弄りながら独りごちて、その黄色い瞳に納得の色を浮かべる。可愛い。


 天羽さんが紅茶を飲みながら「そうなのですか……?」と問いかけると、ふるりと瀬尾さんが首を縦にふった。


「まぁそういうわけだから。

 私と香月さんの二人が庶務をやって守華さんを手伝ってあげることにしたのよ。

 瀬尾さんがオケ部で針山にちょっかいを出されるを助け出せるのも、守華さんしかいないわけだし」


 改めて水無月さんがそう宣言し、私が「うんうん」と相槌を打つ。

 そうして今日のお昼は解散となった。




   ∬




 守華さんを訪ねて放課後すぐにAクラスへ。

 教室を覗くと、まだ掃除婦の叔母ちゃんは来ておらず、殆どの生徒が残っている。

 私がそうして守華さんの姿を探っていると、真っ先に私に感づいたらしい桜屋さんがゆっくりと腰をあげた……のだが。


「おい、お前」


 私に声をかけてきたのは皇時夜だった。


「なに? 別にあんたに用が有るわけじゃないから」

「お前な……俺はお前に用がないわけでもない」

「なに? あるならさっさと済ませて」


 皇と教室の入口でそんな会話をしていると、少し遅れてやってきた水無月さんが合流。

 皇にキリリとした視線をぶつける水無月さん。

 そして皇の背後から桜屋さんがやってきた。


「ちょっと時夜。なに絡んでるの」

「なにって……俺はこいつらのせいで人生を台無しにされっぱなしなんだが?」

「は? なにそれ天羽さんと桜屋さんとのことを言ってんの?」

「それ以外になにがあると思って……!」


 皇のやつはそう言って声を張り上げる。

 私と水無月さんを通そうとしないつもりのようだ。

 教室の生徒たちはざわめきに支配されていた。

 格好の騒動だ。中には裏統制新聞の特派員も紛れ込んでいるだろう……。


「良いから! ほら時夜はさっさとどいて!」

「ちょ……立日お前……?!」

「もう済んだ話でしょ! 良いじゃない」

「良くはない! 特にそっちの小さい方! 覚えとけよ!」


 皇の奴は桜屋さんがなんとか入り口からどかしてくれた……のだが。

 続けざまにキーネンの奴が私達を見つけたらしく入り口へとやってきた。

 そうだ……こいつもAクラスだった……!


「V1。なぜオケ部に来ない……?」

「何故って、私は退部届だしたって再三言ってるでしょ」

「だが俺はそれを承認していない。

 駒が俺の都合に関係なく動くことは認められん」

「だーもう! あんたには構ってらんない!!」


 そう大声を出していると、困り顔で守華さんがやってきた。


「ちょ、ちょっと香月さんに斎藤くん!

 帰る人達が通れないじゃない! お願いだから入り口で口論するのはやめてちょうだい」


 教室の中から「そうか香月! 覚えたからな!」と皇の声が聞こえる。

 キーネンは守華さんに言われても、「オーボエも最近部活へ来るのが遅いぞ」と文句を言う始末で引く様子を見せない。


「もーう! なんなの~」


 混乱収まらず、守華さんが観念するかのように声をあげる。

 それに教室の奥で事態を見守っていた、豪徳寺と佐籐の二人がついに席を立とうとする。

 水無月さんも私の耳元で「戻ろうか?」と囁いた。


「待って、私あれ苦手なんだもの」

「そう。チャイムが鳴った時にセーブしてあるからいつでも言って頂戴」


 水無月さんはそう小さく言って黙る。

 ここは私が宣言するしか無い。

 見せてやろうじゃんか女のド根性!


「いい加減しつこいよキーネン!

 私達は守華さんに用があって来たの!!」


 私渾身の大声で言い放つ。


「へ? 私に?」


 混乱の最中にある守華さんはきょとんとした顔で自身を指差した。

 そうだよ。守華さんに用があるの!

 まったく、他の魑魅魍魎(イケメン)共の相手をしたいわけじゃないのだ。

 もっと穏便に済むと思っていたのに、まず騒ぎ立てた皇が悪い!

 そして次に悪いのは、このしつこすぎる俺様指揮者のキーネン斎藤だ!

 そんな奴らをちぎっては投げるかのごとく、私は続けて言い放った。


「私、香月伊緒奈と水無月未名望さんの二人は、生徒会庶務になりたいと思います!!

 はい、拍手!!」


 混乱する教室の中、少なくない人たちが私の宣言にパチパチと拍手を送ってくれた。

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