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35 瀬尾さんを守る会

 私は母の作っただし巻き卵に舌鼓を打ち、水無月さん達の様子を窺った。


「そう……針山くんがそんな強引な手段に出てくるなんて……」


 お昼のカフェテリア。

 私達は各々持ち寄ったお昼ご飯を食べている。


 水無月さんはいつものようにコンビニ飯。

 天羽さんは前に食べた3段重とは違い漆塗りの一段重。

 そして桜屋さんが学食ランチを楽しむ。

 そこに新たに加わった瀬尾さんが、私と同じくお弁当をつついていた。


 推しが4人も集まれば、きっと楽しいに違いない。

 私は少なくともそう思っている。事実私は楽しい。

 楽しいのだから間違いではないのだ。


 そんな楽しい食事に針山の話題が持ち上がったのは必然でもあった。

 これは針山の奴から瀬尾さんを守る会でもあるのだ。


「2Cの針山くんって言ったら、学内でもトップレベルのモテる男子じゃない?」


 桜屋さんが余り興味なさそうにそう言って、ランチのお魚にソースを付けて口へと運ぶ。


「えぇーっと。私同じクラスですけど、針山くんは普段はとても良い人ですよ?」


 天羽さんが普段のクラスでの印象を付け加える。


「それはそうだけど、もう今日のあいつったら強引で強引で!

 いきなり朝っぱらから校門前でなんなの!? って感じだったよ!」


 私がその良いイメージをぶち壊すように今朝の顛末を再度語ると、瀬尾さんが怯えるように肩を竦めた。


「問題は瀬尾さんにその気があるのかどうかよ」


 水無月さんが話をまとめ始め、瀬尾さんの様子を窺った。


「私……今は誰とも……お付き合いするなんて気分じゃないんです」


 震えるように言葉を絞り出す瀬尾さん。

 

 こんなにも瀬尾さんを怯えさせるなんて、針山の奴は絶対許すまじ!


「だから皆に協力してほしくてさ!

 こうやってお昼を一緒に食べてあげるだけでもよくて。

 針山の奴が声をかけ難い状況を作って欲しいんだよ

 もし針山の野郎が強引に来た時でも守ってあげて欲しいんだ!

 ね! 水無月さん!」

「……私は構わないけれど……桜屋さんは?」

「私も別にいいけど? 皆とはまだ友達になって数日だけれど役に立ちたいし。

 それよりも、クラスで針山と上手くやってそうな天羽さんはどうかしら?」

「私は……その、針山くんが強引すぎるのがいけないと思うんです。

 ですから私も皆さんと同じく、頑張ってお守りします!

 頑張りましょう、瀬尾さん!」

「皆さん……。ありがとうございます……!」


 ティヒヒヒ。

 やっぱり推しが四人も集まれば皆いい子だから良い感じになるのも必然だ!

 私は内心とっても楽しく、カフェテリアでの昼食を楽しんでいる。

 この調子で矢那尾さんや守華さんも加われば、きっともっと楽しくなるに違いない。


 その為にもまずは針山のクソ野郎だ。

 あいつの態度からして、まだ瀬尾さんを完全に諦めているというわけではないだろう。

 瀬尾さんからさっきの一言を、奴に直接伝えてやる必要性が有るかもしれない。


 でも瀬尾さんは怯えきっているんだよね……。

 どうすればいいんだろうか。


「その、瀬尾さん。針山のやつに直接お断りしたことは……?」

「一度だけ。最初に声をかけられたときに、お断りしました……。

 でも彼、それで諦めたつもりでもなさそうで……。

 その後に次々と男子たちから声をかけられるようになってしまって……」

「そっか。じゃあ一度きっちりお断りはしたんだね!」

「……はい」


 それならば良い。

 一度きっちり断ってあるのならば、もう一度こちら側から態々声をかけて伝えてやる筋合いはこれっぽっちもないのだ。

 ただ瀬尾さんを私達が守って上げれば良い。


「体育の授業では、私がご一緒します……!」


 天羽さんが気合を入れてファイティングポーズを取る。

 そっか。2Cと2Dは体育の授業一緒にやるもんね。

 それならばちょうど良いのかも知れない。


「本当ですか? 是非よろしくお願いします。

 私、同じクラスの矢那尾さんという方とご一緒することが多いのですが、

 毎回というわけではないので……助かります」

「いいねいいね! よろしく天羽さん! 瀬尾さんを任せた!!」

「香月さん。貴方も今度の体育の授業。私と一緒にやる?」


 桜屋さんがフォークの手を止め、私にそうちょっと恥ずかしそうに問うてきた。


「え!? 桜屋さん、私と体育の授業一緒に受けてくれるの!?」

「だって、AクラスとBクラスは一緒にやるでしょう……?

 水無月さんはEクラスなんだし。私、誘わなかったら逆になんかおかしくない?

 べ、別に、嫌なら私は良いんだけど……!」

「そ、そんなことないよ! 是非お願いします!」

「う、うん。じゃあまた今度ね」


 本来は悪役令嬢である桜屋さんとこんなにも親しくお話ができること、体育の授業をまさか一緒にできること、それらに私は凄く感動を覚えている!

 ありがとう水面のカルテット。そう言ってみたい気分だ。


「私も今度の期末テストでは成績をあげて、上位クラスへ行きたいものだわ」


 Eクラスの水無月さんが少しだけ寂しそうにそう言った。


「良かったら今度勉強教えるわよ?」

「え……? それ私に?」

「そうよ。水無月さんに言ったの。お祖母様を説得する時にもお世話になったし……!」

「それは……その、助かるわ……」


 水無月さんと桜屋さんも仲良さそうでとても良き!!

 水無月さんはループしまくりで経験値を稼いでるから、やろうと思えば簡単にAクラスに来年度には上がってくるだろう。

 私も勉強を頑張らねばならない。オケ部なんて通っている場合ではないのだ。

 なのだが……。


「あの……香月さんはオケ部に退部届けを出したって噂なんですが……。

 それは本当のことなんですか?」

「え……あーうん。ほんとだよほんと。

 ちょっとあまり男の人が多い部活はあれかなーって、それだけだよ。たははは」


 気持ちの悪い魑魅魍魎(イケメン)達とは即刻距離を置きたいのだ。

 とは言えなかった。


「そうですか……」


 私がそう答えると、瀬尾さんがとても残念そうに肩を落とした。

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