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34 事はそう上手くは行かない

 朝。早めに起きた私は瀬尾さんへとメッセを送った。

 一緒に登校しようという内容だ。


 昨日メッセで瀬尾さんに天羽さん、水無月さん、桜屋さんの3人を紹介。

 そうして、「私達と一緒にいれば男も声かけられないでしょ」と励ました。


 瀬尾さんは私に直で「ありがとうございました」とメッセージを送ってくれた。

 きっとこれで瀬尾さんの問題は解決したに違いない。私はそう思っていた。


「これから毎日瀬尾さんと登校しよ~♪ きっと楽しいよぉ~♪」


 リズムに乗せて自作の歌を適当に歌いながら、私は着替えを済ませると朝食を食べ駅へと向かった。




   ∬




「おはよー!」

「おはようございます」


 最寄り駅で瀬尾さんと1日ぶりの再開。

 ホームでベンチにいた瀬尾さんが私に向き直り、立った衝撃でその肩ほどまでの茶っぽい黒髪と赤のリボンが揺れる。私を見つめてくる黄色の瞳には未だ怯えの色が混じっているようだった。


 だから私は聞いてみることにした。


「ねぇ瀬尾さん。オケ部で針山のやつどうしてた?」

「……やっぱりそれ。香月さんの差し金ですか?」

「うん、まぁ生徒会の3人に針山のやつが女の子にしつこく付きまとってるって、

 ただそれだけ伝えただけだよ。

 だから大丈夫。瀬尾さんの名前は出してないから……!」

「なるほど……そういう事でしたか……。

 昨日部活動が終わりかけた頃に合流してきた生徒会の3人が、

 針山君に何か注意しているようだったのは……」

「とにかく、これで暫くオケ部では平和に過ごせるんじゃないかな?」

「そうだと嬉しいのですが……」


 まだ何か引っかかるような表情をしている瀬尾さんだったが、「大丈夫、大丈夫! 私に任せて!」とバンバンと胸を叩いてアピールすると、少しだけ笑ってくれた。

 可愛い。尊い。ありがとう。ありがとう!




   ∬




「俺は本気なんだ瀬尾!!」


 校門を潜って開口一番。

 針山が瀬尾さんに突進するかのように現れた。


 瀬尾さんは絶句して口に両手を当ててしまっている。

 ここは私がなんとかするしかない。


「針山さ、朝っぱらから何なの?!」

「お前は……転入生の香月だっけ?」

「だから、私は朝っぱらからこんな場所でなんなのかって聞いてるんだけど?」

「なにって……お前には関係ないだろう。

 これは俺と瀬尾との問題なんだから! なぁ瀬尾!」


 針山のやつはそうのたわって、なんと瀬尾さんに手を伸ばそうとする。

 しかし私が間にガバっと割って入った。

 両手を広げて針山を制止する私。

 我ながら小さい体でGJだと思う。


「いいから瀬尾さんに関わらないで! 行こう瀬尾さん」

「……うん。ありがとう香月さん」


 私達はそう小さな声で話すと、足早に針山を避けようとするのだが……。


「――行かせない」


 そう言って針山が私達二人の行き先を阻んだ。


「だからなんなわけ?! 針山、これ以上迷惑かける気……?

 しかもこんな場所で……!?」


 私がかなりの大声で針山を威嚇する。

 周りにいる生徒達から「先生呼んできた方が良いんじゃないの……?」という、ざわめきが聞こえた。


 すると背後から声をかけられた。


「どうしたんだよお前ら」


 振り返ると、黒瀬の奴があくびをしながら頭を掻き突っ立っていた。


「なんだよ針山、朝っぱらからどうかしたのか?」

颯太(そうた)……! いやなんでもない。なんでもないんだ。

 ただ俺はそこにいる瀬尾に用事があって……」


 針山は黒瀬の出現に多少たじろぐも、未だ道を開けようとはしない。

 というか黒瀬と針山って……そっか。同じクラスだこいつら。

 てか黒瀬の名前、颯太っていうんだっけ。

 完全に忘れてたけど、思い出させられた……。


「そうなのか……?」


 黒瀬が確認するように私を見る。

 それに私が首を横にブンブンと振って否定すると、黒瀬は再び浮かない顔で頭を掻いた。


「しょうがないな……これで貸し2だぞ」


 黒瀬は呟くように私に向けて指を2本立てると、前に出て針山の肩に右腕をかけた。


「まぁ針山。嫌がってるみたいだからその辺にしとけって、な?」

「ちょ……颯太! マジで違うんだ。俺は別に……!」

「いいから、いいから! ほら行けよお前ら」


 黒瀬がそう言って、針山をどかすように道を開ける。

 針山は多少抵抗しているようだったが、身長180を優に超え、190cmに迫ろうかという黒瀬に肩を抑え込まれては、自由に動けないようだった。


「まぁ感謝する……てか貸し2って……」


 あんたまさか、Cクラスで天羽さんを呼んで貰った事くらいで貸し1だと思い込んでたの?

 そう言いたいところだったが、いまは逃げるのが先だ。


「行こう瀬尾さん!」

「……はい!」


 私達二人は、針山とじゃれ合っている黒瀬の横をすり抜けて各々のクラスへと向かった。

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