33 バイトは裏統制新聞で
良いことをした後は気分がいい。
針山の奴をしつこいつきまといストーカー野郎として生徒会に突き出した後、悠々自適といった体で生徒会室を後にした。
これで少なくともオケ部では瀬尾さんは静かに過ごせるはずだ。
外部で瀬尾さんに付きまとってくる奴は私がガードしよう。
天羽さんや水無月さん、桜屋さんに紹介して一緒にお昼を過ごすとかしたら良いと思う。
きっと楽しいに違いない……!
推しが増えるのはとても良き!
私が気分良く生徒会室を出てカフェテリアまでの道を闊歩していると、見たことのある男が目に入った。浅神だ。
げぇ……浅神の奴なんでこんなところに!?
奴はもうバイトをしに行っている時間のはずだ。
そう思い、浅神の視線の先に注目する私。
校内掲示板があった。
そうか! バイト募集掲示板!!
ゲームだった頃の水面のカルテットにはバイトをする方法が2つある。
一つは街中のバイト情報誌から一般募集してる日雇いバイトにスマホで応募する方法。
そしてもう一つが校内バイト掲示板でレアバイトをゲットする方法だ。
前者は安定してお小遣い稼ぎができるのに対して、後者は一攫千金だったり攻略キャラの好感度だったりが付いてくることが多かった。
浅神は新しいバイトを探しているのかも知れない。
「あ、幼女先輩……?」
と、私がジロジロと浅神を見すぎていたからだろう。
浅神が私を見つけて、ジトッとした目線を送ってきている。
「あら、浅神くんごきげんよう」
「ども。つか先輩……じゃなくて同学年か。同じ学校だったんですね?」
「おほほほほ。そうみたいねぇ奇遇だわぁ~」
「……」
浅神はと言えば、校内上履きの色で私の学年を特定。
こちらを値踏みするようなジト目を変えるつもりはないようだ。
「先輩……じゃないけど、とにかく、名前は?」
「……2Bの香月。もういいでしょ浅神。私もお前も入用だった……そうじゃん?」
私が言った台詞が浅神には伝わったようだった。
本来、統制学院の生徒のバイトは完全報告制だ。
しかし――私達はそうではない。
浅神は言っていたはずだ。
“料理長の山鳥さんの紹介でヘルプに来た”
この言葉の通りならば、事前報告を行っていないバイトは校則違反である。
ゲームでも単発バイトを教師に見つかりそうになったところを、ホルンの伊集院に助けられるなんてイベントもあったと記憶している。
だから私達は――共犯者だ。
「まぁいいけど……お互いに入用だったのは確かだ。
あのあと皇とは……?」
「別に、あんたに関係ないじゃん」
浅神は「ふーん」と余り興味なさそうにしてから再びバイト募集掲示板を見やった。
仕方ない。皇を任せた借りはある。
だからここでそれを返上するのも悪くはない。
「浅神、あんたバイト探してんの……?」
「おう」
「どんなの?」
「時給が高くて楽なやつ」
私の顔すら見ずに言う浅神。
私は余りにも俗な答えが帰ってきて、ティヒヒヒと笑ってしまった。
「それなら良いバイトを紹介してあげる」
そう言って私はスマホを開く。
そして……スクショでも送れれば良いんだけど、私は別にこいつらと仲良くなりたいわけじゃない。だからスマホでID交換しようってわけじゃあないのだ。
だから鞄を開いてルーズリーフを1枚取り出すと、既に決まっているものを除外。
奴に向いてそうな仕事内容と連絡先、時給をメモした。
「ほら」
そうして押し付けるように渡したルーズリーフを浅神は胡散臭そうな目で見る。
「え……? やばこれめちゃくちゃ時給良いじゃん、幼女先……香月だっけ?」
「ふふん、まぁね。それにアンタだって腐っても統制学院。
中学生の家庭教師くらいわけないでしょ?」
私はゲームで知っている。
統制学院に入るまでの浅神は学年トップクラスの成績だったことを。
そのほか今は考えなくても良い、浅神の家庭の事情を含む攻略情報が脳裏に浮かぶ。
でも、そんなものは今の私には関係ない。綺麗サッパリ受け流そう。
「んじゃ、私はこれで。メサイアでの借りは返したから」
「おう、ありがとな」
そう一言だけ言う浅神が私を見送り、私は統制学院での今日の放課後活動を終えた。




