28 悪役令嬢はグラーベに語る祖母が苦手
「それで……通販サイトってのはどんなものか説明してもらおうか」
重々しく腹に響く声を上げているのは、桜屋さんのお祖母さんの珠代さんだ。
言われ天羽さんの側近が天羽さんにタブレットを手渡し、それを天羽さんが桜屋さんへパス。
ちょっと見えた画面には桜屋さんの着物写真が写った通販サイトが移されていた。
「プロトタイプって聞いてたけど、もうほとんど出来てるんだね……」
私が小さな声で天羽さんに呟く。
「えぇ……みなさん急いで頑張ってくださったんです。
先程撮った私達の写真が使われているんですよ」
そう言って天羽さんがにこりと微笑む。
「だからこうやって身長とお尻の大きさに合わせたサイズを大まかに指定して注文。
もしウチのお店で採寸したいって場合にも対応できるようにしてあるわ。
だからこだわるお客さんは、実店舗の方へ誘導することもできるってわけ……」
桜屋さんが天羽さんの側近に教わったサイトの仕様を説明している。
しかしその評定はいつも見る桜屋さんとは違い、真剣さと緊張が滲み出ていた。
どうやら桜屋さんはお祖母さんが苦手らしい。
「大体のところは理解したよ。
この通販サイトってやつも良く出来てるように思う……。
ウチで採寸できるようにしてあるのは気に入ったよ。
けどね、わたしゃこのSMLのみのサイズ表記が気に入らないね。
殆どの客はこっちを選ぶんだろう? ならもうちょっとサイズに種類があってもいいだろ。 例えば尻のでかいお客さんに向けて、S大サイズを用意するとかね。
もうちょっと細やかなサイズ種類が欲しいところだ。
そうでなけりゃ客の満足度が下がるばかりに思えるね」
珠代さんの厳しい指摘に、天羽さんが息を飲んだ。
桜屋さんも不安な表情を隠しきれないようだった。
そんな時、水無月さんが提案した。
「それではいっそ桜屋さんのお祖母様の言う通りに、注文サイズパターンを増やしましょう。
着物では確かにヒップの大きさは身長並みに重要な要素だもの。
高額な商品だし、どうせ注文を受けてからお仕立てするのがほとんどでしょう……。
それに、お尻が窮屈な着物なんて着てられないわ」
「分かるじゃないかお嬢ちゃん。あんた名前は?」
「水無月未名望と申します、珠代さん。
桜屋立日さんとは今日お友達にならせて頂きました」
「ほう」
そう言って珠代さんは水無月さんに笑顔を向ける。
その話を聞き、天羽さんの側近が桜屋さんに耳打ちをした。
「お祖母様。それではS、S+、M、M+、L、L+の6種類でどうでしょうか?
+表記付きはお尻のサイズを少し大きめに作るということで……。
それに加えてウチのお店で採寸をする事もできるように致します」
「ふむ……それならばまぁ……」
そう言って珠代さんは考え込むように黙ってしまう。
数分間珠代さんがタブレットを弄りながら、通販サイトのプロトタイプを眺める。
そして、言った。
「皇さんとことの話は本当に良いのかい立日」
「え……?」
桜屋さんが言われてぽかんと口を開ける。
「こちらさんのお話を受けるとなれば、あちらさんが立たない。
あんただってそれは分かってるはずだよ立日。
経営が上手く行ってないあたしらは別として、あんたは自分で自分の旦那をしっかり選んだって良いんだ。美月は――あんたのお母さんは色々あんたに言うようだけどね。
わたしゃあんたに自分自身でしっかり選んで貰いたいんだよ。
せっかくこんな良いお友達のみなさんもいるんだ……」
「お母様!?」
「美月! あんたはでしゃばるんじゃないよ」
「お祖母様……」
珠代さんに諭されるように言われ、桜屋さんの眼に光が宿った。
ゆっくりとお祖母さんの顔を真っ直ぐと見据えた桜屋さん。
「お祖母様……わたし、時夜との話は――皇さんとのお話はお断りします。
だって私、ウチの着物がリーズナブルな安物に変わって行くのなんて見たくないもの。
わたし、アマバネの人たちと一緒に世界に向けてもう一度頑張ってみたい!」
桜屋さんはお祖母さんにきっちりと言い放った。
少しだけお祖母さんに似て重々しい言い方で、いつもの桜屋さんの声よりも低音でずっしりしていた。そんな桜屋さんの声も可愛い。
「……そうかい。それなら決まりだよ……!
天羽……文歌さんと言ったかな?」
「あ……はい……!」
天羽さんが驚いたように返事をする。
「この老舗呉服屋、桜屋をどうかよろしくお願いします」
珠代さんが居を正して、天羽さんへと深々と頭を下げた。
桜屋さん編が終わりです!
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