27 お着物協奏曲
「こんにちは!」
私と水無月さんの二人が朝早くに天羽さん家を訪ねると、総勢20名は居ようかという使用人たちに囲まれた。キーネン家を超えるとても大きなお屋敷に尻込みしつつ、私達は桜屋さんのお祖母ちゃん説得の為の事前打ち合わせを行う事となった。
「遅かったわね」
部屋に通されると、既に到着していたらしき桜屋さんが私達二人を睨みつけた。
「それになに? なんか知らない子がまた一人増えてるんですけど……!」
桜屋さんの文句に私はたじろぐ。
しかし――
「――水無月未名望と言います。
統制学院2年Eクラス。この間転入してきたんです。
同じ転入生の香月さんと仲良くさせて貰っています。
その縁で天羽さんともお知り合いになりました」
「そう……それでこの子が来た理由は?
というか、その腕骨折してるわけ?
てかEクラス……?」
「いやいやいや……!
水無月さんは実はAクラスに匹敵するとも劣らない頭の良い子なんだよ……!」
私がなんとか擁護に入ると、桜屋さんは「ふん」と鼻を鳴らす。
さすがは皇ルートの悪役令嬢。
やっぱり原作通りに水無月さんと桜屋さんの相性は良くないのかも知れない。
そう思った私だったが、次の桜屋さんの一言に驚かされた。
「まぁ良いわよ。ちょうど黒髪ロングの子がいなかったし。
私は染めてるしパーマもかかってるけど、
この子なら典型的な日本女性って感じの仕上がりになりそうだしね……。
香月さん、よくやったわ!」
桜屋さんに褒めてもらった。
恥ずかしそうに誰かを褒める桜屋さん可愛い。
奥に控えていた天羽さんも安心したのか、紅茶をゆっくりと一口飲んだ。
「私も店の人を何人か連れてきてる……、
けど、まさか既にここまでウチの商品を研究してるなんてね……!」
そう言って、私達が通された大部屋を桜屋さんが見渡した。
周りには各種着物や帯、生地、小物に至るまで取り揃えられており、
まるでお店に来たかのような華やかな部屋になっている。
さすがは天下のアマバネの力だ。
僅か1日でプランニングしたにも関わらず、
天羽さんとお爺さんは桜屋とのコラボに本気らしいというのが伝わってくる。
「これ皆ウチのでしょ……?
見れば分かるわ。本当にここまでよく揃えたわね天羽さん」
「いえ……私はお祖父様の用意してくださった方の指示に従っただけですから……」
「そう。さすがは天下のAmabaneね。
私達、老舗呉服屋ではこうもスピード感を持って動けないわ……」
メッセで聞いているが、コラボが計画されてから全国の桜屋にて天羽さん達が商品を買い集めていたらしい。揃えられたのは全て、私達高校生に似合うような振り袖だ。
私達は通販サイトの仕様に関して説明に行く為、商品分析がてら着物を着ていくことにした。
「それで、話は聞いてるわ。
私に貴方達にベストな着物をこの中から選べっていうんでしょう?
任せて頂戴と言っておくわ!」
桜屋さんは自信満々にそう豪語して、出されていた紅茶を一息に飲みきった。
桜屋さん指示の元、私達4人の着物が選定された。
そしてそれを着付ける間、桜屋さんへ天羽さんとその側近――全員女性だ、によってお祖母さんに対するプレゼンテーションの内容が説明されていく。
「どう……!」
自信満々に桜屋さんが言い放ち、天羽さんの側近が写真を撮り始める。
最初に完成したのは天羽さんの着付けだ。
藍色に白の花柄模様、緞子というとても良い生地が使われているらしい。
それに更に同じ藍色の髪飾りが選ばれた。
天羽さんの青の瞳にマッチしていてとても可憐に見える。
「凄く良い! 良いよ。可愛いよ天羽さん!!」
「えぇ……文……天羽さんの瞳の色に合っていて、とても綺麗だわ」
そう言いつつ、水無月さんも殆ど着付けが終わっている。
「水無月さんもとても似合ってるよ……!」
濃い紫色の着物にライン柄。そして朱色の帯。
天羽さんと違い髪飾りはないが、その美しい長い黒髪がとても着物に似合って映えている。
私の感想に琥珀色の瞳が動揺するかのように揺れた。
「私は別に……普通じゃない? 普通よ普通」
「ちょっとそこ。私の見立てに何か文句でもあるわけ……!?」
「まぁまぁ桜屋さん!」
「ふんっ」
私が戯けるように嗜めると、桜屋さんは落ち着きを取り戻した。
そんな桜屋さんも既に着付けが終わっている。
薄い緑――山葵色の無地の着物に、明るめの黄色の帯が合わせられている。
桜屋さんの普段の制服姿とは違い、落ち着いた印象を与えてくれている。
綺麗という言葉が素直に出てくる出来だ……!
「桜屋さんも綺麗だよ……!」
「えぇ……本当に……!」
桜屋さんを褒め称える私にウィスパーボイスで天羽さんが続く。
そして私はと言うと……他の3人とは少し趣向を変え、袴姿ということになった。
ピンク色の上衣に濃い紅色の袴だ。
上衣には多種多様な色の蝶の柄が添えられている。
「香月さんもお似合いです……!!」
文歌がそう言い、私の袴姿を褒めてくれる。
ありがとう!ありがとう!!
「まぁ私が選んだのだから当然ね。
ところでその眼鏡、コンタクトにすることは出来ない?
別に眼鏡でも悪くはないのだけれど……」
「別に良いんじゃないかしら一人くらい眼鏡をかけていても」
「はい……私もそう思います……!」
そうして、私達4人の準備は整った!
てか眼鏡は私のトレードマークなので譲れませんっ!




