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24 強制力のクレッシェンド

「こんなところにいたのかV1」


 私がAクラスで鬱々とした雰囲気を一人醸し出していたところに、背後から声をかけられる。

 振り返らなくたって誰かは分かった。

 キーネンの奴、一体こんな時になんだって言うのか。


「練習だV1。今日という今日は来てもらうぞ……!」

「なんで、嫌だって言ってるじゃん」


 振り返らずに答える。


「何度も言うが俺はお前の退部を許可した覚えはない。

 桃子女子の方へは俺がしっかりと言っておく。

 それに話を聞くと言ったのはV1お前だぞ。さぁ、音楽講堂へ行くぞ!」


 キーネンが私の腕を捕まえて、引きずるように私をAクラスから連れ出そうとする。

 天羽さんが「あの……!」と言ってキーネンを阻もうとするが上手く行かない。

 押しが弱い文歌可愛いよ文歌……。


 はぁ……めんどくさ。

 確かに話は聞くって言ったし、一度くらいは音楽講堂に顔を出してやろう……。

 めんどくさい。上手く行かないって本当にめんどくさい。




   ∬




 音楽講堂へ行くと、ヴァイオリンが私を待っていた。

 講堂の楽器室に預けていたそれを仕方なくケースから取り出して指で弾く。


 ポロン。


 休んだのはたった数日だというのに指の皮が薄くなったような気がした。

 そして楽器を用意して講堂へと出ると、私はまだ満足にチューニングも行っていない段階だったのに練習が始まってしまう。


「よし、それでは50小節目からスタートして80小節目まで」


 キーネンの指示通りに今年度の学祭で演奏する演目の練習が始まった。

 これならばまだ良い。

 楽器の練習をすればいいだけならば例え魑魅魍魎(イケメン)の巣窟たるオケ部でも居るのに苦痛はない。

 私は楽譜を見ながらも、ほとんど練習に気合が入らず、

 周りの女子たちとキーネンの振る指揮棒だけをただただ眺めて両腕を動かしていた。




   ∬




 練習が終わり、同じクラスの女子が私へ話しかけてくる。


「ねぇ香月さん。まだ自己紹介が中途半端だったじゃない?

 だから私達、もう一度自己紹介をしようと思って……」

「そうなんだ……」


 そう言って自己紹介が再び始まった。恐らくはキーネンの差し金だろう。

 奴を見ると「ふっ」と明らかに私を見て笑った。

 友達を作らせることで、逃さない。これが『お話』ってわけだ。


 皆の紹介に返す言葉も奮わず、私はただまだ覚えきっていないオケ部女生徒達の声を聞く。

 いくつか気になる声の子もいた。

 恐らくは私の推しの声の人だろう。

 けれど、いまは桜屋さんの事が後を引き摺っている。


 そして女子たちによる自己紹介が終わると、男子たち(魑魅魍魎)が群れを成してやってきた。

 来るわ来るわ。狸100匹や箸百膳どころではない勢い。

 魑魅魍魎(イケメン)たちが私に、唇の軽重も開合さわやかに美辞麗句を並び立てる。


 主だったゲームでの攻略面子も珍しく見事に揃っていた。


 トランペットの霜崎(イケメンその5)

 トロンボーンの伊勢谷(イケメンその6)

 ホルンの伊集院(イケメンその7)

 チューバの豪徳寺(イケメンその8)

 ピアノの千本柳(イケメンその9)

 フルートの小鳥遊(イケメンその10)

 クラリネットの佐籐(イケメンその11)

 パーカッションの針山(イケメンその12)

 ヴィオラのイヴン(イケメンその13)

 etc……。


 残るは黒瀬や浅神、それから皇の糞野郎のように、オケ部以外から加入する面子である。

 しっかし、本当に超大作乙女ゲーだったな水面のカルテット。

 出てくる魑魅魍魎(イケメン)たちが多すぎる。


 はぁ……なんで私、あんなにも関わり合いになりたくなかったオケ部にいるんだろう。

 こいつらに関わってしまうと、絶対に後がない。

 まるで私が水無月さんの代わりに、水面のカルテットのヒロインに祭り上げられる感覚。

 この薄ら寒い感覚に慣れきってしまう前に「用事があるからそろそろ行くね」と言ってオケ部の輪から抜け出した。


 講堂の楽器室で楽器を片付けながら、

 私は今後一切、オケ部に近づかないようにしようと誓う。

 そして楽器室に自分のヴァイオリンを預けることなく持ち帰ることにした。

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