23 自信のデクレッシェンド
「家の人に相談するわ……。少しお時間を頂いてもいいかしら?」
それだけ言って連絡先を私達と交換。
アマバネとのコラボ案件を引き取っていった桜屋さん。
しかし、あれからもう3日が経とうとしていた。
いままでスピーディーに物事が展開してきたにも関わらず、ここに来ての大遅延。
必殺の一手を放ったつもりだった私はへこたれそうになっていた。
「まだ3日ですから……大丈夫ですよ……!」
メッセでそう言ってくれる天羽さん片目に、私は午後の授業を終えようとしている。
ここは連絡を取ってみよう……!
授業終了のチャイムが鳴り、6限の古典教師が去った直後。
私は天羽さん、桜屋さんと組んだグループにメッセージを送ることにした。
“こんにちは。
この間の件、検討してもらえたかな?”
しかし、返事はない。既読にはなっている。
返事を書いているのだろうか……?
「まさか既読スルーとかないよね桜屋さん……!」
そう私が呟いてから十数分。
掃除婦のおばちゃんによって掃除が始まろうかという頃。
隣のCクラスにいたであろう天羽さんがやってきた。
「こんばんは。香月さんはいらっしゃいますか?」
「あ、天羽さん! どう思う天羽さん!?」
「はい……。私も桜屋さんから返信がないのが気になって……」
話は伝わっているようで、天羽さんも既読スルーしている桜屋さんを案じている。
アマバネコラボが気に入らなかったのだろうか?
いや、そんなわけがない。
桜屋さんに渡された書類には初期ロット数が記載されていたはずだ。
着物の発注としては莫大な数なのは間違いない。
それにお値段も20万半ばと、決して着物として安物ではなくデパートで売ってるレベルのものだ。
加えて、アマバネ内に老舗呉服屋桜屋の支店を作らないか?
といった話まで同時に行われていたはずなのだ。
これ一つで経営難脱出! とまでは行かないだろう。
けれど、こんな美味しい話を断る必要性を感じない。
そんな時、ピロロンとスマホが鳴った。
“実は……お断りさせて頂こうかと言う話になっています”
そんな馬鹿な……どうしてそうなった!?
桜屋さんから突然届いたメッセージに、私達は唖然とした。
“どういう事か説明してもらってもいいかな?”
“なにか気に入らない部分でもあったのでしょうか?”
私と天羽さんが矢継ぎ早にメッセを打つ。
しかし返事はない。
「天羽さん!」
「はい……!」
「こんな事してる場合じゃない、Aクラスに乗り込もう!!」
私がそう高らかに宣言し、天羽さんもやるぞっといった感じで握りこぶしを作った。
∬
「頼もー!!」
Aクラスの頑丈そうなドアをずばっとぶち開けて魔窟へと乗り込む。
もう掃除婦の叔母ちゃんによる掃除は終わっている。
そして、おしゃべりに興じていた集団の中に桜屋さんを見事発見した。
しかし、
「どうした、なにか用でもあるのか……?」
私達の突入に真っ先に反応してきたのは皇だった。
皇は私とその陰に隠れている天羽さんを舐め回すように見つめる。
先日のグランドメサイアでの騒動があったばかりだ。
天羽さんは絶対に貴様なぞには渡さん! 私が守る!!
「いやあんたにはない……!」
「そうか……」
「あの、私達、桜屋立日さんに用事があって来ました」
私の陰に隠れるようにしていた天羽さんが照れながら言う。
座っていた机から降りると、桜屋さんがゆっくりと近づいてきた。
「メッセで断ると言ったはずですが……?」
「けど、理由を聞いてない!」
「それはおいおい……」
「そうじゃなくて、いますぐ理由を聞きたいなって」
私がそう詰め寄ると、皇が「もしかしてアマバネの話か?」と割り込んできた。
は? なにお前知ってるのかよ皇。
面倒くさいことにならないだろうな……。
「なに……?」
「何もなにも、アマバネの話だろう? あれなら断る事になったと言ってる」
「なんであんたがそれを知ってるの?」
「何故って……それはお前が原因だろう」
「は……?」
皇は恥ずかしそうに頭を掻くと続けた。
「この間、お前に言われて気付いたんだよ。
もう親父の操り人形になるのはごめんだってな。
だから親父に言ったんだ。俺はいま気になってる子がいるってな」
「もう時夜……」
桜屋さんは恥ずかしそうに皇を小突く。
一体何だこれ。は? ふざけてるのかな本当に。
なんでそんなちょっと嬉しそうにしてんの桜屋さん。馬鹿じゃないの。
お家の為だからってそこまで体を張ることないのに……!
「それで俺達の婚約話が唐突に持ち上がってて……」
「それでとても良いお話だけど、
皇グループとの再編の可能性や新しい事業経営の形の事もあるし、
アマバネさんのお話はお断りさせて頂こうって……ね……時夜?」
皇と桜屋さんの二人の言葉に、取り巻きの生徒たちが「ヒュー」と茶々を入れる。
「さっすがトッキーやるぅ!」
「おめでと、りつひー!」
そんな歓声に包まれるAクラスの最中、私だけが悶々として一人、
「は?」
と小さく呟いた。




