21 百合ゲー狂想曲
「水無月さんには分からないかもしれないけど、
私にはその理屈ちょっとは分かるんだ……
私の世界では乙女ゲーとして発売されてるけど……でも……元は百合ゲーかもで……」
百合ゲーだった可能性がある……。
そんな事を本人の前で大手を振って口走っても良いのだろうか?
水無月さんが天羽さんを大切に想っているのは分かる。
分かるけど、ガチ百合なのかまでは判別に困る。
「香月さん驚かないで聞いてくれる?
私達は何もみんなが皆、女性同性愛者だったというわけではないの。
ただ、お互いを尊重し合った結果、男よりも好いていた……それだけの話よ。
だから私達はみんなでお金を出し合ってマンションを購入したの。
お互いにお互いよりも好きな男性ができるまでの場所、あるいはそれが永遠と続けば……。
みんなからはこう呼ばれていたわ――老人ホーム水無月荘」
水無月さんは真面目に自分たちのことを語っている。
「老人ホーム……」
「そう。貴方には分からないかもしれないけど」
水無月さんは悲しそうに瞼を伏せる。
百合ゲー時代の情報はこれ以上もう引き出せそうにない。
「そ、それで。セーブについて教えてもらってもいいかな?」
「えぇ……いいわ。どうせ貴方が新たな因果を得るのをサポートするつもりだもの」
そう言って水無月さんは片手で鞄を開く。そして暫くゴソゴソすると、1枚のルーズリーフを渡してきた。そこにはこう書かれている。
――――――――
セーブ1。
転入初日(20xx年4月1日)。
夜、寝る前。
セーブ2。
転入2日目(20xx年4月2日)。
10時頃。病院に運び込まれた後、骨折だろうと簡易診断された直後。
セーブ3。
転入2日目(20xx年4月2日)
グランドメサイアにて。Amabane一行が到着した直後。
クイックセーブ。
転入3日目(20xx年4月3日)
お昼。3人でお昼ごはんを食べた直後。
――――――――
各セーブポイントとその詳細について記されている。
うげ。まだ水無月さん転入初日のセーブ残してあるのか……。
転入2日目のセーブも2つ残っている。
もしかしたら、転入初日に戻られたら私は消えてしまうかも知れない……。
そんな不安を覚えながら、水無月さんの方を見た。
いっそお願いしてしまおう。そうすれば少しは躊躇ってくれるかもしれない。
「セーブに関しては分かったよ。
あとお願いがあるんだ。
私が転生者だってことに気付いたのは、転入2日目の朝なんだ。
だからセーブ1に戻るのはできれば止めて欲しいんだよ水無月さん」
私が消えてしまうかも知れないから……そこまで言わずとも伝わるだろう。
事実、水無月さんは私の言葉を聞いて、
「そう……分かったわ。
その代わり貴方には私達を手助けして欲しいの。
この男たちの倫理が支配する世界から抜け出すための手助けを……!」
真剣な面持ちで私を見る水無月さん。
真面目な時の表情はやはりそれはそれでとっても可愛い。
こんな可愛い推しに頼まれれば『うん』と言わないわけにはいかない。
「分かったよ……!」
決意を新たに女の子達を助ける事を決めた私。
他にも知りたい情報がある。
「それで……ステータス画面とかはあるのかな?」
「ステータス……? それはないわね」
「え……? マジでないの?! 他にチートは!?」
私が狼狽えて頭を掻くと、水無月さんは不思議そうな顔をした。
「何度も言うようだけれど、男たちの倫理が支配するこの世界と違って、
女性が強くて優しい世界だった。それだけで至って普通の世界だったのよ。
セーブの使い方も至って単純だし、他にチート? っていうのはないわ」
そう言って水無月さんは、セーブの使い方を教えてくれる。
この地点をセーブ○とする。でセーブ。
セーブ○へ戻る。でロード。
たったそれだけだ。
ステータス画面も何もない。
「マジで良く今まで何度もループ出来てるね水無月さん!! 凄い! 凄いよ!!」
私が尊敬の眼差しを向けると、水無月さんは目を細めると「やめてよ……」とだけ呟いた。




