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20 未完成の譜面

 統制新聞部を出て校門付近。

 私はそこである人物を待っていた。水無月さんだ。


 天羽さんだって助け出したんだ。そろそろ語ってもらうよ水無月さん!


 メッセで連絡を取って待つこと数分、水無月さんが校門へとやってきた。


「こんばんは香月さん。

 放課後は用があるって言っていたけれど、そちらはもう良いの?」

「うん、まぁね。そうだ水無月さんにもその成果をお裾分けするよ!

 二人まではアプリを広めて良いって言われてるからね」


 私は鞄からプリントアウトされたQRコードを取り出すと、水無月さんへと見せた。


「アプリ……?

 良からぬものじゃないでしょうね?」

「全然だよ! なにせウチの新聞部謹製だし!」

「新聞部……? 香月さん、貴方まさか矢那尾さんに……?」

「え、うん。そうだけど……。

 水無月さんまさか知り合い……?」

「……」


 水無月さんはスマホを取り出してQRコードを撮影しながら黙り込んでしまった。

 そして、水無月さんはアプリのインストールが完了。

 裏統制新聞のアプリ画面が水無月さんの琥珀色の濡れた瞳に映った。


「裏統制新聞……!? まさか、矢那尾さんが協力してくれたっていうの……?」

「うん、そう! なんか不味いことあったかな?」

「不味いも何も……」

「あぁそうだ、これ位置情報をきちんとONにしておいてね。それが契約内容だから」

「契約内容……。えぇ分かったわ。これだけの情報があればもしかしたら……」


 水無月さんは狼狽するような態度から一転、唇に指を当てると考え込み始めた。

 そして、


「はぁ……そうね。もう教えてしまう事にするわ。

 あなたはどう考えても、私のいままでのループの中でも異端。

 私のセーブの影響を受けず、記憶を保持してるのなんてあなたが初めてだもの。

 文歌の件で手伝って貰ったのは確か。

 あなたの提案に乗って、あなたを利用することにする」


 そう言って、水無月さんはあきれたような表情を私に向ける。

 でもそれって、私を少しは信頼してくれたってことなんじゃない?


 推しの信頼を獲得したことで、思わず笑い声を漏らしそうになったけど堪える。


「前に言っていたでしょう? この世界はゲームだって。

 それ、私にはすごく納得だったのよね」


 そういえば、そんな事を言ったかな。

 あれは一番最初に水無月さんがセーブ2へ戻った時だ。


「それは……まるでゲームみたいなセーブが使えるからって事?」


 水無月さんは深く頷いて、そして語り始めた。


「ある日、私達の世界は唐突に終わった。

 香月さん――あなたが歪曲って呼んでる状態、それと似たような事が急に起きたのよ。

 もちろん私がやったわけじゃない。勝手に起きた。

 そして、この男たちの倫理が支配する世界に私達は迷い込んだ」

「男たちの倫理……?」


 えっと、乙女ゲーの世界って事?


「あのね香月さん、統制学院は統制()学院だったって言ったら信じる?」

「えっ、女学院!?」


 まさかそんな事! だってゲームでは……。


「統制女学院――そこで私と文歌は……いいえ、私達は安寧の日々を送った。

 それから私達が学院を卒業して幾年もの歳月が過ぎたある日。

 世界は突然に終わった。

 私が次に目覚めたのは、共学になった統制学院へ転入した初日の夜。

 そして頭の中に、プログラミング言語のような数式と共に、使い方が流れ込んできた。

 セーブ1、セーブ2、セーブ3――そしてクイックセーブ」


 水無月さんが嘘をついている様子はない。

 きっと本当に、統制学院は――統制女学院だったのだろう。

 それに、私にも思い当たる節がないわけではない。


 水面のカルテットの制作は難航していた。

 加えて、“シナリオは百合畑出身のライターと、乙女ゲーブランドのエースとの共作”


 ゲームの世界が存在するとして、その世界の神は彼らだ。

 もし仮に、乙女ゲー『水面のカルテット』、そのたたき台が百合ゲー『水面のカルテット』だったとしたら――?

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