16 婚約拒否はマルカートで
「皇時夜! あんた達の企みはトータル、オールでお見通しだ!」
「は?」
「……」
皇と浅神は、私の唐突な発言に目を丸くする。
横にいる水無月さんまで不安そうな視線を私へ向けてくる。
更には天羽さんまでもが小首を傾げる。
ちょ、待ってよ! 私は二人のためにやってるのに!
いや冷静になれ私。
少なくとも天羽さんは、たぶんまだ事の次第を知らされていないだけだよ。
「てやんでぃ! 知らないとは言わせないよ!
天羽さんの叔父さん叔母さんと組んでのアマバネ乗っ取り計画……!
好きでもない女の子を利用しようっていう、その薄汚い根性!
神様は見逃しても――この私に、隠せるモノとは思っていないでしょうね!」
口上の勢いに任せて一歩大きく前に出る。
自分で言っといてなんだけど、私に隠せずしてどうなるっていうのか。
いやいや、深く考えたら負け負け。うん。
「へぇ……そうか。
もしかしてさっきの親父との会話……聞いてたわけ?」
皇がやれやれとばかりに前髪をかき上げる。
けれど反省している様子はない。
「アマバネの乗っ取り……? 叔父と叔母が彼と……?
どういう事なんですか、香月さん」
「天羽さん。ごめんね、辛いことだと思うけどよく聞いて。
お爺さんはね、病気なんだよ。もう長くないんだ。
それを知った叔父さん叔母さんが、この乗っ取り計画を仕組んだってわけ」
「そんな……嘘です! お爺さまが病気なんて私は……!
まだまだお元気で……」
天羽さんはゆっくりと頭を振る。
いつもは朧気な瞳が大きく見開かれている。
「それはね、文……天羽さん。
お爺さんがあなたに知られないようにしているからよ。
そんなお爺さんのあなたへの気遣いを逆手に取られているの。
叔父と叔母が策略を巡らせて……ね」
水無月さんが援護射撃をしてくれた。
ここで畳み掛ける!
「そう! そこにいる皇時夜を天羽さんの婚約者にあてがうことで!
天羽さんがお爺さんから受け継ぐであろうアマバネの株を!
全部好きに使おうとしてる……!
今日のパーティを、その初顔合わせに利用しようって腹だったんだよ!」
ドヤァ!
「俺と親父そこまで話してたか……?」
皇の顔色が変わった。
「それで今日は、いつもは疎遠な叔父と叔母が急に……」
天羽さんも動揺を隠しきれず口元を片手で覆う。
「皇……あんただって好きでやってるわけじゃないはずだよ!」
そうだ。ゲームでやったから一応は知ってる。
早くに母親を亡くした皇時夜。
伴侶を失ったショックからか、家庭を顧みずに仕事に邁進する皇父。
そんな家庭で育った時夜は……。
って、まぁそんなの私にとってはどうでもいいんだけどね。
とにかく、こいつはだらしなく父親のあやつり人形になってる。
そこをどうにか正してやれば、この場を切り抜ける事ができるはずだ。
「俺が好きでやってるわけじゃない……?
なんで分かるんだよ……?」
え……そう言われるとなんでだっけ。細部まで覚えてないよ。
いやだってほら、ゲームだと魅力と優しさ4段階の未名望が分岐条件なんだよね。
そう、『未名望の溢れる優しさと魅力が、凍てついた時夜の心を溶かす……!』とかなんとか言って、ピンク色のエフェクトがキラキラリンって画面を覆ってね?
「それは……ほら!
実はもう、『親父さんのあやつり人形はかったりぃなぁ』とかそういう……」
「……お前……なんで……!」
苦し紛れに言ってみたが、なんでかよく分かんないけど皇には効果てきめんみたいだ。
気まずそうな表情をして黙り込んでしまった。
あと水無月さんが、私を物凄くびっくりしたような表情で見てる。
あれ、私なんかまずいことしたかな?
でもでも、ここはチャンスだ!
あとは天羽さんからしっかりと拒否の意思を伝えてやれば……!
「天羽さんも言ってやりなよ!
こんなわけのわかんない策略で、あんたなんかと婚約したくないって!」
「え、私がですか?」
「そりゃそうだよ、天羽さんの事なんだから!」
「……はい! その申し訳ありません。
私、まだ結婚するつもりは……」
「駄目だよだめ、こういうのはがつんとはっきり言ってやらなきゃ! いい?」
私は天羽さんの左隣へ回り込むと、ごにょごにょと彼女に耳打ちする。
「さぁ! 言ってやんな!」
「はい……! あの……!
貴方とは婚約できません!!
えっと――プライベートでドレスコードのあるお店に、3回ぐらい……?
一緒に行ってから、改めて出直してください!!」
んーまぁ棒読みだし勢いはまだまだだけど、可愛いから許す!
はぁ……いい。いいよ文歌。本当は桜屋さんに言わせたかったんだけどね!
「まぁそういうわけだから! あとは任せるよ浅神くん!」
「……まぁ俺にはよく分からんが、話は一応まとまったみたいだから任された」
浅神はあまり納得の行かない様子で首筋を擦りながらも、皇を引き受けてくれた。