134 オーディション結果
ジェッダからリヤドへと帰った私達は、帰国前に大急ぎでリヤドの日本人学校を訪問。
夏休み中だったからか私達が予定を変更したからかほとんど学生はおらず、私達は肩透かしを食らった気分だった。
サラちゃんは日本の学校に興味深そうに先生の話を聞いていたから、それだけが唯一の救いだったのかもしれない。
そして、サウジアラビアからの帰国の日が迫らんとしているある日の正午過ぎ、私に瀬尾さんからメッセージが届いた。
“香月さん! 私……私! さっきスマホに電話があって、オーディション合格しました!!”
“おぉ! それはおめでとう瀬尾さん! 帰ったらお祝いだね!”
私はほっとしてそう返した。
これで瀬尾さんも声優になれるだろう。
良かったね瀬尾さん!
“はい! これも香月さんのおかげです! ありがとうございます!”
“いやいや、私は何もしてないよ。瀬尾さんが頑張っただけさ”
“いえ! 本当にありがとうございました! それで……香月さんには連絡は?”
“まだサウジアラビアだからね。スマホには連絡出来ないかな。母に聞いてみよっか?”
“はい! それが良いかと!”
瀬尾さんとそんなやり取りをして、メッセージを母に送った。
“母さん、私に声優事務所から連絡なかった?”
結果はすぐに来た。
“帰国してから教えようと思っていたのだけど、株式会社アクセルペダルの声優オーディション合格だそうよ。さきほど電話が家にあったわ。だから伊緒奈が日本へ帰ってから諸々の手続きをしましょうって話にしておいたから”
「げぇ……マジか!」
私がイヴン家のリビングで声を出すと、一緒にいた桜屋さんが「何よ、どうしたの?」と聞いてきた。
「それが……私、瀬尾さんの付き添いで声優オーディション受けたんだけどさ。瀬尾さんが合格してほっとしてたんだけど、母に聞いたら私にも合格の電話着てたって……」
「へぇ、良かったじゃない。おめでとう香月さん。でもそういうのってよくある詐欺じゃないのよね? このあとレッスン料を払えとか言われてない?」
桜屋さんは素っ気なく祝ってくれると、詐欺にあっていないかの心配をしているようだ。
「ううん……まだまだ新興事務所ではあるけど、信じられるベテランの声優さんが社長やってる事務所だから、多分そう言うことはないと思うけど……」
「そう、なら良いんだけれど……」
そんな話をしていると水無月さんがリビングへやってきた。
「ねぇ水無月さん。香月さんと瀬尾さんが声優になるらしいわよ?」
「え……? 香月さん、貴方まさか合格してしまったの……?」
「うん……まさか私まで合格するだなんて……」
「そう。まぁ瀬尾さんが落ちなくて良かったじゃない。貴方は辞退したっていいんだし」
「そ、そうだよね! 私は別に辞退したらいいんだ! 水無月さんとの会社のこともあるし、声優さんなんてやってる場合じゃないよね!?」
私が大仰にそう聞くと、水無月さんが「あら、せっかくだしやってみたら良いじゃない。女子高生声優が副社長をやってるなんてなれば、私の会社の良い宣伝にもなるし……」と水無月さんが笑った。
あー水無月さん絶対面白がってるな……!
「そうよ、香月さん。本当なら辞退するなんて勿体ないわよ」
桜屋さんまで水無月さんに同調している。
私は別に声優さんになりたいってわけじゃないんだけど!?
ただ推しの声を愛でられていればそれでいいのだ。
「取り敢えず瀬尾さんに連絡してみたらいいんじゃない? というか私が送っておこうかみんなのグループメッセージで」
桜屋さんがニヤリと笑いながら言う。
「ちょ! 待って! 私が自分で書くから!!」
「そう?」
「うん。今書くから待ってて!」
そう言うと、私はカフェテリアメンバーのグループメッセージにメッセージを書き始めた。
“実は私、瀬尾さんの付き添いで声優オーディション受けてたんだけど、さっき母に聞いたら合格してたそうです。ちなみに瀬尾さんも合格してました! おめでとう瀬尾さん!”
最初に反応したのはひつぐちゃんだった。
“え? みのりと香月さんが声優に!? それはおめでとうございます!
みのりー私そんな話全然聞いてないぞー同じ家に住んでるのにー”
“ご、ごめんなさい。まだ香月さんが合格したか分かってなかったから皆に言い出し難くて……香月さん! おめでとうございます! 私、香月さんもきっと合格してるって思ってました! 同じ事務所なんてきっと運命ですよ! 私とっても嬉しいです!”
瀬尾さんが私の合格を喜んでくれる。
そして、次々にカフェテリアメンバーから合格祝いのメッセージが入る。
“おめでと香月さん、瀬尾さん! まぁ二人の声はいい声だから余り驚きはないかな”
と鈴置さん。そして天羽さんが二階でメッセージを見たらしく、
“おめでとうございます香月さん、瀬尾さん!”
とお祝いをくれ、守華さんも“おめでとう二人共、高校生声優って凄いのかしら?”と聞いてきた。それにひつぐちゃんが“そりゃあもう、凄いですよ!”と答え、天羽さんが二階からも下りてきて「おめでとうございます香月さん!」と言った。
「うんうん、ありがとう天羽さん!」
神奈川さんはまだキーネン家でメイドをしている時間だったので反応はない。
きっと後で驚いてくれるだろう。
皆に祝われ、実感が増してきたが本当に私に声優なんてやれるのだろうか?
推しの皆が声優をするならば分かる。
でもこの私が? 果たして売れるのだろうか?
まぁ売れなかったとしても、瀬尾さんが売れるのは間違いないのだから同じ事務所で彼女の頑張りを見守るとしよう。
そう心に決め、私はサウジアラビアでの生活を送るのだった。