133 キングスタワーでショッピング
ラナ王女との面会から帰った午後。
私達はせっかくだからキングスタワーで買い物を楽しむことにした。
もちろんサラちゃんも一緒だ。
昨日完成披露式典と共にオープンしたテナントが多くあった。
それも高級ブランドばかりだ。
テロを未然に防げたことを本当に嬉しく思う。
「香月さんあのブランドもあるわ! しかも見て! 日本じゃ考えられないくらいお安い!」
ショッピング好きの守華さんがスマホ片手に日本円換算しながら興奮して私に語りかける。
キングスタワーのレディースショッピングフロアにきて、アバーアを脱いだと思ったらこれだ。
「カードも使えるわね! 買うわよ香月さん!」
「ちょっと待ってよ守華さん、私はそんなにお金もってきてないってばー!」
「じゃあ香月さんはイヴンくんの代わりに水無月さんと一緒に荷物持ちね! さぁサラちゃん行くわよ!」
「はい!」
桜屋さんが私は荷物持ちだと笑い、サラちゃんが通訳として付いていく。
「お待ち下さい。そんなに急がなくてもお店は逃げませんから」
天羽さんが皆のあとをゆっくりと追う。
守華さんと天羽さん、桜屋さんはこの時の為に100万円を越える現金を手続きを通して持ち込んできていたらしい。
そりゃ出来たばかりのショッピングモールではしゃぐ気持ちは分かるけど、そんなに急がなくても!
「水無月さん、一緒に荷物持ちだね……!」
「えぇ……レディースエリアを出るまでの我慢よ。出ればイヴンくんに全部持たせれば良いんだものフフフ」
水無月さんがそう言って楽しそうに笑う。
きっとハーリドさんを捕まえられて、イヴンが後継者になれそうなのがよほど嬉しいのだ。
サラちゃんの留学の件もラナ王女の太鼓判を貰ったことだし、サラちゃんの境遇は安泰と言える気がする。
「私、まさかハーリドさんが襲撃の手引をする前にカタを付けられるなんて、夢にも思ってなかったわ。これも香月さんのおかげね!」
「まぁ私は『新たな因果を掴む者』だからね!」
「なにそれ中二病?」
「なにさ、いいじゃんかちょっとくらいー」
「フフフフ」
水無月さんは本当に楽しそうに笑い、私達も皆の後を追う。
そしてあるブランドのお財布コーナーまで来たところで水無月さんが皆に提案する。
「みんな、サラに通訳のお礼として何か送ろうと思っているのだけれど、お財布なんてどうかしら?」
「そんな! 私、ファーリスの叔父様からも通訳をするからとお小遣いを頂いているので……!」
サラちゃんが遠慮するように畏まる。
「それはそれ、これはこれよ。ね? みんな」
桜屋さんが皆に確認を取ると、「そうですね、お礼がしたいです」と天羽さん。
守華さんも「お世話になりっぱなしだったものね!」と賛意を示す。
「私はもちろん賛成だよ! サラちゃんどれがいいー?」
「サラ、遠慮なく欲しいものを言って頂戴。統制の入学祝いの前払いも込みだとでも思って」
「そんな……まだ留学できるかも分からないのに……」
「いいから、いいから! サラちゃんこれなんてどうかなー?」
私はクリーム色の財布を手に取った。
値段は敢えて確認しない。
たぶん皆が出してくれるだろう。私も持ってる分で足りなければ帰ってから払ったっていい。
私がおすすめしたフランス語で財布という意味の名が付いてるらしい財布に、サラちゃんがごくりと生唾を飲み込む。
そりゃ裕福なサウジアラビアのお家とはいえ、さすがに中学生で高級ブランド財布は持っていないよね? たぶん。持ってたらごめん! でもこの様子ではたぶん持ってないはず!
「その、選ばないと帰れませんか?」
「もっちろん!」
「それじゃあ……長く使いたいので汚れの目立ちにくい黒のこの財布を……お願いできますでしょうか?」
サラちゃんが黒い皮財布を指し示す。
「おっけー! これだってさみんな! おいくらリヤル?」
「4000サウジアラビアリヤルね! 一人800サウジアラビアリヤルよ!」
私が聞くと、守華さんが値段を見て一人頭の金額を言う。
「おっけーそれくらいなら持ってる! 水無月さん大丈夫?」
「えぇ、私もそれくらいならなんとか……はいどうぞ」
そうして各自現金を出すと、守華さんが買いに行った。
しばらくして財布の入った紙袋が提案者の水無月さんによって、サラちゃんに手渡される。
「サラ……今まで通訳ありがとう! それからこれからも少しだけよろしくね!」
「はい! ありがとうございます! 私、頑張ります!」
サラちゃんが満面の笑みを浮かべた。