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132 テロ計画の終焉

 サウジアラビア総合情報庁のジェッダ支局でのハーリドさんの取り調べは2時間にも及んだ。

 そうして結果が出る。


 アラビア語でサラちゃんに何か言うサウジアラビア総合情報庁の人。


「スマートフォンからイスラム過激派の電話番号と、キングスタワー襲撃計画の痕跡が見つかったらしいです」

「ね? 言ったでしょう?」

「はい……でもハーリドさん、どうして……?」

「元から敬虔すぎるイスラム教徒だったんでしょ……こればっかりは仕方ないね」


 私がどや顔で言うと、サラちゃんが「そうかもしれませんが……」と残念そうに顔を伏せた。

 そうして、私達二人は解放されることになった。


 総合情報庁の車で送ってもらいジェッダのホテルへ戻ると、私達を心配してくれていたらしき水無月さん達がロビーで待っていた。


「香月さん! 大丈夫だったの?」

「うん! ハーリドさんがまさかテロリストだったとは思わなかったよ」

「そう。証拠は見つかったのね?」

「うんうん。ばっちりだよ」


 水無月さんとそんな会話をすると、イヴンが申し訳無さそうに頭を下げる。


「申し訳ありませんミス香月、それに皆さんも……まさか長兄がテロリストと通じていようとは思っても見ませんでした」

「まぁ良いってことよ! 何事もなく式典も終えられたんだしね!」


 私がぽんぽんと頭を下げているイヴンの背を叩くと、イヴンが「そう言って頂けると助かります……」と頭を上げた。


 桜屋さんがその様子を見て、「香月さんやるじゃない!」と私を褒め、守華さんが「えぇ……でも外国で無理しすぎよ!」と私を軽く咎める。そして天羽さんが「ハーリドさんはテロリストさんだったのですね……」と残念そうにしていた。


 これでもう水無月さんが無理することも、天羽さんが無理することもなくなったのだ。

 私は晴れ晴れとした気分で、その日の午後を過ごした。




   ∬




 翌日。私とサラちゃんとが襲撃計画を防いだ功労者として朝からラナ王女に呼ばれた。

 ジェッダの王室御用達だという私達が泊まっているのとは別のホテルに行き、ラナ王女と面会すると、ラナ王女は私達に「本当によくやってくれました」と感謝の言葉を述べそれをサラちゃんが訳す。


「イオナ、アリガトウ!」


 と日本語で頭を下げるラナ王女。

 そしてサラちゃんにもなにやらアラビア語で言った。


 サラちゃんは大仰に首を横に振り、アラビア語で何か返す。


 私が「なんて?」と聞くと、「さすがは私の遠い親戚だわと言っていただけました。私は勿体ないお言葉ですって返しました」とサラちゃんが教えてくれた。


「後日イオナとサラの二人に勲章が授与される予定よ。イオナの分は日本へ送るから受け取って頂戴ね。とラナ王女が仰せです」

「そんな! 勲章だなんて恐れ多いです!」


 私が両手を横にパタパタと振る。

 サラちゃんが訳すがラナ王女はゆっくりと首を横に振りアラビア語でなにか言った。


「イオナ、貴方は素晴らしいことをしたのよ。今後サウジアラビアの顔になる予定のキングスタワーでテロが起きるのを未然に防いだのだから叙勲されて当然よとおっしゃっています」

「アハハ……そこまで言うなら遠慮なく貰っておきますって伝えて!」

「はい!」


 サラちゃんがアラビア語で伝えると、ラナ王女は笑顔で頷いた。

 それともう一つ、私は念を押しておくことにした。


「それと……今回の件は全部イヴンやサラちゃんのおかげなんです。私がこうして留学できたのもファーリスさんやイヴンが頑張ってくれたからです。是非、ファーリスさんの石油会社はイヴンに継いでもらえたらなって考えてます。王女様からも一言頂けないでしょうか?」


 私が言うとサラちゃんがそれを訳し、ラナ王女が考え込む。


「けれど、ハーリドさんは廃嫡されるとして、お兄様にアダムさんもいらっしゃるでしょう? 彼は特に問題を起こしていないわ。アダムさんの意向はどうなのかしら? と言っていらっしゃいます」


 ゲーム通りならば、これまでのサウジアラビア生活の中で水無月さんがアダムさんを説得してくれているはずだ。きっとアダムさんはイヴンの味方についてくれる。


「それは……アダムさんはたぶん弟のイヴンに跡目を譲ると考えているかと……」


 そもそもアダムさんは経営者やトップに立つ器ではないと自分でも考えているのだ。

 それを未名望との生活を通して、未名望との拙い英語でのやり取りで思い知るというのが筋だ。

 そうしてアダムさんも未名望に惚れる。イヴンルートでのある意味もう一人の攻略対象がアダムさんなのだ。


 この何週間か、水無月さんがアダムさんと楽しそうに会話する場面は何度も見かけた。

 だからその部分の攻略は問題なく進んでいるはずだ。そう思いたい。


 サラちゃんが訳し、考え込むラナ王女がアラビア語で何か言い、「一応貴方の言い分は分かったわとおっしゃられています」とサラちゃんが訳した。


 本来であれば未名望がテロリストに連れられていく時、イヴンの携帯電話に通話をかけたまま連れ去られる。そしてハーリドさんの顔を見てしまっていた未名望が処刑される寸前で、イヴン達サウジアラビア総合情報庁の部隊が乗り込んで行って未名望を助け出すのだ。

 故にゲームには出てきていなかったが、おそらくはイヴンにも叙勲されるのだろう。


 そのイヴンの活躍が無くなってしまった分、少しでもイヴンをヨイショしておく必要性があると私は睨んだのだ。


「それからサラちゃん、言っちゃいなよ」


 私はサラちゃんを囃し立てる。


「え? 何をですか?」

「ほら、来年度から日本の統制学院に進学したいって話! いま言っておけば現実になるかもだよ?」

「それは……でもラナ王女にお願いすることなのでしょうか?」

「いいからいいから! せっかくのチャンスなんだし!」

「はぁ……まぁそこまで香月さんがおっしゃるなら……」


 あまり納得の行っていない様子だったが、ラナ王女にアラビア語で言うサラちゃん。


 それにアラビア語で何か笑顔で返すラナ王女。


 サラちゃん曰く「それは良いわね。今回も貴方が日本語を勉強していたおかげでイオナと未然にテロを防ぐことができたんだもの、私も応援しているわ。何か問題があればいつでも頼って頂戴ってラナ王女がおっしゃってくれています!」とのことだった。


 その色よい返事に、私はサラちゃんにとって良い因果が巡るのを感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 信仰心が篤いのはいいけど行き過ぎてしまってはね まぁ、これでイヴンが大分有利になったからありがたいんだけどさ
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