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130 キングスタワー

 3日後。24日早朝。

 リヤドの空港からジェッダの空港までおよそ1時間50分の空の旅を経て、私達は紅海に面す港湾都市ジェッダのホテルに到着した。

 そしてすぐにキングスタワーの完成披露式典へと参列する為、制服の上にアバーアを纏うと車に乗った。

 今回は政府専用車両ではないが、ジェッダだから仕方があるまい。

 ラナ王女には政府専用機と専用車両が用意されているのだろうが、急に決まった私達の参列には対応できなかったのだろう。


 そうしてホテルから25分ほど車に乗り、私達はキングスタワーに到着した。

 当然だが、高さ1000mを超える超々高層ビルの根本からは、その頂上を窺い知ることはできなかった。ただひたすらに高い建物が天空へと伸びるのみだ。


「ふわあ、スカイツリーなんて目じゃないね……」

「えぇ……そうね」


 私の雑な感想に水無月さんが答え、招待客としての手続きを済ませたイヴンが「さぁ式典は高さ650mの第二展望フロアで行われる予定です」と私達に先へ進むよう促した。

 そうしてラナ王女と会った時のようにボディチェックをされると自由になった。

 イヴンに連れられ、エレベーターに乗り込む私達。


 サラちゃんが「私、リヤドの超高層ビルなら行ったことありますけど、こんなに高いところは初めてです!」と笑顔で感想を述べる。


 耳が気圧差で若干おかしなりつつ、私達は第二展望フロアまで直行した。


「さぁ着きました、式典会場です」


 イヴンと共にエレベーターを降りると、アラビア語で係員に挨拶される。


「ようこそキングスタワー第二展望フロアへと言っています」


 サラちゃんが訳してくれて、私達は第二展望フロアに足を踏み入れた。


「イヴン、景色見てきていい?」

「えぇ構いませんよ。まだ式典の開始までは20分ほどありますから」


 私達は皆で窓に近づいた。

 そして眼の前に広がる広大な紅海に息を呑む。


「わぁ、海は大きくて広いですね」


 天羽さんがそんな可愛らしい感想を言い、私達はフロアの反対側にも行った。

 こちらは広大な大地が広がっていた。


「こちらが聖地メッカの方角ね! どんなところなのかしら?」


 守華さんがまだ見ぬ聖地に思いを馳せ、サラちゃんが「メッカは素晴らしいところですよ!」と期待を煽る。だがイスラム教徒たるムスリム以外は入れないのだから、いくら期待を煽られても行けないものは行けないのだ。ここでメッカを想うくらいしかできまい。


 そんなことを思っていると水無月さんが動いた。

 英語でなにやらドリンクを配っていたボーイに話しかける水無月さん。

 早すぎて聞き取れなかった。


 ボーイの男は水無月さんを凄い剣幕で睨みつけると、去っていった。


「水無月さん、あれハーリドさんだよね?」

「えぇ……英語で、聞こえているんでしょう? あなた達の計画はお終いよって言ってやったわ」

「ちょ……! そんなことして大丈夫!?」


 ゲームではトイレの場所を訪ねようとするだけのはずだ。

 そこでハーリドさんがこの場所にいることに未名望は気付くのだ。


「えぇ……念の為セーブはしてあるもの。私達の誰かが死ぬような事態になる前に戻るわよ」


 水無月さんはそう言うと、イヴンの元へといく。


 そうこうしていると、桜屋さんが「ほら、ラナ王女が来たわよ」と私のアバーアを引っ張った。エレベーターの方を見るとラナ王女がちょうどエレベーターから降りてきたところだ。


「間もなく式典が始まるようです。みなさん余りバラけないように」


 と言うイヴンの言う通りに、私達は固まっていた。

 直に式典が始まる。

 サラちゃんが小声で訳してくれていたので、退屈はしなかった。


「ラナ・ビント・アフマド王女殿下より、招待客の皆様にご挨拶があります」


 サラちゃんが訳してくれ、フロアに築かれた小さな壇上にラナ王女が上がる。

 そしてアラビア語でラナ王女が挨拶を始めた。

 そんな時だった。


 エレベーター側のラナ王女の護衛が大声を上げる。

 そうしてすぐに銃撃戦が始まった。

 私達はイヴンの指示の元、頭を下げるように地面に伏せる。

 ハンドガン片手に抵抗するラナ王女の護衛たちだったが、突撃銃相手に無惨にも敗れ去り屍を晒す。


 しばらくしてテロリスト達が第二展望フロアを制圧した。


 ラナ王女がテロリストに何か言うと、テロリストのリーダーらしき男がラナ王女を平手で打った。そしてゆっくりとした英語でテロリストの内の一人が言う。


「皆さんには人質になってもらう。服役中の我々の仲間の釈放と少々の資金との交換になる。抵抗しなければ命の保証はする。座っていて下さい」


 そう宣言し、私達にそのまま座っているように促した。


 そうこのまま大人しくさえしていれば、問題は解決に向かうはずだ。

 ヒロインたる水無月さんを除いては……。

 頼んだよ水無月さん!


 そうして3時間経った。

 交代でトイレに行くことはできたが何も飲み食い出来ないのでさすがに辛くなってきた頃、テロリストの内の一人が再び私達にゆっくりとした英語で何か言う。


「交渉が成立した。おめでとう、皆さんは解放されるだろう」


 その一言に私はほっと胸をなで下ろす。


 そしてテロリストの内、顔をニカブで隠していた一人が私達の方へ近づいていくる。

 これはハーリドさんのはずだが、顔が見えないので断言はできない。

 テロリストが水無月さんに近づくとアラビア語で何か言った。

 それにイヴンがアラビア語で何か言い、テロリストが頷く。


「水無月さん、立てと言っています」

「えぇ……分かったわ」


 水無月さんが立ち上がると再びアラビア語で何か言う男。


「お前にはラナ王女と共に人質になってもらうと言っています」


 その言葉に驚きの表情を隠せない私を除く日本人留学生とサラちゃん。


「分かったわ……」


 と水無月さんが返事をし、男と共に去ろうとしたその時だった。


「お待ち下さい!」


 と天羽さんが英語で言い、ゆっくりと立ち上がる。

 そして天羽さんが日本語で続ける。


「私はアマバネ創業者の孫娘です。その方の代わりに私が人質になります!」


 ニカブのテロリストがアラビア語で何か言い、イヴンが通訳するようにアラビア語で何か言った。

 するとなんと水無月さんと一緒に天羽さんまで連れて行こうとするニカブのテロリスト。


「イヴン! これじゃ二人共連れてかれちゃう! なんとかならないの!?」


 小声で言うが、首をゆっくりと横に振るイヴン。

 銃を持ったテロリスト相手に、徒手空拳ではなにもできない。

 そうして天羽さんと水無月さんとが連れ出されそうになったその時、世界が唐突に歪んだ。

 水無月さんがセーブに戻ったのだろう。

 私はぐにゃぐにゃと歪む視界の中、天羽さんの心配をした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 折角いい感じで観光してたのにふざけた事をしてくれる… わかっていたとはいえ実際にテロに巻き込まれるとキツいね
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