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13 感傷放棄のリゾルート

 水無月さんに追い払われるように会場へ解き放たれた私。

 けれど、なにをどうしたらいいのか……。


「あんた……スタッフだよな? これ頼む」


 ウェイター姿の男に声をかけられた。


「いや、スタッフじゃ――」


 私はそこまで言って、すぐに口を閉じた。


「なんだよ。早く受け取ってくれ。

 こっちはまだ料理の補充とか色々あるんだ」


 私は、男に見覚えがあった。

 なんでこいつがこんなところに居るんだ?

 でも、私をスタッフだと思っているのならば好都合だ。


「あーはい。ところで、見ない顔だけど新人さん?」

「あー、ども。料理長の山鳥(やまどり)さんの紹介でヘルプに来た浅神」

「そう、よろしく浅神くん」

「うっす」

「言葉使いには気をつけてね、あと返事は『はい』だからね」

「う……はい」

「うん。それで、これはお酒かな?」

「はい……いいえ? ソフトドリンクです」

「そう、ありがとう」

「うっす」


 私はソフトドリンクが乗った銀色のプラッターを浅神から受け取った。

 浅神は私を怪しむ様子もなく、その場を後にする。


 ゲームじゃバイト先で会う事の多い浅神。

 でもグランドメサイアでのバイトなんてゲーム内には存在しない。

 まぁいっか、考えるだけ無駄だよ。あいつは色んなとこでバイトしてるし。


 手に入れたソフトドリンクの乗ったおぼんを手に、私は皇に声をかける事にした。


「お客様、お飲み物はいかがですか?」

「……これ酒?」

「ソフトドリンクでございます」

「じゃあいいや。酒持ってきたら声かけてよ」


 ちっ、いいから受け取れよ。大体、高校生が酒飲んじゃ駄目だろ。


「大変失礼ながらお客様――未成年の方にお酒は……」

「へー、俺のどこを見て未成年だと思ったわけ?」


 やば……確かに、普通に見ればこいつらキモ男は高校生には見えない。

 まずったかも。


「――これは失礼致しました。すぐにお酒をお持ちいたします」

「いや、いいよ。俺、普段は年上に見られることが多いんだけどさ。

 ていうかお姉さん? も、体つき小さいし、子供みたいじゃない?」


 皇はそう言って、私からソフトドリンクを受け取った。


 いちいち一言多いんだよ。

 なにか強がらなきゃいけない病にでも罹患(りかん)してるの?

 確かに私は小さいけどさぁ……。


 ドリンクを配りながら傍から観察してみるが、皇は特に動く様子がない。

 私は一度水無月さんの元へ戻ることにした。


「やっほ、飲む?」

「確認するけど、お酒じゃないわよね?」

「うん、ソフトドリンク」

「なら貰うわ。グラスを持っていれば、客であると主張できるもの」


 水無月さんは左手でグラスを手に取る。


「それで、なにか変わったことはあった?」

「別になんにも? 浅神がバイトでいたくらいかな」


 答えると、グラスに口を付けていた水無月さんがいきなり咳き込み始めた。


「大丈夫? あ、もしかしてお酒混じってた?」

「違う……なんで浅神くんがいるのよ!?」

「なんでって、なんか料理長の人にヘルプ頼まれたからって……」

「そんな馬鹿な話……グランドメサイアは超高級ホテルよ?

 スタッフの教育だってしっかりしてる。

 そんな単発バイトみたいな事、そうそうあるわけないじゃない」

「そうは言うけど、だっていたし」


 私が首を傾げると、水無月さんはグラスをプラッターに戻した。

 そして左手で眉間を掴んで小さく唸り、首を振った。


「あのね香月さん……斎藤くんだって例外的なのよ?」

「ん? どゆこと?」

「私、斎藤くんなんてとっくの昔に頼ったことあるもの。

 けれど招待されていない斎藤家ではどうにもならなかった。

 いい? 私の知る限り、キーネン斎藤が指揮者としてこの日のパーティに招待されたのは、これが初めてよ」

「え!? 裏口からだから、水無月さんが気付かなかっただけじゃないの!?」

「馬鹿にしないで、私が何度ループしてると思ってるの?」


 んなこと私に言われたって、そんなの知らないし!

 もとを正せば、水無月さんが秘密主義的なのが悪い! 絶対それが原因だよ!

 まぁそこがまた良いんだけどね……。


「水無月さんが、もうちょっと素直に情報を開示してくれてたら……」

「私のせい? いやそうかもしれないけど……。

 もう! いいわよ私のせいで。

 私、確信したから! やっぱりあなたがいないと新たな可能性は生まれないのよ」


 水無月さんは私に真剣な表情で言い放つ。

 すると、会場内が少し騒がしくなった。


 どうやら水無月さんが少し大きな声を出したからではないらしい。

 少なからぬ人数が、入り口へと向かって行く。


「なにかあったのかな?」

「たぶん文歌が――主催者のアマバネ御一行が来たのよ。

 私、あなたに賭けるわ香月さん。必ず文歌を救ってみせる」


 水無月さんはそれから、ひっそりと「この地点をセーブ3とする」と囁いた。

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