129 PFU最終日と予定変更
「それでは皆さん、短い間でしたがありがとうございました! お元気で!」
日本語科の先生が最後にそう言い、私達はPFUで最後の祝杯をあげた。
お酒は禁止の国なので勿論全員ジュースだ。
少なくない人たちが私達が去るのを惜しんでくれる。
中にはこの1週間の交流でメッセージを交換した女子も何人かいた。
主に私達を案内してくれていたナディラさんが私の手を握る。
「イオナ! 私きっと日本で就職する。そしたらまた会おう!」
「うんうん! その時を待ってるよ!」
私は嘘偽りない言葉でそう答え、みんなそれぞれに出来たちょっと年齢が上の友達に別れを告げた。
「最後に私達からプレゼントがあります。先生これを……是非勉強に使って下さい」
水無月さんが別れの最後に漫画本10巻セットを取り出す。
全巻セットではないが、日本語の勉強には持って来いだろう。
「まぁ有難うございます! みんなで読ませて頂きますね」
プレゼント贈呈を終え、私達は宿舎へ帰ることなく既に纏めていた荷物を持って、PFUをあとにした。
サラちゃんと共にPFUの入口へと行くと、イヴンが既に待っていた。
「それでは我が家へ帰りましょう」
イヴンに先導され私達はイヴン家へとバスで帰った。
そして帰ってすぐ正午過ぎの礼拝が終わったあとのことだった。
イヴンに電話が入る。
そうして暫くの間イヴンが日本語で通話すると、サラちゃんに「サラ、24日からの都合は? 空いていますか?」と聞いた。
「はい……まだ学校はお休みなので空いていますが……」
「では、私と共に通訳をよろしくお願いします」
「はい。分かりました」
サラちゃんの返事を待つとイヴンが電話を切り、そして集まっていた私達に向き直った。
「皆さん。ラナ王女のご招待です。予定が変更されました」
その一言に、私はついに来たか! と思った。
ゲームの進行通りに予定は変更となった。
この後、私達は数日の休憩を経て、リヤドの日本人学校へ訪問する予定だった。
しかしゲームではその予定が後ろ倒しとなる。
そして捩じ込まれるのが……。
「皆さんすぐにとは言いませんが、数日後ジェッダへ発つ準備をよろしくお願いします。
ジェッダで行われるキングスタワーの完成披露式典にラナ王女からご招待頂きました」
ジェッダとはリヤドの南西。
聖地メッカの西にある紅海に面する港湾都市だ。
「ずいぶんと急ね……」
桜屋さんが髪をかきあげ予定変更に驚く素振りを見せる。
「それが……せっかくサウジアラビアへ来たのにムスリムではないからメッカを訪れる予定がないのは残念すぎるとラナ王女が言い出しまして、急遽、ラナ王女も参列する予定だったジェッダでの式典に皆さんを参列客の一人として招待しようということになりまして……。それならばメッカに立ち入ることは出来ずとも、雰囲気を感じて彼の地への思いを馳せることくらいはできますから」
「まぁ……それならばお断りするわけにも参りませんね」
天羽さんがほんわかと微笑み、ジェッダ行きを認める。
「そうよ! 観光目的ならサウジアラビアに来てジェッダに寄らないなんて以ての外よ。それにメッカに立ち入れずとも、超々高層ビルからメッカの方角を眺めることくらいは許されるべきだわ!」
守華さんが二度頭を縦に振った。
「やっぱ皆行く気なんだ……?」
私が一人誰にも気付かれないような音量で呟く。
「……せっかくラナ王女にご招待頂いたんだもの。ジェッダへ行きましょうか」
水無月さんが真剣な表情でそう言い、私達のジェッダ行きが決まった。
私は音楽の先生と楽器が来るまでの間、水無月さんと二人話をする。
「水無月さん……やっぱり皆でキングスタワー行くことになっちゃったね」
「えぇ……皆は何もする必要性はないわ。私に任せてもらえれば大丈夫。香月さん、くれぐれも言っておくわ。いつもの貴方のやり方が通用するとは思わないことね」
水無月さんが鋭い視線で釘を刺す。
「わ、分かってるよ……! でも水無月さんも気をつけて……!」
「分かってるわ……あとはラナ王女含め、他の皆が出しゃばらなければ良いのだけれど……」
と水無月さんが皆の出方を案じた。