126 PFU
8月14日。木曜日。
今日からはプリンセスファティマユニバーシティ、通称PFUで1週間の女子大学体験の予定だ。朝早くからサラちゃんがイヴン家へ来て「今日から1週間は私がご案内します!」と張り切っている。
「サラちゃん、PFUに行くまではアバーアは必須だよね?」
私が聞くとサラちゃんは頷く。
「はい。それから設備メンテナンスなどでどうしても男性の業者を呼ばなければならないこともあるため、アバーアやヒジャブは一応持参してくれと言われています」
「それ以外では基本的に服装は自由だったわよね?」
守華さんが聞くと、サラちゃんが「はい。過度な露出がなければ問題ありません!」と答える。
「じゃあアバーアやヒジャブを付けていても良いってこと?」
と桜屋さんが聞くと、水無月さんが首を横に振った。
「いいえ、PFUではローカルルールとしてアバーアやヒジャブを身に着けないことが求められるわ。女性の解放が重要なのでしょう」
「へぇ……」
桜屋さんが水無月さんの説明に納得するように感嘆を漏らす。
「私、そもそも半袖とか持ってきていないのですが、長袖なら過度な露出には当たりませんよね?」
天羽さんが心配そうに聞き、サラちゃんが「長袖なら問題ないかと!」と教えてくれた。
「よーし、みんな準備は良い? いざPFUへ!」
私の堂々とした宣言で私達はスーツケースを引っさげ、空港の南側にあるPFUへとバスで向かった。
PFUへと着き、ゲートでパスポートを提示して女性であること、留学生であることを確認すると通行許可が出た。
するとゲートを抜けた先で一人の女性が私達を待っていた。
「こんにちは! 私はナディラ・サリムです。待っていました」
案内役らしきナディラさんがちょっと片言の日本語で私達を迎えてくれた。
そしてサラちゃんとアラビア語で何か話す。
「まずは宿舎となる建物へ参りましょう!」
サラちゃんが言い、私達はナディラさんに続いた。
宿舎となる建物へは敷地内に敷かれている鉄道を使って行くことになった。
鉄道の駅に入って、「そうだ! アバーア、ヒジャブ取りましょう!」と言われ、アバーアを脱ぎヒジャブを取った。解放感に満たされる私達。
「PFUの中では、メトロが敷かれていて、自動で運行しています。
日本の会社がメンテナンスしています」
私達はその説明に「へぇ……」と何度か頷きつつ鉄道に乗り込む。
「日本で言う山手線内ぐらいの広さがあるPFUの敷地は、こうして囲むように鉄道が張り巡らされているって聞きました。学生職員合わせて6万人が生活していると聞きます。私も来るのは初めてです」
サラちゃんが追加で説明する。
「え!? 山手線内くらいもあるの!?」
と私が漏らすと、天羽さんが「広いですねぇ」と感想を述べる。
そりゃ電車も必要ってもんだよ。
無かったら歩き……? 日本の企業がメンテしてるっていうし、安全面でもきっと優秀だろう。PFUにいる間は頼っていきたい。
そうして30分ほど電車に揺られ宿舎の最寄り駅へと着いた私達は、5分ほど歩き宿舎に到着した。
宿舎にはリヤド市内の普通の家とは違い、高い塀が存在しない。
女性のみしか侵入が許されていない大学の敷地内ならではなのだろう。
建物に入り、それぞれの部屋を案内された。
ここでは一人一部屋が割り当てられる。
「音楽をやる人がいると聞いた。朝8時から16時まで、礼拝の時間以外は問題ない」
ナディラさんがそう説明してくれる。
10日から毎日練習しているが、こちらでも音楽の先生が楽器を持って訪ねてくれる予定になっている。指定の時間ならば気兼ねなく練習してよいということだろう。
しかし礼拝の時間というのが分からない。たぶん正午過ぎの礼拝時は演奏NGということだろうが、具体的な時間を提示して欲しい。
「サラちゃん。正午過ぎの礼拝って具体的には何時から何時まで?」
「あぁ……! 13時20分頃から14時くらいまでです!」
「そっかそっか、その時間は練習NGだね。だってさ守華さん!」
「えぇ、その時間は練習を控えましょう。先生たちも礼拝をするんでしょうし……」
私は守華さんと確認する。
練習は14時30分くらいからの1時間半くらいになりそうだと漠然と思った。
先生に連絡しておこう。
そして割り当てられた部屋にスーツケースを置くと、「日本語科の学生、待ってます」と言うナディラさんに連れられて、早速大学の講義室へと向かうことになった。