120 イヴンのお家まで
「イヴンくん。お迎えどうもありがとう」
水無月さんがイヴンにお礼を言うと、「いえ、皆さん無事に到着したようで良かった」とイヴンが笑顔を作る。
「それで? ここからイヴンくんの家まではどう行くの? まさか徒歩とか言わないわよね?」
桜屋さんが不安げな顔で尋ねると、「はい。駐車場に車を二台用意しています」とイヴンが答えた。なので私達はリヤドの空港内を足早に抜けて、駐車場へと向かった。
駐車場へ付くと二台のクロスカントリーSUVがあってそれらがイヴンの手配した車らしい。
そして運転手の男性が二人出てきた。
「こちら父のファーリス・アルザラニです、一台の運転を担当します。そしてもう一台の運転を担当するのが二番目の兄のアダム・アルザラニです」
「ヨロシクオネガイシマス」
イヴンのお父さんであるファーリスさんが言い、兄のアダムさんもそれに習う。
私達もみんなで「よろしくお願いします」と挨拶した。
「ちなみに父も兄も日本語は話せません。
父は英語ならば少し聞き取れますが話せません、兄は英語ならばほぼ通じます」
イヴンがそう説明すると、お父さんが何か言った。
「なんておっしゃっているのでしょう?」
天羽さんが聞くと、イヴンが恥ずかしそうに「綺麗なお嬢さん方じゃないか、お前の彼女は誰だ? と聞いています」と言った。
すると桜屋さんが、
「We are not your son's girlfriend」
と笑顔で言うと、イヴンのお父さんが「ハッハッハッ」と笑いなにやら言った。
「なんて言っているの?」
桜屋さんが問うと、イヴンが恥ずかしそうに「いえ、なんでもありません!」と顔を赤くした。
「それよりも、早くスーツケースを積み込んで我が家へと向かいましょう」
イヴンがそう提案するので、私達は「はぁい」と返事をして荷物を積み込み始めた。
荷物を積み込み、私は水無月さんと守華さんと共にお兄さんの方の車に乗り込む。
桜屋さんと天羽さんがイヴンと共にお父さんの車に乗った。
そして車が移動を始める。
助手席に乗り込んだ水無月さんが、アダムさんへと英語で話しかける。
水無月さんが私達にも分かりやすいように、ゆっくりとした英語で話しかけたので内容が理解できた。水無月さんに合わせアダムさんもゆっくりとした英語で話す。
「ミナモ・ミナヅキです。よろしくお願いします」
「あぁよろしく。僕はアダムだよ」
「それからイオナ・コウヅキにミユ・モリハナさんです」
「ミナモに、イオナにミユね。おーけー覚えられるよう頑張るよ。
父さんの車に乗っている子達は?」
「リツヒにフミカです」
「リツヒとフミカか……日本人の名前は覚えにくいな……。
みんななんでサウジアラビアへ来たの?」
「それは……」
水無月さんが答えあぐねていると、聞き取れたらしい守華さんが「私は観光の為です!」と言った。
「へぇ観光……それならイヴンがきっと良い場所に案内してくれるよ。他の二人は? えーっとミナモとイオナは?」
「私達は……」
水無月さんがちらりと後部座席の私の方を見やる。
何かよく分からなかったけど、水無月さんが誰にも聞こえないように呟いた。
きっとセーブしたんだと私は思った。
「……私達はイヴンくんをサポートしにきました」
「イヴンをサポートしに……?」
ここからの水無月さん達はめちゃくちゃ速い英語で話し始めて、単語くらいしか聞き取れなくなった。聞き取れた重要そうな単語はSuccessorという単語くらいだ。
私の隣に居た守華さんがきょとんとした目で私に問う。
「香月さん……水無月さんって帰国子女とかではないわよね?」
「うん……まぁそのはずだけど、言ったでしょEクラスだけど滅茶苦茶頭良いんだよ」
「英語の発音も完璧すぎやしないかしら……?」
「だねー」
そんなことを守華さんと話していると、目的地のイヴンの家に到着した。
結局、あのあと水無月さんはアダムさんとずっと英語で激論を交わしていた。
何言ってるか分かんなかったけど、セーブしとくってことは攻めてるってことだよね水無月さん。
「さぁ着いたよ」
水無月さんと英語で激論を交わしていたアダムさんが、私達にもわかるようにゆっくりとした英語で言う。ガレージに入り車を降りる。着いたのは敷地の周りを2mほどの高さの塀で囲まれている広いお家だった
「高い塀だなぁ」
「女性が家族以外に見られるのを嫌うらしいから、自然とそうなるんでしょうね」
と守華さんが言う。
イヴンのお父さんの車も既に着いていて、スーツケースを下ろしている。
私もトランクに積んでいたスーツケースをアダムさんに下ろしてもらった。
そして皆と合流すると、お家の中へとイヴンに案内された。
リビングに入ると、イヴンのお母さんが私達を出迎えてくれる。
「母のアイシャです。英語も少しは伝わりますが基本的にはアラビア語のみです」
紹介されたアイシャさんが何やら言う。
「自分の家だと思ってゆっくりしていってくれとのことです。それから夕飯は食べたのかと聞いています」
「夕飯は機内食で済ませたから大丈夫よ、お気遣いありがとうと伝えて」
桜屋さんがそうイヴンに言い、イヴンがお母さんに訳す。そして「夜も遅いですから先に部屋へご案内します」とイヴンが続けた。
イヴンの案内でニ階へと進む。
「さすがに5部屋はうちにご用意できなかったので、二人部屋を2つと一人部屋を1つになります。どうしますか?」
「私は水無月さんと同室でお願いします! 英語さっぱり分からないし!」
と私は水無月さんと同室を希望する。
そちらの方が色々と都合が良いと思ったからだ。
すると桜屋さんが「じゃあ私は一人部屋でお願いするわ!」と言い、自動的に天羽さんと守華さんが同じ部屋になった。
「ではまず一人部屋にご案内します」
イヴンがそう言って、一人部屋を案内。そこに桜屋さんを一人残し、次の部屋へと向かった。
「こちらが二人部屋になります。元々は一人部屋だったところへベッドをもう一つ置いたので多少手狭ですが……」
そう紹介された部屋にはベッドが2つと机が一つというシンプルな部屋だった。
思ってたよりも広い。二人部屋っていうからベッド2つ以外なにも置く場所がないのをイメージしていたが、さすがはイヴンの実家だ。
私が「この部屋にする!」と言って、スーツケースをベッドへと上げると水無月さんもそれに続いた。
「では次の部屋をご案内します」
イヴンが守華さんと天羽さんを連れて去っていく。
私は「とりあえず今日の寝床確保ー!」と、ベッドに勢いよく腰掛けた。