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118 声優オーディション

 日曜日。昨日から夏休みに入り、昨日一日をゴロゴロと寝て過ごした私。

 今日は朝から瀬尾さんと声優オーディションの二次審査だ。


「私は制服で行こうって思ったんだけど、瀬尾さんと話し合った結果私服にしたんだよね……まぁ、こんなものかな?」


 お気に入りのワンピースを着込んだ私は、待ち合わせの最寄り駅へと向かった。


「やっほ瀬尾さん!」

「あ、香月さん! 遅いです!」


 時間通りに来たはずなのだが、瀬尾さんに聞くと20分も前から来ていたらしい。

 青のニットにジーンズを身に着けた瀬尾さんはとっても可愛いが、そりゃ気合が入りすぎってものだよ瀬尾さん。

 私はなんとか彼女の緊張をほぐしてあげたいと思った。


「瀬尾さん。私、瀬尾さんにはオーディションで歌をアピールに使ってほしいな。歌、得意でしょう?」

「歌ですか? それはまぁはい。得意と言えば得意ですが……でもどうして知ってるんですか?」

「いや、ただなんとなく瀬尾さんの声で歌われた歌は、きっととっても良いと思っただけなんだけどね?」

「はぁ……そうですか。でも私、練習通りに自己アピールをやるのでやっとかもしれません。特技にフルートだけじゃなくて、フルートと歌ですって言えばいいんですかね?」

「うんうん。それで良いと思うよ。気になれば審査員が振ってくれるでしょ。気楽に好きな歌歌っちゃえばいいと思うよ」

「好きな歌を気楽にですか……分かりました、頑張ってみます!」


 瀬尾さんがぐっとファイティングポーズを取った。

 余計に緊張させてしまっただろうか?

 突然自己アピールの仕方をかえさせてしまったのだから、そうかもしれないと反省する私だった。




   ∬




 私と瀬尾さんは事務所併設の養成所で受付を済ませると、オーディションの台本を渡された。


「チェックされた役を演じて頂きます。

 オーディション開始まで自由に練習して頂いて構いません。

 時間になったらお呼びしますので……」


 受付のお姉さんにそう言われ、私は瀬尾さんと二人で練習することにした。

 渡された台本には私は初級冒険者で冒険者ギルド受付の女性にチェックがされている。どうやらこれを演じろということらしい。そして瀬尾さんはエルフの女騎士を演じることになった。その他に錬金術師の女性などが出てくるシナリオだ。


 舞台は錬金術師の工房。錬金術補助の依頼を受けた私演じる初級冒険者兼冒険者ギルド受付の女性セーヌの元へ、瀬尾さん演じるエルフの女騎士エルミナーゼが、錬金術師ミサオさんを訪ねてくる場面だ。


 錬金術師のミサオさん役の人はいないが、兼役で瀬尾さんが担当することになった。

 演技の練習を始める私達。


 錬金術補助の仕事に邁進していたところ、工房の入り口で鐘がからんころんと鳴る。


「すみません、セーヌさん。よろしくお願いできますか?」


 ミサオさんは手が離せないようで、私に来客の対応を頼み、私が客を出迎える。


「こんにちは、こちらミサオさんの工房ですが…」


 私は客人である瀬尾さん演じる女騎士にそう言い放ちながらドアを開ける。


 こちらを品定めするような目で立つ瀬尾さん演じるエルフの女騎士。


「ここはミサオの工房で間違いないのですね?」

「はい……ミサオさんは作業で立て込んでいまして……」

「ふむ、そうですか。それでは中に入れていただいても?」


 瀬尾さん演じるエルフの女騎士がそう要求し、どうしたものかとあたふたする私演じるセーヌ。


「少々お待ち下さい」


 そう言って一度ドアを閉める私。


「はい! ここまでにしましょう。取り敢えず冒頭まで出来ました」


 瀬尾さんが演技を止めると、改善点がないかを二人で意見を出し合う。


「瀬尾さん、もうちょっと声を低くして演じた方がそれっぽいかなって」

「なるほど、やってみます! 香月さんはもっと真面目さを出したほうがいいかなって、冒険者ギルド受付の女性ってみんな真面目そうじゃないですか?」

「そうかもね。もうちょっと真面目で丁寧そうな声出してみる!」


 そうして演技の練習を進める私達。

 30分ほどして、私達の名前が呼ばれた。


「行こう瀬尾さん!」

「はい!」


 私達ともう一人女性が呼ばれ、3人で面接の部屋に入る。

 そして自己アピールの流れとなった。

 まずは私の番だ。


「香月伊緒奈です。高校2年16歳。統制学院に通っています。

 友だちの紹介でこの声優オーディションを受けることになりました。

 趣味はアニメとゲーム、好きな声優さんは近衛彩奈さん! 小さい頃から好きなアニメは魔エガです! あと特技はヴァイオリンの演奏です」


 私はこの世界での推し声優さんの名を挙げながら、アニメやゲームが好きなことを伝える。

 声優さんを目指す人は大半がアニメやゲーム好きなのだろうし、没個性的であることは否めない。けれど私は別に声優を目指しているわけではないので、ありのままを喋ることにした。


 自己アピールを済ませると、審査員からいくつか質問が飛ぶ。

 私はそれに無難に答えると、次は瀬尾さんの番になった。


「瀬尾みのりです。高校2年生17歳。統制学院に通っています。

 昔から声優さんになることが夢で、この声優オーディションを受けさせて頂きました。

 趣味はアニメを見ること、好きな声優さんは川森幸利さんです! 今日から聖王! の聖王役を演じていらっしゃる川森さんが一番好きです!

 特技はフルートと歌うことです!」


 瀬尾さんの自己アピールが終わり、審査員から質問が飛ぶ。


「先程香月さんがおっしゃっていたお友達というのは、瀬尾さんのことですか?」

「は、はい! 私、香月さんの声が好きで一緒に受けないかってお誘いしました!」

「そうですか。確かに見る目がありますね! 彼女の声質は素晴らしい」

「はい。私もそう思います!」

「では次に、弊社社長の川森が好きとのことですが、彼のどんなところが好きですか?」

「はい! ちょっとおっちょこちょいなところを見せたりするのが大好きです!」

「なるほど……でも周りではそのおっちょこちょいに驚かされたりもするんですよ?」

「あ、すみません……!」

「いえ、構わないんです。それも弊社の社長の魅力ですから。それから次に特技にフルートの他に歌うこととおっしゃっていましたが、書類の方には記載ありませんでしたね。いま歌えますか?」

「……はい! えっと……魔法少女エクセレント☆ガールのOPを歌います!

 ……私達の魔法でー♪」


 瀬尾さんによって魔エガのOPが歌い上げられる。

 うんうん! 瀬尾さんとっても上手で可愛いよ! この歌声を聞かせられたら、私なら一発で合格をあげちゃう!


 一番を歌い上げたところで、「結構です。ありがとうございました」と審査員の人が瀬尾さんの歌を終わらせると、最後三人目の自己アピールへと移っていった。


 そして三人目の自己アピールと質問を終え、三人で渡された台本で芝居をすることになった。


 私はもっと丁寧に真面目そうな感じで……と瀬尾さんのアドバイスを頼りに演じきった。

 瀬尾さんも普段よりも低音で凛々しい感じの女騎士を見事に演じる。


 そうして、私達のオーディションは過ぎていった。


 オーディションを終え、控室へと戻った私と瀬尾さん。


「香月さん! 私上手く歌えてましたか!?」


 と瀬尾さんに真っ先に質問されてしまう。


「うんうん! ばっちりだったよ瀬尾さん! 私が審査員だったら即座に合格あげちゃう!」

「そうですか……良かったです……!

 それにしても、同じ組で演技まで一緒に出来るとは思ってませんでした。

 私、香月さんのおかげで実力を十分に発揮できた気がします! ありがとうございました!」


 瀬尾さんが微笑み頭を下げ、赤いリボンが揺れた。


「私なんかがお役に立てて良かったよ!」


 結果は後日電話で来る予定だ。しかし、私は8月からサウジアラビアへ行ってしまうので連絡がそれ以降ならば電話に出るのは母ということになる。


「まぁ私なんかが合格するとも思えないけどね」


 そう呟き、私は瀬尾さんとオーディション会場を出た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは…どうだろう、二人とも受かってるといいんだけど…
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