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117 会社と男子との編成について

 火曜日のお昼休み。

 私は署名してきた書類をカフェテリアで水無月さんに渡すと、「これで晴れて私も副社長かー」と感慨深く感想を述べる。


 それに水無月さんが「えぇ、よろしく副社長」と応え、周りのみんながなになにどういうこと? と聞いてきた。


「実は、水無月さんと外国人向けのツアーを企画したりする会社を立ち上げるんだ」


 私が素直に白状すると、神奈川さんが「嘘……学生なのに?」と驚きを表する。

 そして天羽さんが「それも誰かを助ける一環なのでしょうか?」と興味を示すと、桜屋さんが「それ、もしかしてツアー先にうちを紹介してくれたりするの?」と被せた。


「えぇ、是非とも桜屋さんのレンタル着物事業に乗っかりたいと考えているわ。購入とまでは行かなくとも、レンタルなら外国人の人達も興味を示してくれると思うの。気に入った人にはアマバネなり桜屋さんなりで購入してもらったら良いし」

「そうなのね、助かるわ……事業の成功を祈ってる」


 水無月さんが答えると、桜屋さんが素直に感謝し事業の成功を祈ってくれる。


「事業まで始めちゃうなんて凄いです。でも……」


 瀬尾さんが何か言いたげだ。

 きっと今週末のオーディションに受かってしまった時のことを考えてくれているのだろう。

 確かに、副社長業をやりつつ声優もなんてことになったら大変だ。

 まぁ私はあくまで付き添いで受けるだけだから、合格する可能性は万に一つもないと思うんだけどね。瀬尾さんは何故か私の声を高く評価してくれてるみたいだけど。


「まぁ水無月さんに色々教わりながらやってくだけだし! 会社できたばっかりでやることも少ないんじゃないのかな」

「それはまぁ。最初はほぼ私が一人で仕事をするつもりだから……でも香月さんにも出来る部分は手伝って貰うわよ」

「えー水無月さんメイドもやりながらでしょ? 社長業なんて出来るの?」

「出来るわよ。資本金もたんまりあるし、最初から人を雇うところから始めるつもりよ。私以外に日中の連絡先が欲しいもの。電話番兼事務員といったところかしら」

「ほへー」


 私はなんとなしに感嘆を漏らす。


 その人も水無月荘の一員だったりするのだろうか?

 色々教えてくれるようになったとはいえ、水無月さんにはまだまだ謎が多い。

 ここにいる8人のメンバーの他に、矢那尾さん、浅神の妹である朱音ちゃん、ももちゃん、硯さんに戸吹さん。そしてサラというイヴンの従姉妹。私も合わせて15人の水無月荘の居住予定者達。

 今のところ分かっているのはこれだけだ。

 あと5人、水無月荘のメンバーがいるのかもしれない。

 百合ゲーにしてはかなり多い攻略キャラ数だ。

 乙女ゲーである水面のカルテットが超大作だっただけに、そのたたき台となった百合ゲーである水面のカルテットも超大作だったってことなんだろうか? 私には分からない。


 まぁそれに関しては水無月さんも知らないだろう。ゲームの世界だって話を、セーブが使えるからって理由で理解してくれているだけのことだ。超大作の百合ゲーだったんでしょ? と聞いても明確な答えなんて返ってくるわけがない。


 ま! 私は水無月さんの攻略指示に従うだけだ!

 サラちゃん含め新しい子が推しの声ならば良し! そうでなかったらちょっと残念だけどね!


 そんなことを考え、お昼の時間は過ぎていった。




   ∬




 放課後。私は生徒会もないので、すぐにオケ部へと顔を出した。

 アンサンブルコンテストの曲が決まったからか、みんな練習に気合が入っている。

 基礎練を終えると、パート練習となった……のだが。


「香月、相談がある」

「なにさ改まって」

「いやなに、パート練習に関してだ。俺はお前を『水面』よりのV1として採用したいと考えているのだが、お前はパート練習を男が苦手だから男とはやりたくないと言う。だがこれでは俺としてはベストの構成を考えるのに、男女分けるという縛りを施さなければならん。

 どうなんだ香月、男と演奏するのはまだダメなのか?」


 キーネンが私の目を真っ直ぐに見て問うた。


「あーうん。私は男とやりたくないかなって思うよ。パート練習も、四重奏も、ね! なにせ男が苦手だから! いっそ男女分けて対決ってことにしてくれないかな?」


 特に四重奏(カルテット)が嫌なのだが、ここでそれに触れても不審がられるだけだろう。私は男が苦手ということで通すことにした。


「ふむ……そうか。男女対決というのも悪くはない案だがそれは不採用だ。男とやらないことにのみ拘るならばアンサンブルコンテストの編成からは外される可能性も考慮に入れておけ。編成は個人の実力のみで決定する。無論、男と組む可能性もあるとだけは伝えておくぞ。合奏と本番だけでも我慢するんだな……」

「うげぇ……まぁ、りょーかいりょーかい!」


 別に私は今生をヴァイオリンで食べていく気は毛頭ない。

 だからカルテットメンバーから外れてしまったところでなんら問題はないのだ。

 キーネンの奴は私の返事に意外そうな顔を少しするが、きっと私が男と組むのに大反対すると思ったのだろう。


 実際反対なんだけどさ。私が反対したところでどうにもなりそうにないんだよね。

 キーネンが個人の実力のみで決定するって言ってるんだから、そうなるんだろう。

 ここは恐らくは動かすことはできない。

 キーネンの信念のようなものだ。


 いっそサウジアラビアでの練習時に手を抜くって選択肢もある。

 そうすれば10月かどうかはもう分からないが、編成決定時にアンサンブルコンテストから外される結果になるはずだ。

 私としては大歓迎なのだが、そうは問屋が卸さなさそうなんだよね……。


 女子だけで『水面』よりを演奏できれば良いんだけどね!

 その為には、カフェテリアメンバーの皆に頑張って貰わねばならないだろう。

 既に金管八重奏の方で暫定奏者になっている神奈川さんが頑張って『水面』よりメンバーになるって手だってある。

 残りのメンバーはひつぐちゃんや守華さん、瀬尾さんだって良い。

 なんならヴァイオリニストを二人にして鈴置さんが入ったって良いのだ。


 そう、女子だけになれば良いなぁと夢想する私だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 事業が軌道に乗って大きくなったら天羽さんとこの子会社にでもなれば安泰だしね~ 本番だけは男と組んでやるか~仕方ないな~
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