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115 休み明けの月曜日

 月曜日の朝。

 一緒に登校するために瀬尾さんと合流した私は、最寄り駅で電車を待っていた。


「香月さん……ついにオーディション、今週末ですね!」


 瀬尾さんが意気込んだ様子で私に告げる。


「うん、そだねー瀬尾さんが合格することを祈ってるよ」

「はい……! でももし、もしですよ?」

「うん?」

「もし香月さんだけ合格なんてことになったらどうします?」

「それは……辞退ってできたっけ?」

「さぁ……でも私は辞退とかして欲しくないです! その場合には香月さんには私より一足先に声優さんになって、私を待っていて貰いたいなって思います!」

「そうは言うけど、私色々やることがあるからなぁ。

 声優さんの仕事にかまけてられないかもだよ」

「サウジアラビアに行くのもその一環ですか?」

「うん……まぁね。水無月さん一人に任せるわけにもいかないからね」

「へぇ……香月さんって本当に水無月さんのこと好きですよね! なんか妬けちゃいます!」


 瀬尾さんが笑顔でそう戯ける。

 そうして電車が来て、私達二人は統制へと向かった。




   ∬




 放課後。生徒会へ着いた私。

 唯野さんの姿を探すが、まだ来ていないようだ。

 早速マンション建築の話をしようと思ったのだが肩透かしを食らってしまった。


「Aクラス、まだ来てないのかー」


 豪徳寺と佐籐、守華さんも来ていない。

 私が椅子に座ると、「こんにちは」と水無月さんがやってきた。


「やっほ、水無月さん。Aクラスはまだみたい」

「そう。それより香月さん、昨日土地の契約に行ってきたんでしょう? どうだったのかしら」

「あーごめんお昼の時も皆に言い忘れてたね。ちゃんと契約してきたよ!」

「そう……それなら良かったわ。誰かに取られなくて」


 水無月さんはほっと息を吐く。


 きっと旧水無月荘の土地が誰かに取られやしないかと気が気じゃなかったんだろう。

 水無月さんにとってそれだけ水無月荘は大切な場所だったのだ。

 私もその場所を守れて誇りに思う。


 そんなことを考えていると、守華さんが唯野さんと共にやってきた。

 豪徳寺と佐籐はまだのようだ。

 これはチャンス!


「唯野さん! マンション建築の話なんだけど、土地が手に入りそうなんだ。だからお父さんを紹介してもらうの急いで貰ってもいいかな?」

「それはまぁ構いませんが……8月からはサウジアラビアでしたか」

「うんうん。その前に設計を始めて貰えたらなって」

「なるほど。では今日にも父の予定が空いていないか確認しましょうか?」

「うん、お願い! 私も父に連絡しておくよ。水無月さんも来るよね?」

「えぇ。お願いするわ」


 水無月さんが心なしか嬉しそうだ。


「もう土地を確保できそうなのね! それでどこになったのかしら?」


 守華さんが興味深そうに聞く。


「二子玉川だよ!」

「二子玉川ね! おっけー、ショッピングする場所あるかしら?」

「百貨店もショッピングセンターもあるし、割と気に入って貰えると思うわよ」


 守華さんのショッピングに関する問いに、水無月さんが答える。


 すると、豪徳寺が佐籐と生徒会室へやってきた。

 しかし、なにやら言い合いをしているらしい。


「さぁ、生徒会室にも着いたし話は終わりだ佐籐」

「くっ……理人、どうしても協力してくれないのか?」

「何度も言ったぞ。俺には手伝えん。そもそもお母さんは同意しているのだろう? ならば子供であるお前の出る幕はないぞ。どうしてもと言うのならば、まずは保護者を説得するところから始めるんだな……さぁ仕事だ仕事!」


 そう言って豪徳寺が席へと着き、守華さんの進行で本日の生徒会が始まった。




   ∬




 生徒会が終わり、佐籐と豪徳寺が去って行く。

 私は連絡用にと唯野さんとメッセージを交換すると、唯野さんのスマホが鳴った。


「……父からはこれから今日中にもということですが、香月さん予定は?」

「オケ部があるけど、うちの父も仕事が終わるのは午後6時だからさ。その後でいい?」

「では、午後6時30分からでよろしいでしょうか?」

「うんうん、水無月さんもいいよね?」

「えぇ、構わないわ」

「では後ほど、八丁堀の本社でお待ちしております」

「うん、また後でね唯野さん」

「それでは」


 唯野さんが去っていき、私は守華さんと共にオケ部の練習へと向かう。


「それにしても本当に私達だけで住めるマンションを作ろうとしてるだなんて。ひつぐちゃんを助ける為とはいえ、香月さん、よくお人好しって言われない?」


 音楽講堂へと向かう途中に守華さんが私に聞く。


「お人好しかな? ただみんなの力になりたくてやってるだけだよ」


 推しの声の子をこれ以上泣かせる訳にはいかないのだ。


「そう? 香月さんが無理してないなら良いんだけどね私は」

「無理なんて全然! むしろ楽しいくらいだよ」

「そう。それなら良かったわ」


 守華さんはそう言って笑う。


 副会長の責務として、私がどう考えてるのか知りたかったのだろうか。

 私は全然大丈夫だよ守華さん。

 むしろ皆で住む水無月荘を作れてとっても幸せ感じてる!

 でも皆住んでくれるかな? と若干の不安はある。

 桜屋さんとか実家のある白金台からは30分以内とはいえ結構離れてる。本当に住んでくれるかは分からないかもしれない。


 そんな考え事をしていると、音楽講堂に着いた。

 ちょうど基礎練習が終わったタイミングらしい。

 いつもならばパイプ椅子に座ったままのキーネンが動く。

 なんだか最近こればっかりだな……。


 指揮台に上がったキーネンが話始めた。


「これより、金管八重奏の暫定奏者を発表する。まずはTp1神奈川、Tp2霜崎、それからHr1伊集院、Hr2神尾、チューバ豪徳寺、最後にTb1伊勢谷、Tb2浅神、Tb3鳴見、以上だ」


 キーネンにより金管八重奏の暫定奏者が発表された。

 選ばれた神奈川さん、神尾さん、鳴見さんの女子3人が「やった!」と黄色い声を上げる。


「しかし、これらの奏者の中から『水面』よりのメンバーに選ばれる場合もあり得る。その場合は『水面』よりを優先とする。引き続き、両方の曲を練習するように……俺からは以上だ」


 言い終わり、キーネンが指揮台を去る。


「ふーん、やっぱり『水面』よりを優先か。キーネンはよほど『水面』よりに賭けてるらしいね」


 私がそう言うと、一緒に音楽講堂に来たばかりの守華さんが「私もオーボエでなんとか『水面』よりの方に入りたい!」と希望を述べる。

 するとキーネンが私の方へとやってきた。


「香月、神奈川には既に話してあるが夏休み中は特別契約だ。引き続き練習に付き合って貰うぞ。それとサウジアラビアに行っても楽器を持ってもらう。イヴンには既に話を通してある。あちらで楽器を用意してくれるそうだ」

「えー!? せっかくお休み貰えると思ってたのに!?」

「ふっ……残念だったな。付き合ってもらうぞ香月!」

「うぇぇ……まぁ仕方ないかー」


 私は肩を落としながらも、渋々夏休み中の特別契約とサウジアラビアでの練習計画に乗るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サウジに行く前に設計始める所まで詰めておかないと先延ばしになっちゃうからね~ しかし練習はサウジまで追いかけてくるのだ…トホホ
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