114 豪徳寺と喫茶店で
喫茶店に着き、私はカフェオレを豪徳寺はホットコーヒーを頼み、商品を受け取り席に着いた。
「で? なに? 改まって何か用があるわけ?」
「うむ……実は話は佐籐についてだ」
「はぁ……佐籐?」
よりにもよって佐籐の話か。親友なのは分かるがあれはもうたぶん駄目だよ豪徳寺。
「最近、ひつぐちゃんが天羽さんのご自宅に泊まっていて学校以外で会えていないそうじゃないか。俺が言うのもなんだが、どうにかならないのか?」
「ならないよ。まさか豪徳寺、佐籐とひつぐちゃんを学校以外で会わせてあげようとか思ってないよね? もしそういうことなら戦争だよ、戦争!」
私は眼鏡をかけ直しつつ豪徳寺に警告する。
もしそんなことになれば、私達カフェテリアメンバー全員が相手になろう。
きっとひつぐちゃんのために皆戦ってくれるだろう。
「いや……そもそもどういう経緯でひつぐちゃんが天羽さんのお宅に泊まることになったのかを俺は知らんからな。正直佐籐の話だけ聞いていると、よく分からなくなってくるんだ。
佐籐の奴は『元凶は水無月と香月だ!』と言い張って聞かないのでな……」
「はぁ? あいつそんなこと言ってるの?」
「うむ。それでどうなんだ実際」
「仕方ないな……」
私は佐籐の愚行を、勉強会の朝のストーカー行為を豪徳寺に話した。
「それでひつぐちゃんが『このシスコン!』って苦言を呈して去っていったんだよ。その後も泣いてたんだよ? そりゃプール行った時に加えて、天羽さんや皆にあれだけ迷惑かけてたら、佐籐を恥ずかしがる気持ちや怖がる気持ちも分かるってもんだよ」
「ふむ……そんなことがあったのか。
あいつ俺には自分に都合が悪いことは話さんからな……」
「とにかく、それで佐籐のお母さんにも事情を説明して、ひつぐちゃんは天羽さん家で預かることになったってわけ」
「そうか……それはなんというか、どうしようもないな……」
「でしょ?」
「うむ……」
豪徳寺は納得するようにコーヒーを一口飲んだ。
そして大きくため息を吐くと、左手を自身の顎に添えた。
「では、どうすればいいと思う? このままでは佐籐はAクラス落ちも間違いない。
勉強にまるで集中できていないんだ……」
「知ってる。87位だもんね今回」
「あぁ……知っていたか」
「でも、どうしようもないとしか言いようがないよ。他に何か方法があるとしたら、佐籐に他の女の子を好きになって貰うしか無いんじゃない?」
「うむ……それには同意だ。俺が生徒会の演劇で佐籐を王子様に推したのも、他の女性を、例えば演劇で相手役になった人を好きになって欲しかったからなんだ……」
豪徳寺が心境を吐露する。
「まぁそんなとこだと思ってたけどさ……でも」
シンデレラ役の桜濤生徒会メンバーである女生徒は当日に風邪引いちゃうんだよ……とは言えない。どうしたものか……。
「でも……?」
「いや、なんでもない……。とにかく他の女の子を好きになって貰いたいって気持ちは分かるよ? でも私とその友達はみんな佐籐に心底呆れてるから無理だよ。私から誰かを紹介とかはできそうにない」
「では唯野さんとかはどうだ?」
「は? 無理でしょ。合宿の時の佐籐をからかう唯野さんを忘れたとは言わせないよ」
「ふむ……事情を知っている女生徒では無理か……やはり桜濤女子に期待するしかないか」
「……」
だからその桜濤女子も硯さんと戸吹さんは佐籐なんかに渡せないってば!
他の子も会ったことはないが、もしかしたら水無月荘のメンバーかもしれないのだ。
確認するまでは佐籐の供物になどさせてたまるか。
でもそうすると佐籐の相手役は私か水無月さんが務めなきゃ行けなくなる……。
全く、この世界ってやつは避けられないことが多すぎる!
「いっそ諦めちゃうってのはどう? 豪徳寺。佐籐の奴に関わっても碌なことはないよ」
「……それができたら態々お前に相談などしないさ。しかしひつぐちゃんとはどうにもなりそうにないのは理解した。そちら側の言い分を知れたのは大きい。俺も態度を改めねばならん」
豪徳寺は一気にコーヒーを飲み干した。
「用件は以上だ! 助かったぞ香月」
「そっか。本当に佐籐のことだけだったんだ?」
「うむ、まぁな。それとも何か、俺がお前をデートに誘ったとでも思っていたのか?」
「……! 別にそういうわけじゃないから!」
私は魑魅魍魎共の相手は絶対御免だ。
「ふむ。まぁ香月、お前に対する俺の好感度は間違いなく上がったぞ!」
「なに言ってんの。そういうの良いから!」
「ふははは!」
豪徳寺は豪快に笑った。