111 お昼休みの乱入者
「やっほ、みんなーお待たせ!」
私は少し遅れてカフェテリアへ着いた。
私を除く全員が既に集まっていて、お昼を食べ始めようとしていたらしい。
「遅い! 香月さんなにやってたのー?
お休みかと思ったじゃんかー、メッセージ送ろうとしてたよ!」
鈴置さんが私を優しく一喝する。
「ごめんごめん。ちょっとテストの順位を見にね……!」
「へぇ……香月さん、私何位だった?」
桜屋さんが気楽そうに聞く。
きっと皇を意識する必要性がなくなったので、それほど学力に躍起になっていないのだろう。
「桜屋さん7位だったよ! おめでとう!」
「そう。まぁ及第点ってところね。素直にありがとうと言っておくわ!」
桜屋さんが自信満々にそう応え、私は水無月さんを見た。
「水無月さんも3位だよ……おめでとう!」
私は一瞬祝っていいのかどうか逡巡したが、皆がいるので水無月さんを祝うことにした。
「そう……。ありがとう。1位はともかくとして、2位は誰だったのかしら?」
「2位は驚くことなかれ! あの浅神だよ!!」
私が教えると、瀬尾さんが「え? Fクラスの浅神くんですか!? この間オケ部に入った?」と驚きを隠せない様子だ。
「うんうん、その浅神! オケ部もあるのに、あいつどこでそんな勉強したんだろうね?」
「そう、浅神くんが……。まぁ朱音ちゃんの募金を終えて勉強に身が入ったのかしら?」
水無月さんも少しだけ驚く表情を見せた。
いや、水無月さん確かにゲームでは朱音ちゃんの手術費用をなんとかした後、浅神の成績は上がっていくものだったけど、それにしたって急だよ。
まぁ私達がゲーム進行通りではなく、早めに朱音ちゃんの募金活動を始めたのが影響したんだろうけどさ……。
そう、本来ならば浅神とバイト先で未名望が出会って仲良くなるのだって、6月が最速といったところだ。浅神は裏統制新聞の存在を知らないから、普通なら4月から周防ももちゃんの家庭教師で浅神と未名望が仲良くなるルートなんて存在しないのだ。
でも起きてしまっていることは仕方ない。
水無月さんには十分に浅神に留意してもらいたいところだ。
「でもFクラスなんでしょ今。トロンボーンも入ってすぐレギュラーになってたし、浅神くんって本当に凄いのね」
神奈川さんが浅神を称賛する。
「まぁ、浅神くんは元Aクラスだったわけだし、やればできる人だったってとこかも?
アルバイトしなくて良くなった分の結果がすぐに出たんだよきっと。
それだけ妹さんの為に頑張ってたのは凄い……うちのお兄ちゃんに爪の垢を飲ませてあげたい」
ひつぐちゃんが元クラスメイトとして、浅神と佐籐を比較する。
まぁそうだよね。方や妹ちゃんの為にバイトを頑張ってた浅神とキモキモストーカーの佐籐とでは評価に雲泥の差があって然るべきだろう。
「佐籐くんもちょっとは浅神くんを見習って欲しいわね!」
守華さんがまとめ、私達は皆でお弁当を食べ始めた。
そんな時だった。
「皆でご飯食べてるところ済まない……ちょっといいか?」
突然に私達のテーブルに一人の男子生徒がやってきて、水無月さんの肩に手を乗せた。
「……」
私は黙り込んでしまう。
やっぱり来たかこいつ。にしても早いお出ましだ。
テスト結果張り出されたのさっきだってのに、私と一緒に見てたのかな?
「あら……千本柳君……私になにか用かしら?」
「いや用ってほどじゃないんだけど、期末テスト3位おめでとう」
「えぇ……ありがとう……」
「それでこれ、俺の連絡先」
そう言ってスマホでQRコードを差し出す千本柳。
「……」
水無月さんは苦い顔をして黙り込んでしまった。
「ちょっと千本柳君! 急に来て連絡先交換しようってどういうこと!? 水無月さんもびっくりしてるじゃない」
副会長としての責務に駆られたのか守華さんが突っ込みを入れる。
ナイス守華さん! そのまま撃退しちゃって!!
「そうよ、何よ藪から棒に」
桜屋さんも守華さんに加勢すると、千本柳は「困ったな……」と頭を掻いた。
「いや、俺が頭の良い女の子を好きなのはお前らも知ってるだろう守華に桜屋……お前らの連絡先だって俺は持ってるじゃないか」
「それは……交換しろって言うからクラスメイトだしまぁいいかって……てかそれはそれ! これはこれよ!」
桜屋さんが抵抗し、守華さんが「私は副会長として断るのも何だなと思って……」と言葉を濁す。
「私も千本柳くんの連絡先持ってるけど、クラスの皆と交換してるからって言うから上げただけだよ?」
ひつぐちゃんがジト目を千本柳へと向ける。
「とにかくだ、俺は水無月未名望さんが気になる! 連絡先を交換したい!!」
「……」
当の水無月さんは黙り込んでパクリとコンビニおにぎりを頬張った。
その様子を見て、私が助け舟を出す。
「いらないってさ千本柳! 出直して来なよ!」
「香月? だったか。俺と水無月さんとの間の問題に口を出すな」
「なにさ! 私だって総合順位27位だったっての!」
「なに? Aクラスでもないのにその成績だったのか?」
「まぁね! 来年度はAクラス上がれるかもだよ!」
私がそう言ってやると、千本柳が「そうか、そいつは気が付かなかった……。それでは香月、ほら俺の連絡先だ」と今度は私にQRコードを見せてきた。
「は? なに盛った犬みたいに。私はあんたの連絡先なんて要らないよ千本柳。
水無月さんも同じだってさ! 二度目だよ! 出直しな!!」
私がそう言って千本柳を睨みつけると、
「そうだそうだー」と鈴置さん。
「そうね、出直すことをオススメする」と神奈川さん。
「出直してください」と天羽さん。
「出直したら良いかと」と瀬尾さんが言ってくれる。
「くっ……覚えてろよ香月! 必ずお前と水無月の連絡先もゲットしてやるからな!」
と捨て台詞を残して、千本柳は去っていった。
いつもの繊細なピアノの演奏とは違って、あまりにも雑な捨て台詞に、
「やられ役の小物か!」
と私が突っ込みを入れると、みんなが大きく笑った。