106 豪徳寺と水無月荘の相談
オケ部が終わった後、豪徳寺を伴ってカフェテリアに顔を出すと、オケ部が終わるのを待ってくれていた水無月さんがいた。
「それで? 俺に用とは一体どういうことだ?」
豪徳寺がカフェテリアに着いて早々に聞いてきた。
「うん、実は私達、20戸くらいの女性専用マンションを建てようと思ってるんだ」
「なに!? それは構わんが、建設費用はどうするつもりだ?」
「建設費用はまぁ色々とね。天羽さんに出してもらったりするかなー」
これは嘘だ。天羽さんに費用を出してもらうつもりはあまりない。
こうでも言わないと本気にして貰えないかもだから仕方ないのだ。
「天羽というと……あぁ浅神の募金のときにも多大な金額をくれたあの子か……。
それならばまぁ……」
「うん。それで豪徳寺のお父さんの会社に良い土地あったら紹介して貰えないかなって。
あ! ちなみにこのことは佐籐の奴には口外厳禁だからね!
もし教えちゃったりしたら一生恨むよ豪徳寺!」
「分かった分かった! 佐籐の奴には話を伏せよう。
それで? どんな土地が良いんだ?」
豪徳寺が腕を組み私達に聞く。
「まず第一に最高でも5F建てくらいの低層マンションを建てる予定なんだ。総戸数は20戸。間取りはお金持ちのお嬢様用に2LDKのお部屋がいくらかと、あとはほとんど1KでOK。他に室内洗濯機置場に冷蔵庫置場、それに洗面化粧台付きで風呂トイレ別は必須。あと南向きね南向き! だからマンションと言ってもそれなりに敷地面積は要ると思う。あと立地だけど、都内のハブ駅まで電車で20分以内の最寄り駅まで駅徒歩10分以内でお願い。水無月さん他になにかある?」
「他に10台程度が止められる駐車場が隣接していると嬉しいわ。無論ない場合は1Fを駐車場兼共用スペースにするつもりだからそれだけのマンションが建てられる場所ね。それと……私としては二子玉川駅周辺の物件だと嬉しいわね……」
水無月さんが二子玉川にこだわる。
なので水無月さんをちょちょいと呼んで耳打ちする。
「水無月さんが二子玉川にこだわるのって、百合ゲー時代の水無月荘はそこにあったってことでいい?」
水無月さんはそれにこくりと頷いた。
ほほーん二子玉川にあったのか水無月荘。
それで二子玉川にこだわってるんだね! なるほど。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもないなんでもない。二子玉川だと良いなって話」
「そうか……ふむ。条件を聞いた限りではなかなかに厳しいな……親父に相談はしてみる。
建設会社の方はもう決めているのか?」
豪徳寺が建設会社について聞いてきた。
「いや? まだ全然だよ。そっちも紹介してくれるの?」
「あぁ……いや、会計の唯野さんのお父さんが建設会社をやっているのは知っているか?
それほど大手というわけではないが良い建設会社らしい。うちの父のお墨付きだ。
だから俺は彼女に頼むのが良いと思ったんだがな……」
「へぇ……初耳。なんでそんなこと知ってるの豪徳寺……?」
「いやなに……以前、同じ統制学院に子供が通っているって話でうちの父と唯野さんのお父さんとで話題にしたらしくてな……それで盛り上がった結果、俺に唯野さんをどうだ? なんて話になったらしい……」
豪徳寺がなにやら恥ずかしそうに頭を掻く。
「いやなに、別に唯野さんが悪いというわけではないんだが、その時はお断りしたんだ。
1年ほど前になるか……」
そんな裏話があったのか。豪徳寺ルートでは開示されなかった情報だ。
設定資料集には載っていたのかもしれないが……。
「そんなことあったんだー。良いじゃん! 良いじゃん! 合宿じゃテニスでも良い試合してたし、唯野さんとくっついちゃいなよー」
「いや……唯野さんは悪いが俺のタイプじゃない……!
まぁそういうわけだ。唯野さんに相談してみるのは良いと思うぞ。
それと連絡先を教えてくれ、親父に確認して結果を連絡しよう」
「しょうがないなー。おっけー教える教える」
豪徳寺が連絡先を欲したので、仕方なくメッセージでグループを組んだ。
水無月さんも一緒のグループだ。
「うむ、確かに……!」
連絡先を手に入れた豪徳寺はなんとなく嬉しそうな顔をしていた。
豪徳寺と連絡先を交換することになったのは仕方ないとしても、豪徳寺と男女の仲になることなんて絶対にない! 魑魅魍魎の中ではマシな部類というだけで、私が忌避する男子達であることに違いはないのだ。
私は豪徳寺が水無月さんに近づこうとするのにも気をつけなければと、豪徳寺の動きに警戒した。