105 衣装と大小の道具作り
皆でのお昼のあと、私は佐籐の顔でも拝んでやろうと思ったわけではないが、生徒会の日だったので水無月さん、守華さんと共に生徒会へと向かった。
「こんにちはー」
テスト期間があったので久しぶりの生徒会室に私が挨拶をして入ると、困った様子の豪徳寺が「おう香月、久しぶりだな」と返事をした。
まだ来ているのは豪徳寺と佐籐の二人だけらしい。
「来てるの二人だけなんだ? 唯野さんは?」
「さぁな、俺は聞いてないが……」
豪徳寺が答えると、守華さんが「今日は統制新聞部の活動でお休みって聞いたわよ」と唯野さんの欠席を報告する。
「そうか、まぁ彼女は色々とお忙しい御仁だからな……仕方あるまい」
豪徳寺が唸り、守華さんが「そうね」と同調した。
しかし――、
「――学際までもうあまり期間もないっていうのに、なにやってるんだろうね唯野さんは?」
苛ついた態度で佐籐がそう言った。
「なに苛ついてんの佐籐。唯野さんが色んな部活掛け持ちしてるって知ってるでしょ?」
「それは知っているけど、こんな忙しい時期に休まなくたって良いだろう。
衣装だってまだ完成していないのに、あと2週間もすれば夏休みに入っちゃうじゃないか。
それに生徒会女子は唯野さん以外全員がサウジアラビアに短期留学してしまうんだ。
学際の準備は唯野さんこそが主導して行うべきだろう?」
佐籐は苛つきながらそう唯野さんを責め立てる。
「なにさ、別に男子が衣装製作やったって良いんだよ? 調べながらなら出来ないことじゃないでしょ。今どきはコスプレ衣装とか自分で作ってる男子だっているんだから、劇の衣装だって似たようなものだよ。女子がいなくなるからって、唯野さんだけに重荷を背負わせようだなんて頂けないね! 男子がやればいいじゃん!!」
私がそう反論すると、豪徳寺が「まぁまぁ香月!」と止めに入った。
別に私は唯野さんを庇いたかったわけではない。
ただ単純に佐籐の態度が気に入らなかっただけだ。
きっとひつぐちゃんとAクラスでしか会えなくなってイラついてるんだ。
加えてクラスでは桜屋さんと守華さんとがひつぐちゃんをガッチリガードしているに違いない。佐籐は一度もひつぐちゃんと話せていないのだろう。
ひつぐちゃんが佐籐と話したくないんだろうし、私からしてみれば佐籐ざまぁみろだ。
佐籐の奴は私の反論に忌々しそうに私を睨みつけた。
「ふん! 僕は衣装製作なんてやらないからね!
間に合わなかったとしても知ったことか!」
佐籐がそう言い放ち、この話題はそれまでとなった。
私達は女子は衣装を男子が大小の道具を作りながら、生徒会の活動に勤しんだ。
∬
生徒会の終わり、私は水無月さんに聞く。
「水無月さん。例の件だけど、やっぱり豪徳寺には相談したほうが良いよね?」
「えぇ……まぁ。私はその方が良いと思うけれど……」
水無月さんが私の相談事にピンときたらしく首肯する。
そう。不動産のことは親が不動産屋をやってる豪徳寺に相談した方がいい。
新築だから土地だけだけど、やはりプロの意見は聞きたかった。
それに百合ゲー時代の水無月荘の場所のことも、水無月さんに聞いておかねばならないだろう。
「ん? 俺に何か用か?」
私達の話を聞いていたらしく、豪徳寺が私に問いかける。
「うん、まぁちょっと用があってさ。オケ部のあといい?」
今日はテスト期間最終日だけあって、オケ部は活動している。
テストを終えて気晴らしに楽器を演奏するにはちょうどいいと思っている生徒が多いだろう。
「あぁ構わんが、一体何の用だ?」
「それは秘密……!」
私は唇の前に人差し指を持ってきて言った。