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101 ひつぐちゃんの苦言

「離してあげてください。私の兄なんです」


 ひつぐちゃんがそう言い、警備員の内の一人が「よろしいのですか? お嬢様」と天羽さんに確認を取る。


「はい。取り敢えず立たせて上げてください」

「おい。お嬢様がこうお言いだ。取り敢えず立たせるんだ!」


 それを聞いて、佐籐を抑え込んでいた警備員が抑え込みを解くと、「さぁ立て!」と佐籐を立たせた。しかし暴れないように警備員が佐籐の腕を取っている。


「さぁひつぐ……! こんな無礼な家にいちゃダメだ。僕と帰ろう」

「……嫌! お兄ちゃんこそこんなところまで私を付けてきて、一体なんのつもり!?」

「僕はただお前のことが心配で……!」

「余計な心配だよ! 私は勉強会をしにきただけ!」

「勉強会!? 僕はちょっと中を覗いただけでこの始末なのに……!?」

「それはそうだよ。こんな大きいお屋敷、覗くだけでもう不審者だよ! お兄ちゃんそんなことも分からないの!? もういい! このシスコン!!」


 ひつぐちゃんは顔を真っ赤にして怒っているのか恥ずかしく思っているのか、天羽の屋敷の方へと走って行ってしまった。


「ちょ! 待て! ひつぐー!!」


 佐籐はひつぐちゃんを追いかけようとするが、がっちりと警備員の人に腕を掴まれて動けずにいた。


「離せ! 離せよ!!」


 佐籐は凄い剣幕で警備員の人にがなり声をあげる。

 ここは一言言ってやるべきだ。


「佐籐……あんたマジで気持ち悪いよ」


 私が心底佐籐を軽蔑してそう言い放つ。


「最低! 行こう鈴置さん」

「う、うん……」


 桜屋さんが、鈴置さんを連れて屋敷へと戻っていく。


「シスコンにもほどかあるでしょう……」


 守華さんが佐籐を悍ましい物でも見るような目つきでそう言い、桜屋さん達の後に続いた。


「私はよく分かんないけど、佐籐くんそこまですることなの……?」


 神奈川さんがそう言い残して去っていく。


「佐籐くん、見損ないました!」


 瀬尾さんが侮蔑の目を向けてから神奈川さんに続いた。


「佐籐くん、貴方は別の誰かを好きになるべきよ……」


 水無月さんがそう言い、「天羽さん、警察沙汰にだけはしないであげて頂戴」と佐籐の為に頼み込む。


「はい……それは、私もそこまでしたくありませんので……」


 天羽さんがそう言って表情を暗くする。


「だってさ佐籐! これ以上やったら警察沙汰だよ! 今のうちに帰りな!! 慈悲深い天羽さんに感謝してね!!」


 私が最後にそう言い、私達3人も天羽の屋敷へと戻っていった。




   ∬




「ここはこう解くんだよ」


 私が瀬尾さんに数学を教える。


「わぁ……なるほどです! 香月さんとっても分かりやすいです!」


 そう言って貰えるととても嬉しい。

 理系科目なら任せてよ瀬尾さん! いくらだって教えちゃうよ!


 気持ち悪い佐籐をよそに勉強会は着々と進んでいた。


 勉強会ではひつぐちゃんが一人黙々と勉強を進め、そして桜屋さんと守華さんとで鈴置さんと神奈川さんを教え、私が瀬尾さんを、水無月さんが天羽さんに教えるといった感じだ。


「そろそろ正午ですし、お昼にしましょう!」


 天羽さんがそう提案し、私達みんなが「「さんせーい」」と唱える。


 勉強用具を鞄にしまうと、お昼が運び込まれてきた。


「シンプルにカレーライスにしてみました!」


 天羽さんが微笑む。

 しかし天羽さん、カレーライスがライスとカレーが別々になってて、カレーが銀色の容器グレイビーボートに入っているのはシンプルなカレーライスとは言わないんだぜ……!

 どこぞの高級カレー店の一品だ。

 まさかこの為だけに9人分のグレイビーボートを用意したわけではあるまいな……。


「頂きます!」


 一口カレーソースを口に運ぶ。


 辛くは全く無くて甘口のようだが、濃厚なカレーの味がした。

 しかし、このゴロゴロ入ってるお肉もまた凄い。

 牛肉のサイコロステーキのようなものがカレーの中には入っていた。

 今度はお肉を一つ……。


「美味しいー!」


 私が声を上げて喜ぶと、天羽さんが「それは良かったです」と再びウィスパーボイスで微笑んでくれる。


 私はカレーソースをボートからライスへとかける。

 そして今度はライスと共に3口目を頂いた。


「うん! カレーとライスの相性もばっちり! 天羽さんちの料理人は腕がいいね!!

 9人もいるから苦手な人のことを考えて甘口にしたんだろうけど、それでこれだけ美味しいカレーが作れるなんてほんと凄いよ!」


 私は料理人の腕を褒め称える。

 辛いカレーで美味しいものは作りやすいが、甘口でこれだけコクのあるカレーを作り出すのは才能がなければできないことだ。良い料理人雇ってるなぁ。


「ありがとうございます。我が家自慢の料理人なんですよ?」


 と天羽さんが自信ありげに微笑んだ。

 すると食堂にもう一人誰かが現れた。


「おぉ……これはこれはたくさんのお嬢さん方で溢れているね」

「お祖父様!」


 天羽さんが立ち上がる。

 私達も立ち上がり、それぞれに「お邪魔しています」と挨拶をする。


「お祖父様、皆さんに食堂を使って頂いていたんです」


 天羽さんがそう言ってお祖父さんへと頭を下げる。


「そうか。構わないよ。みなさん私もご一緒してもいいかな?」


 天羽さんのお祖父さんがそう言うと、皆が口々に歓迎の意を口にした。


「では失礼して……」


 いつもその席なのだろう。開けてあった上座へ天羽さんのお祖父さんが座る。


「そう言えば、先程不審者について聞いたよ」


 お祖父さんの分のカレーライスが運び込まれてきた時、天羽さんのお祖父さんがその話題に触れた。

 天羽さんが困って「それは……」と言い淀む。


 するとひつぐちゃんが、「すみません、私の兄なんです」と頭を下げる。


「そうかそうか、それならば何事もなく良かった」

「本当にすみません……」

「いいや、いいんだ。どうやら触れては不味い話題だったらしい。私は食事に集中するとするよ。みなさんも食事を楽しんで」


 天羽さんのお祖父さんは空気を読んでか黙り込んだ。

 私達もそれからは黙って食事に集中した。

 全く、ご飯まで不味くしてくれるなんて本当に佐籐は困ったやつだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなのの妹なのが本当に可哀想 ストーキングのせいでひつぐちゃんからの好感度がどんどん下がってるのが悪循環を生んでるよ
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