100 勉強会の朝
朝10時。勉強会のため天羽家へやってきた私と瀬尾さん。
インターホンを鳴らすと門が自動で開いていく。
以前来たときと同様に警備員もいるが、さすがに持ち物検査などはされないみたいだ。
「わぁ……田園調布にこんな豪勢なお屋敷があったんですね……!」
「うん。私も初めて来た時はびっくりしたよ」
しかもこの後は総勢20名を超える使用人達に囲まれるのだ。
瀬尾さんの反応が楽しみである。
「ようこそいらっしゃいました。香月様、瀬尾様。お嬢様と御学友が食堂でお待ちです」
使用人の一人がそう言って庭から屋敷へと案内してくれる。
そうして屋敷内に足を踏み入れると、たくさんの使用人たちに囲まれた。
「「いらっしゃいませ」」
びっくりして動かなくなってしまった瀬尾さんを引き摺るように私は食堂へと案内された。
まぁそうだよね。私達庶民からしたら、びっくりするしかないよね。
私もキーネン家へ最初に寄っていなければ、天羽さんのお家に来た時大層驚いただろう。
「やっほ、お邪魔します天羽さん」
「お、お、お邪魔してます天羽さん!」
食堂へ着き、私と瀬尾さんが天羽さんを見つけて声をかける。
「あ、いらっしゃいませ! 香月さん、瀬尾さん!」
天羽さんが私達二人に答えると、「うわーん香月さん瀬尾さん! 怖かったよー」と鈴置さんが私達に抱きついてきた。
「ちょ! 鈴置さんどうしたの!?」
「だって時間通りよりも早めに行かないと失礼かなとか思って、10分だけ早めに来たらまだ来てるの私だけで! たった一人でたくさんの使用人さんに囲まれるし、ここ食堂って言うけどだだっ広いし、最初は天羽さんもいなかったしで寂しかったの!」
鈴置さんは「ぐすん」と大袈裟に泣く仕草まで見せる。
「おーよしよしよし。それは怖かったね鈴置さん。もう大丈夫、私も瀬尾さんもいるよー」
「使用人達がみんなで驚かせてしまったみたいで申し訳ありません」
私が鈴置さんを慰めると、天羽さんが悪びれて頭を下げる。
「いや! ほんと天羽さんは悪くない! 悪くないから! 私達庶民がチキンなんだよぅ」
と鈴置さんが天羽さんに今度は抱きついた。
そうこうしていると、桜屋さん、守華さん、神奈川さんの3人がやってきた。
「おはようみんな」
「うん、おはよう桜屋さん、変わったメンツだね?」
私がこの3人が一緒にいるのを不思議に思って聞くと、
「えぇ、田園調布の駅で会ったのよ」
と守華さんが教えてくれた。
「あと来てないのは水無月さんとひつぐちゃんの二人かな?」
神奈川さんが私達みんなを見回してそう言った時のことだった。
天羽さんの側近が天羽さんに駆け寄ると、何やら耳打ちする。
「まぁ……! 不審者ですか!?」
天羽さんがびっくりしてウィスパーボイスでそう小さく叫ぶ。
「はい……それが警備員が捕えたところお嬢様の御学友の兄だと名乗っておりまして……」
天羽さんの側近が天羽さんに追加情報を教える。
「え?! それってまさか……!」
私が心当たりを思いつき苦い顔をする。
私達は側近の人と共に、門の方へと向かった。
「あら、みんな揃ってどうしたの?」
食堂から屋敷の出口へ向かう途中、水無月さんとひつぐちゃんの二人に遭遇。
素っ頓狂とした顔で水無月さんが私達に聞く。
「水無月さんにひつぐちゃんやっほ! それがなんか不審者が出たらしくて……誰かの兄を名乗ってるらしいよ……!」
私が答えると、
「え? 不審者!? まさか……」
「……不審者ですか? まさか……」
水無月さんとひつぐちゃんが口々に怯えるように反芻する。
そんな二人を更に伴い、私達は門へと向かった。
「くそっ離せ! 離せよ!! 僕はただ妹のことが心配で来ただけだって言ってるだろ!」
一人の男が、門の前で警備員によって地面へ抑え込まれていた。
「お嬢様方! 危険ですのでこれ以上近づきませんように……!」
警備員の内の一人がそう言って私達を押し止める。
「いえ、良いんです通してください」
天羽さんがそう言って私達は警備員を躱し、抑え込まれた男へと近づいた。
「お兄ちゃん! なにやってるの!?」
そしてひつぐちゃんが抑え込まれた男へ向かって叫ぶ。
いつもの淡々とした口調もこうなっては望めなかった。
「ひつぐ……! こんな家に寄るのなんてやめて僕と帰ろう! な!?」
地面に抑え込まれたままの佐籐が、よりにもよってそんな減らず口を情けなく叩いた。