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掌編  作者: 春待
3/3

休日前夜

 明日は久々の休日だ。仕事が忙しかったのもそうだが、根っからのインドア派である私には、ショッピングモールに出かけるのも仕事と同じような気持ちなのだ。仕事の休日はあったけれど、そのたびにどこかへ出かけていた。ついに「本当の休日」を目の前にした私は、胸が高鳴っていた。

 あまりの休みのなさに疲れ切っていた私は、次の休みにやりたいことをツイッターでスレッドにして気を紛らわせていた。録り溜めているドラマを観たい、推しの配信アーカイブが観たい。見返してみて驚いたが、スマホの画面に収まりきらないほどの量だ。果てには「美味しいコーヒーを味わいたい」なんてものまである。いつ書いたのかさっぱり思い出せない。コーヒーは毎日飲んでいたはずだから、きっとその日はよっぽど急いで飲み干したのだろう。それに、じっくり味わって飲めるほどの心の余裕はなかったような気もする。

 そんなメモを残すほどだった過去の自分を労いながら、ドリップコーヒーを淹れ、テレビをつける。コーヒーの香りがワンルームに漂う。特別に凝るほどではないけれど、お湯を注いだ瞬間にふわっと立つ香りと音は心地よくて好きだ。楽しみだったドラマは3話目を観たきりだったが、そろそろ佳境に差しかかるころだろうか。そんなことを考え、コーヒーができあがると、クッションに座り、ドラマを再生した。コーヒーに口をつける。苦みとほんの少しの酸味が広がり、鼻から抜けていく。ゆったりした空気に包まれた私は、休日前の夜更かしを楽しんでいた。

 日付が変わったころ、電話が鳴った。ハルナだった。大学時代から付き合いがあり、お互い化粧品業界で働いている、なにかと縁の深い友達だ。私は超のつくインドア派、ハルナは正反対の社交的なタイプだが、なぜか気が合う。しかし、私は電話に出ようか迷った。この時間に電話がかかってくるということは、だいたい異性と何かあったときなのだ。せっかく楽しみにしていた休みが、愚痴で潰れてしまうのはかなり嫌だった。

 いろいろ考えて迷っているうちに、着信音が止まった。メッセージが入るかもしれないと思って少しの間スマホを気にしていたけれど、来なかった。ちょっとした後ろめたさも感じつつ、ほっとしてドラマをふたたび再生した。

 久々に見たドラマは、期待以上におもしろい。テレビを見ること自体が久々なので、録画なのにCMまで面白く見えてくる。コーヒーを飲み終えたことに気づかずにもう一度口をつけるほど、私はドラマに集中していた。

 ピンポーン。

 え。今、インターホンが鳴った?

 もう時計は0時半を指そうとしている。まさか、ハルナがわざわざ家までやってきたのだろうか。いや、こんな時間なのだからきっとそうに違いない。……モニターをのぞいてみると、やっぱりそこにはうつむいているハルナがいた。絶対に話して気持ちを落ち着けたいほど大変な失恋でもしたのだろうか? 面倒だなあ。しかし相手はハルナだ。私がこの時間に家にいないことなんてないことは知っている。私は億劫な気持ちを抑えて、ドアを開けるしかなかった。

「やっほー!」

 私の顔を見たハルナは急に明るい笑顔になった。あれ、思ってたのと違う。

「どうしたの? 家まで来るなんて」

「出張で地ワイン買ってきたの。明日休みなんでしょ?」

 と、ハルナは笑顔で片手に持った紙袋からワインの瓶を出して、私に見せた。まさか、そんな理由で電話をかけてきてくれていたとは。なんだかとても嬉しくなって、今までの憂鬱感は消え去ってしまった。

 ……それにしても。なんでハルナは私が明日休みだと知っていたんだろうか。「ツイッターに書いてたじゃん」と不思議そうに答えるハルナ。そうだった、仕事が終わって帰りの電車に乗った瞬間、喜びのツイートをしたんだった。

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