待ち合わせ
もう約束の時間から30分が経とうとしている。キッチリとした性格のユイが、連絡の一つもよこさずにこんなに遅れるなんて。気の長い方ではあると思うが、そんな私でも少しいら立ってきていた。なにせ今日は人気のカフェでランチしようという話になっていて、私はすでにその人気店の席についてしまっているのだ。コーヒー一杯でテーブルを30分も占拠しているのだから、店側にも迷惑がられ始めているだろう。私も、嫌がられてもなお居座り続けられるほど図々しくはない。とにかくユイには今すぐ来てもらって、ランチを頼みたいのだ。
なんども手元のスマートフォンを確認する。相変わらず、私の送ったメッセージには既読すらついていない。
寝坊でもしたのだろうか、などと遅刻の原因を考えてみる。しかし、ユイは仕事が休みの日も同じ時間に起きると話していたし、起きたら昼だった、なんて話は10年来の付き合いだが一度も聞いたことがない。道に迷ったとか。いや、知らない街ならまだしもここは小さい頃から暮らす地元なのだ。いくら入ったことのない店でも、全く知らない場所ではないし、今どきスマホの地図アプリに案内してもらえば簡単にたどり着けるだろう。
……まさか、道中で事故に遭ったとか。いやいやさすがにそんなことあるわけない。でも、約束の時間からもうすぐ40分なのだ。遅れるなら必ず連絡を入れてくれるあのユイである。絶対におかしい。考えれば考えるほど、不安になってきた。
スマホを手に取り、急いで電話をする。電車の中だったらいけないとかけるのをためらっていたのだが、もはやそんなことはどうでもいい。ユイは無事だろうか。
そのとき、着信音が聞こえた。聞きなれた――そう、ユイが設定しているあの音楽。驚いて後ろを振り返る。そこには、文庫本を片手に鞄の中に手を入れる女性がいた。
「……ユイ?」
女性が振り返る。ユイだった。そういえばユイは電話以外の通知音はすべて切っていた。メッセージに気づかないまま、読書に耽っていたのだ。
「あれ、なかなか来ないって思ってたけど、もしかしてずっと背中合わせに座ってたの」
おもむろに話すその姿をみて、安心と同時に別の感情が湧き上がってくる。
「もう、心配して損したわ!」