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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第7章【12月・引っ越し】
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【4】













「結局、お姉さんって何者?」

「僕の姉」

「いや、それはわかってるわよ」


 夜、なんとなくメイの家に集合していた。住んでいるメイとニーヴはもちろん、入り浸っているルーシャン、さらにジーンとアンジー。


 話し合いの末、一応妥協点を見つけた。今、ルーシャンはニーヴと付き合っているし、別れるつもりはない。アンジーと納得いくまで話し合って、穏便に別れた……はずだ。


 それでもあきらめられない、というアンジーが動くのは自由だ。話し合ってお互いを知った結果、何故かニーヴと仲良くなっている。


「偉い人?」

「偉い人だね。僕もよくわからないけど、指揮系統的には一番上になるんじゃないかな」

「えっと……結局何者?」

「すごく頭のいい人かな」

「歳離れてる?」

「いや、アンジーの一つ上じゃないかな」

「うそでしょ!」


 アンジーが声を上げる。先ほどから何かを書いていたニーヴがスケッチブックを見せた。


『メイはリアン・オーダーの十二人会議のメンバーの一人で、参謀です』


 と書かれていた。まあ、そうだ。立場を説明するのはちょっと難しい。というか、ニーヴの中でもメイは戦闘員ではなく参謀らしい。

 先ほど、ここはメイの家だと言ったが、家主とジーンは夕食を作っているところだ。ジーンがお客様なので、ルーシャンとニーヴが手伝おうとしたのだが、追い払われた。確かに、ジーンとアンジーが残されても困るだろう。幸いというか、ジーンは器用だった。


「おい、フライパン振り回すな。あぶねえだろ!」

「落とさないよ。オーブンを見て」

「……焼けてるな。お前、おおざっぱなくせに料理は上手いな……」

「料理については慣れだよね」

「いや、お嬢様だったお前が料理も製菓もできるっつーのに驚いてんだよ」

「すごく今更だね。ジーン、塩取って」

「塩って、岩塩なのかよ……」


 メイの奇行に対するジーンのツッコミが面白い。ほどなく、二人が料理を運んできた。肉をオーブンで焼いた香草焼きにマッシュポテトとソーセージにシチュー、固めのパン。


「……多くない?」

「大丈夫だ、食べる。ジーンが」

「俺かよ」

「ジーン、ツッコミが止まらないね」


 ルーシャンが笑って言うと、「お前の姉ちゃん何とかしろよ」と言われる。無理だ。だってメイだ。恋人の責任でジーンが何とかしてほしい。

「あ、おいしい」

 アンジーが目を見開いて言った。ちなみに、シチューを食べての発言である。

「作ってる時から思ってたが、変わった味付けだな」

 うまいけど、とこれはジーン。ニーヴはちょくちょく食べているらしく、にこにこと肉をほおばっている。


「僕は懐かしいなぁ。ブラックバーンの郷土料理だよ」


 これにはニーヴもへえ、という顔をしたので、メイは話したことがなかったらしい。

「ブラックバーンって、アルビオンの南方の街よね。聞いたことなかったけど、ルーシャンってそこ出身?」

「うん。ウィンザー領の本拠地だし」

「今は王家の直轄地だけどね」

 それはメイが爵位を返上したからだ。というか、王家の領地に組み込まれているのか。

「姉さん、そういうのちゃんと把握してるんだ」

「一応はね。これでも、爵位を手放した責任を感じてるからね」

「絶対嘘」

 ジーンと声が被った。向かい側にいるルーシャンは免れたが、ジーンは足を蹴られたらしく、「痛ぇ!」と声を上げた。


「ルーシャンって元貴族なのね……リッジウェイ家には養子に入ったとは聞いていたけど」


 アンジーが言った。そういえば、ざっくりとしかその辺の説明をしていない。なぜかニーヴが満足そうな顔をしていた。

「十一の時までね。養子には勝手に入れられたんだけど」

 恨みを込めてメイを見ると、パンをちぎっていたメイがのんびりと言った。

「そりゃあ、所詮私たちは子供だったからね。大人に預けるのが筋でしょう」

「自分はそのままオーダーに来たくせに」

「反抗期だったんだな」

 いくら何でも返答が適当すぎる。これはツッコみたくもなるが、なんとなく、ああメイだなぁ、という気がする。


「おい、身内話はそれくらいにしろよ」


 アンジーを気遣ったジーンが言った。アンジーがジーンを見る。

「ありがとうございます。えーっと」

「ユージーン・カートライトだ。まあ、好きに呼べ」

「じゃあ、ジーンはお姉さんの旦那さん?」

「旦那じゃねぇな」

「恋人!」

 アンジーが目を輝かせる。女の人ってこういう話が好きだな。目が死ぬのはメイくらいだ。

「ちなみに私はメアリ・アストレア。お姉さん、はできればやめてほしいかな」

「メアリ……あ、私はアンジェリカ・マキオンです」

 ジーンが最初に正式名で名乗ったので、その後もなぜか正式名で名乗っている。

「メイもリッジウェイ?」

「いや、私はウィンザー。姓名変更の手続きをしてないから」

 養子に入っても姓が養父母のものに統一されるとは限らない。また、貴族の場合は、養子に入って姓が変わったことで継承権を放棄させられることもある。ルーシャンとレニーはこれだ。つまり、相続権は今、メイだけが持っている。相続も何も、メイがすべて生産精算してしまったのだが……。


「変わっ……印象的な名前よね。ルーシャンもだし、一族の特徴とか?」

「そこツッコむのか。お前すげぇな……」


 ジーンが感心したように言った。そう言うと言うことは、彼も気になっていたのだな。

「父さんが変な人だったもんねぇ」

「変な人だった」

「親父さんもメイには言われたくねぇだろ」

 再びジーンが蹴られる。メイは、『メアリ・アストレア』だし、ルーシャンは『ルーシャン・エクレシア』だ。どちらも、父がつけたミドルネームである。ついでに言うなら、比較的父の方が変人だったと思う。


「というか! 姉さんって入団する人の名簿とか見ないの?」


 顔が分からないのはともかく、アンジーの名前を聞いてもピンと来ていなかった。そもそも姉は人の顔と名前を覚えるのが不得手であるが、必要なことならどれだけでも頭に入ってくるタイプのはずだ。


「戦闘員なら見るけど、後方支援担当は後から見ることが多いな。けど、アンジーの場合は顔と名前が一致していなかった」

「姉さん、ホントにそれどうにかした方がいいと思うよ」

「メイ……キャラ濃くない?」


 キャラが濃いかはわからないが、インパクトはある。ちなみに、メイが酒を出そうとしたが、彼女は禁酒中であるのだが。

「一年の半分くらい、禁酒してる気がする」

「そんなに好きでもねぇだろ、お前」

「そういうなら内臓をいたわってあげなよ。いろんな意味で」

 いつもどんな思いでルーシャンが治療していると思っているのか。


 さらにデザートが出てきた。トライフルである。

「え、メイ、すごい」

 アンジーが目をしばたたかせながら言った。ニーヴがスケッチブックを掲げたので見ると、『メイはお菓子作りが趣味なのです』と書いてある。

「趣味の域、越えてるだろ」

「ジーン……ツッコミが止まらないね」

「それ、さっきも聞いたぞ」

 デザートを食べて温かい紅茶を飲んで、結局ルーシャンもジーンも、アンジーも泊まった。アンジーはさすがに遠慮したが、冬なので夜は寒いし、日が暮れるのが早いのだ。アイヴィー城城下は治安がいいが、それでも独り歩きするものではない。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ルーシャンとジーンの会話が書きやすい。


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