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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第7章【12月・引っ越し】
68/124

【2】

新年度ですね。また1年が始まるぅ。















「十一月十七日、現リアン・オーダー本部アイヴィー城においてグールとの交戦があった。その顛末と被害状況についてだが」


 アーノルドが事後処理がてら正確に被害を割り出してくれていた。メイはその間、療養していた。なんとなくあれから、みんな優しい。


「城の被害は、まあ見ての通りだな。詳しい人的被害、被害金額は資料を見ての通りだ」


 そう言われてメイも資料を見るが、被害の規模が大きすぎる。いや、不意打ちで襲撃を受けたことを考えればこんなものなのだろうか。

「資金面はどうにかなるけれど、人員の喪失は痛いわねぇ」

「こればっかりは、一朝一夕でどうにかなるものじゃねぇもんな」

 これはシズリー夫妻だ。資金面はどうにかしてくれるようだ。もう放棄が決まっているアイヴィー城とはいえ、喪失額はかなりのものだ。だが、ギルバートが言った通り人的被害の方が問題なのだ。失った命は戻らない。

「街の被害が少ないな」

「見てきたけど、大して壊れてなかったね。いや、いいことなんだけど」

 ナイジェルとトラヴィスだ。

「街の方に戦力を割いたからね。民間人優先」

「それには賛成するが、それでグールを倒すための戦力が減るのは、本末転倒だろう」

「……うーん」

 ナイジェルの指摘は痛いが、事実である。街の方に戦力を過剰に割いたのは井実で、そちらにもグールが集まっていたとはいえ、あれほどの戦力はいらなかったのでは、とは思う。


「城を襲撃してきたグールは、数がいたらどうにかなるタイプじゃなかったぜ」


 グレアムが助け舟のつもりかそう言った。結局、あの場にいた戦闘員の五分の一近くが戦死しているわけで。つまり、損害率二十パーセント。かなり高い。

「だとすると、必要最低限の人数だけ残して、残りは外に出していざというときの戦力保存を計ろうと考えたのか」

「……最悪の場合は、グールを活動停止にして城を爆破するつもりだったからね」

「はあ?」

「聞いてないぞ」

「言ってないからね」

 セアラやアーノルドから上がった言葉にメイはしれっと言う。最悪、あの場にいたみんなが盛大なおとりだったのだ。


「だからセアラたちには帰れって言った」

「いや、言葉足らずにもほどがあるぞ。わかんねぇよ」


 ギルバートにも突っ込まれる。が。


「まあ、作戦とかお前に丸投げだし、俺には非難する資格はないけど」

「……」

「……とにかく。使用できなくなった機材等は、新しいものを新本部の方に搬入する。減った人員は、増員があるまで現状を維持。すまんが、頼む」


 これには了解、の声が上がった。被害の全容を考えるといろんなところが痛いが、まあ、過ぎたことは仕方がない。

「少し思ったんだが、メイ」

「何?」

 座席的に、いつも年少のメイとジーンは隣になる。隣のジーンからの問いかけだった。


「あのグール、核が四つあるだけじゃなくて、お前の行動を読んでたよな?」


 会議の終盤、意見交換の時間にジーンがそう尋ねてきた。核が三つあるグールはこれまでも目撃情報があったが、四つあるのは初めてだった。なので、これも報告済みである。


「私の考えを読んでいたわけではないと思う。同じように、通信を傍受したわけでもないね。そもそも、私は怒鳴ってたし」

「確かに」


 ギルバートが相槌を打つが話を続ける。

「おそらく、未来予知ができたんじゃないかと思う」

「は? グールにそんな奴いるの?」

「まあ、超能力を使えるグールがいるんだから、いるんじゃないか」

 研究者であるグレアムがそういうので、みんな一応納得したようだ。

「確かに動きが不自然だったよなー。ジーンじゃないけど、先読みされている感じはした」

 これだけ証言がそろうのだから、実際に未来視の能力があったのだと思う。


「お前、そんなこと一言も言ってないよな?」


 ギルバートが責めるように言うので、メイは「言うのを忘れていた」と応じた。グールの統計を取っているので、報告すべきだった。


「予知と言っても、せいぜい二秒から六秒の未来を見る能力だったのだと思う。そういう能力者は、波状攻撃や物量攻撃に弱いと相場が決まっている」

「だから魔術師をかき集めたのか……」

「ナイジェルがいれば、一人で対応ができたはずってことね」


 ギルバートとセアラが納得したようにうなずいている。

「それができなかったから、グールに接近できる剣士が必要で、それができるのがあの時私とグレアムしかいなかったので、この被害というわけだね」

「……まあ、基本、本部には最低限の人員しか置いていないからな……」

 意見のぶつかることの多いナイジェルだが、さすがにここは同情的だった。事実として、人員が足りていないので。

「ってことは、やっぱり人手不足が問題かぁ? 戦闘員の確保はできなくはないけど」

「ギルバート様。戦術家が欲しい。本物の」

「いや無理だろ本物は。まあ、お前の補佐ができるやつはいるなぁと思ってんだよ」

 ギルバートが悩む。再びジーンがメイに尋ねた。


「お前、自分で作戦担当希望したのか?」

「そんなわけないでしょ。今でも前線勤務希望なのだけど」

「ああ、そう……」


 能力と希望が一致していないメイであった。


「先代のシズリー公爵が、私を引き取ったときにオーダーの参謀にするつもりだったみたいだね。前の参謀が非戦闘員で、戦いに巻き込まれて重傷を負ったから、私には戦闘訓練を受けさせたみたいだけど。まあ、十六までは下積みだよね」


 十二人会議に入るにはいくつか条件がいる。メイは早い段階でその条件を満たしたが、作為的なものが見えないでもない。ギルバートの父はメイを参謀候補として引き入れたが、実際に参謀として働くにはそれなりの実績が必要だった。人に指示を出す立場だからだ。

「一から育てたってことか……お前の場合は前科があるもんなぁ」

「それ、私が家の残務を処理したこと?」


 それは前科ではない。


 ひとまず、これ以上会議をしても何も決まらないので、問題点をまとめるだけで解散とした。

「やっぱりお前、頭おかしいよな……」

「私も最近、ルーやグレアムに脳をトレースされるんじゃないかと戦々恐々としている」

「絶対嘘だろ。まあ、グレアムはやるかもしれねぇが」

 ジーンが苦笑して応じた。メイが並んで歩いていくので、リサたちが「何があったの?」と驚いている。

 廊下にはみ出ているカフェエリアの方へ行くと、何か騒いでいた。騒ぎの中心は驚いたことにルーシャンだった。しがみついたニーヴが女性とにらみ合っている。

 思わず隣のジーンと顔を見合わせてしまった。ここは見なかったことにしよう。だが、逃げる前にルーシャンが声を上げた。


「姉さん、ヘルプ!」

「……お前、行って来いよ」

「あそこに?」


 修羅場にしか見えないのだが。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


メイは物量攻撃がお好き。


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